ポルシェ・カイエンS(4WD/8AT)【試乗記】
さらにポルシェらしく 2011.01.25 試乗記 ポルシェ・カイエンS(4WD/8AT)……1177万9000円
パワーアップしたエンジンと、多段化したトランスミッションを搭載して上陸した、新型「ポルシェ・カイエン」。その走りはどう変わったのか? NAの上級モデル「カイエンS」に試乗した。
青っぽさが抜けた
あらためて見る新型「カイエン」、いかにも自信ありげでイイ顔になったと思う。あの偉大なる「911」すら凌駕(りょうが)して、世界中で売れに売れた経験が、最初は「911(996型)」とウリふたつで、次にマイナーチェンジで怒ったような顔をしてみせたりした「カイエン」君に余裕を与えたらしい。
ポルシェが作るSUVと聞けば、誰もがまずはスポーツカーに迫るパフォーマンスを期待するだろう。新型はそれがより一層ストレートに伝わってくるようになったという意味でも、良いデザインになったと思う。新型の“体つき”は、豊満でありながら筋肉質。それでいて、顔つきはシャープ。円熟期に入って青っぽさが抜けたスポーツ選手の居ずまいというか、余裕のあるふてぶてしさ(?)すらにじむようになった(もちろんいい意味でだ)。
外観だけでなく、コクピットもスポーツカー的な緊張感を漂わせるものになった。ダッシュボードが全幅いっぱいに直線的に広がり、メーターパネルとステアリングの位置関係がおたがいに近い。これはまちがいなくポルシェのインテリアの伝統を踏まえての造形である。その一方で、いまどきのポルシェであることを認識させられるのが、「パナメーラ」似の幅広なセンターコンソールである。当代一のスイッチフェチの称号を与えたくなるくらいたくさんのボタンを並べたセンターコンソールは、比較的高い位置に設置されていることもあり、全長4.8m×全幅1.9m級のクルマにしては窮屈な、スポーティな運転席が演出されている。
高速巡航がさらに快適に
今回試した「カイエンS」は、シリーズの中核を担うモデルという位置づけで、400psと51.0kgmを発生する4.8リッターV8エンジンを搭載している。旧型と比べて最高出力が15ps強化されているが、トルクに変化はなし。引き続きSUV界の「911カレラ」と呼ぶにふさわしい動力性能を備えているものの、絶対的な性能自体はあまり変わったようには思えない。
しかし、車重が約180kgも軽量化されているおかげで、スロットルペダルの操作に対するツキが良くなったというか、車体の動き出しに、スッ、スッと気持ちのいい軽さが加わったように感じられる。
そして、それ以上に変わったと思えるのが高速巡航時における静粛性である。ティプトロニック(トルコンAT。カイエンはPDKではない)が、一気に6段から8段まで増やされたおかげでギアリングが見直され、たとえば100km/h時のエンジン回転数は8速で1500rpmにすぎない。室内は一段と静かで快適である。たぶん燃費もそれ相応に改善されているはずだ。
ところで、多段化で心配なのがシフトアップ&ダウンを頻繁に繰り返す“ビジーシフト”である。「カイエンS」の場合、Dレンジ固定で約85km/hで8速に入る。ここでキックダウンを与えると、なんと3速まで一気に5段落ちるのだから恐れ入る。
もっとも、これは極端なケースで、4.8リッターV8エンジンには潤沢なトルクが備わっているから、それほど派手にシフトダウンしなくても加速できてしまうケースがほとんどだ。またティプトロニックの変速スピードがそれほど過敏ではなく、いくぶん鷹揚(おうよう)なところも、いい方向に働いているように感じられた。
ポルシェ濃度が濃くなった
約180kg軽くなったといっても、「カイエンS」はまだ2トンを優に超える“重量車”である。その乗り心地は、どっしりと安定したもので、この重いクルマ特有の乗り心地というものは、これから軽量・高効率のエコカーが増えていくにつれて、なかなか体験できないものになっていくに違いない。これぞ、真のぜいたくだ!
さらにこの乗り心地だが、新型は足まわりが一段とよく動くようになっただけでなく、足元が軽くなった印象もあり、重々しい中にも軽妙さが加わったように感じられる。電子制御ダンパーPASMのスイッチを「コンフォート」にセットして、道の流れに乗って淡々と巡航すれば、まるでサルーンのように快適だ。
逆に「スポーツ」を選んでサスペンションを締め上げれば、路面の状況を素直に伝えてくる素性の良いハンドリングマシンに早変わりする。ブレーキの素晴らしさも相変わらずで、効きそのものはもちろん、剛性感に満ちたペダルタッチもさすがポルシェとうならされる部分である。実用車からスポーツカーまでの守備範囲を一段と広げた新型「カイエン」。ポルシェらしい確かな手応えと機微の表現についても、旧型より確実に腕を上げたように思える。
(文=竹下元太郎/写真=郡大二郎)

竹下 元太郎
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