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第253回:これ以上速い必要は1ミリもない

2023.03.06 カーマニア人間国宝への道 清水 草一

プジョーのネオクラシックカーに乗る

ちょいワル特急こと「プジョー508」を買った横浜のフランス車専門店MAMAの東條氏から、メッセージが入った。

ご無沙汰しております!
本日たまたま入庫した「プジョー106 S16」が、あまりにも快調すぎて、マフラーが中盤から鳴き混じりの快音を響かせるので、先生の「フェラーリ328」を思い出しました!
専門店ながら、初めてここまでコンディションの良い子に会えました! 新車時はきっとこんなに楽しいクルマだったんだろうなーと、思いをはせています。
お時間があれば、床が抜けるまで全開踏み切りで乗っていただければ幸いです!

プジョー106 S16といえば、かつてマニアをとりこにしたマニアックな名車だが、個人的には深い興味を抱いたことはなく、試乗した経験もほとんどない。なにしろ私は30年来、フェラーリ様という、左ハンドルMTの「速さじゃない快楽マシン」(の極北)に乗っている。よって、どんなにサイズが違おうとも、左ハンドルMTの「速さじゃない快楽マシン」を、もう一台買おうとは思わなかったのだ。

なぜなら、かつて「アルファ・ロメオ155ツインスパーク」という、左ハンドルMTの「速さじゃない快楽マシン」を購入した時、大好きだけどフェラーリ様と方向性がかぶりまくり、年がら年中「うおおおお!」と叫ぶことに疲れを覚え、手放したからだ。当時私は、同じ過ちは繰り返すまいと心に誓ったのである。

もちろん、今となってはそんなことはどうでもいい。プジョー106は、もはやネオクラシックカーだ。カーマニアとして、ベストコンディションの個体に乗ってみたい!

私は速攻で「辰巳PAに集合しましょう!」と返信したのであった。

横浜のフランス車専門店MAMAの東條氏が仕入れた1998年の「プジョー106 S16」に試乗した。東條氏は「これまで何十台も106を仕入れてますけど、ここまで程度のいい個体は初めてです」と、そのコンディションに太鼓判を押す。
横浜のフランス車専門店MAMAの東條氏が仕入れた1998年の「プジョー106 S16」に試乗した。東條氏は「これまで何十台も106を仕入れてますけど、ここまで程度のいい個体は初めてです」と、そのコンディションに太鼓判を押す。拡大
私がフランス車専門店MAMAで購入したちょいワル特急こと「プジョー508」。2018年式で走行4.2万km、車両本体価格は299万円だった。
私がフランス車専門店MAMAで購入したちょいワル特急こと「プジョー508」。2018年式で走行4.2万km、車両本体価格は299万円だった。拡大
「プジョー106」は、もはやネオクラシックカー。カーマニアとしてベストコンディションの個体に乗ってみたいとの思いから、首都高・辰巳PAでMAMAの東條氏と落ち合うことにした。
「プジョー106」は、もはやネオクラシックカー。カーマニアとしてベストコンディションの個体に乗ってみたいとの思いから、首都高・辰巳PAでMAMAの東條氏と落ち合うことにした。拡大
MAMAの販売車両である今回の「プジョー106」は、MOMOの本革巻きステアリングホイールやカロッツェリアのブルートゥース対応オーディオ、「ボルクレーシングTE37」ホイールなどでカスタマイズされていた。
MAMAの販売車両である今回の「プジョー106」は、MOMOの本革巻きステアリングホイールやカロッツェリアのブルートゥース対応オーディオ、「ボルクレーシングTE37」ホイールなどでカスタマイズされていた。拡大

天然で生卵が割れないシート

夜8時、ちょいワル特急こと愛車のプジョー508で辰巳PAへ向かう。ちょいワルもプジョーはプジョー。何もかも違いすぎて同じブランドとは思えないが、ごくたまにイーカゲンなところが垣間見え、フレンチ風味が残っていることにヨロコビを覚える。

辰巳PAに到着して数分後、金色の106 S16が姿を現し、わが508の隣に駐車した。並べてみると、サイズの違いに仰天する。「1」と「5」だから違ってアタリマエだが。

東條:清水先生! これまで何十台も106を仕入れてますけど、ここまでの個体は初めてなんですよ。めちゃめちゃ好きな人じゃないと買わない価格設定ですけど!

めちゃめちゃ好きな人じゃないと買わない価格設定。ううむ、それはいったいどれくらいの価格設定なのだろう。106の相場なんて見当もつかないが、最近のネオクラシックスポーツの高騰を考えると、「ぎえ~~~~っ!」と叫んでしまうくらいお高いのだろう。もうお高いのには慣れっこだ。上等だぜ!

106のドアを開けてまず目に飛び込んできたのは、田舎っぽくてセンスのないシートの柄だった。1990年代に「306ブレーク」を買った時も、この柄に「フランス車なのになぜこんなにダサい?」と思ったものだ。もちろんいまさらそんなことはどうでもいい。これはネオクラシックカーなのだから。

運転席に座る。うおおおお~っ! これだよこれ! これがプジョー本来のふんわかシート! ちょいワルのシートはドイツ車以上に固くてケツが痛くなるので、ロングドライブでは通販で買った「生卵の上に座っても割れないクッション」を敷いているが、106のシートは天然で生卵が割れないっ!

「プジョー508」と「106」を並べてみると、そのサイズの違いに驚く。まあ、508はフラッグシップサルーンで106は当時のエントリーモデルだから、その差もむべなるかな。
「プジョー508」と「106」を並べてみると、そのサイズの違いに驚く。まあ、508はフラッグシップサルーンで106は当時のエントリーモデルだから、その差もむべなるかな。拡大
「106」のドアを開けてまず目に飛び込んできたのは、田舎っぽくてセンスのないシートの柄。フランス車なのになぜこんなにダサいのか? でもいまさらそんなことはどうでもいい。なんたって106はネオクラシックカーなのだから。
「106」のドアを開けてまず目に飛び込んできたのは、田舎っぽくてセンスのないシートの柄。フランス車なのになぜこんなにダサいのか? でもいまさらそんなことはどうでもいい。なんたって106はネオクラシックカーなのだから。拡大
走行距離は4.8万kmで、タイミングベルトやエンジンマウントは交換済み。MAMAの東條氏が言うようにとても25年落ちとは思えないコンディションだ。
走行距離は4.8万kmで、タイミングベルトやエンジンマウントは交換済み。MAMAの東條氏が言うようにとても25年落ちとは思えないコンディションだ。拡大
シフトレバーはなぜか水中花シフトノブに交換されていた。ちなみに水中花シフトノブという呼び名は俗称で、商品名は「アクリルフラワーノブ」というらしい。
シフトレバーはなぜか水中花シフトノブに交換されていた。ちなみに水中花シフトノブという呼び名は俗称で、商品名は「アクリルフラワーノブ」というらしい。拡大

これぞ古き良きフランス車

キーをひねり、エンジンをかける。マフラーはかなりの重低音だ。ゆっくりと発進して、新設された辰巳ジャンプ台をゆっくり越え、そこからフル加速をかます。

「くあああああ~~~~~~~~ん」

おおっ! これぞ速さじゃない快楽! 4000rpmを超えると2本のカムに乗りまくり、20世紀の快音を響かせる! 大事なのは速さじゃないけど、これは決して遅くない! むしろ速い! 十分すぎるほど速いっ! サスはしなやかでハンドリングもしっかりしている。25年落ちとは思えないぜっ!

20世紀のフランス車は、一見どーってことなくても、どれだけ走っても疲れない接地性の良さがあった。106 S16の新車時のセッティングは知らないが、とにかく今この状態は、古き良きフランス車そのものに近い!

オレ:東條さん、スバラシイね!
東條:スバラシイですか!
オレ:スバラシイよ! クルマはこれ以上速い必要は1ミリもない! プジョー106 S16が世界最速で問題ない!
東條:たったの118PS、リアサスはトレーリングアームですけど、問題ないですよね!
オレ:ないっ! クルマは20世紀から1ミリも進歩する必要などなかったんだ!
東條:そう言っていただけてよかったです!
オレ:ところで、めちゃめちゃ好きな人じゃないと買わないという価格設定なんだけど、300万円くらい?
東條:とんでもない! 180万円です。
オレ:ぎえ~~~~っ! そんなに安いの~~~~っ!?

なんかもう、ネオクラシックスポーツというと、新車価格より高くなってて当然みたいになっているが、106はマニアックすぎるのか、馬力が低いせいなのか、まだそこまでいっていないらしい。よかった。

(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

東條氏が用意してくれた「106 S16」には、フランス車専門のチューニングショップJ.ENGINEが手がけた排気システムやセンターマフラー、ビルシュタインのサスペンションなどが組み込まれていた。ボディーカラーは「ブレイズゴールド」と呼ばれる金色で、夜の辰巳PAにもよく似合っている。
東條氏が用意してくれた「106 S16」には、フランス車専門のチューニングショップJ.ENGINEが手がけた排気システムやセンターマフラー、ビルシュタインのサスペンションなどが組み込まれていた。ボディーカラーは「ブレイズゴールド」と呼ばれる金色で、夜の辰巳PAにもよく似合っている。拡大
フロントに横置きされる1.6リッター直4 DOHC 16バルブエンジンは最高出力118PS、最大トルク142N・mを発生。写真のOMP製ストラットタワーバーは、標準仕様にはない後から加えられたカスタマイズアイテムだ。
フロントに横置きされる1.6リッター直4 DOHC 16バルブエンジンは最高出力118PS、最大トルク142N・mを発生。写真のOMP製ストラットタワーバーは、標準仕様にはない後から加えられたカスタマイズアイテムだ。拡大
「106 S16」は十分すぎるほど速く、 サスはしなやかでハンドリングもしっかりしている。とても25年落ちとは思えないパフォーマンスだった。とにかく今のこの状態は、古き良きフランス車そのものに近いと断言してしまおう。
「106 S16」は十分すぎるほど速く、 サスはしなやかでハンドリングもしっかりしている。とても25年落ちとは思えないパフォーマンスだった。とにかく今のこの状態は、古き良きフランス車そのものに近いと断言してしまおう。拡大
1990年代を駆け抜けたプジョーのホットハッチ「106 S16」の走りを味わうと、「クルマはこれ以上速い必要は1ミリもない!」とあらためて思えた。しかもネオクラシックスポーツなのに180万円で買えるとは、ぎえ~~~~っ! そんなに安いの~~~~っ!?
1990年代を駆け抜けたプジョーのホットハッチ「106 S16」の走りを味わうと、「クルマはこれ以上速い必要は1ミリもない!」とあらためて思えた。しかもネオクラシックスポーツなのに180万円で買えるとは、ぎえ~~~~っ! そんなに安いの~~~~っ!?拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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