ヘルメットもまともにかぶれないの!? 意識の低いライダーが招くバイクの暗い未来
2023.03.31 デイリーコラム事故死亡者は減っているものの……
読者諸兄姉の皆さま、ことに平素からバイクの記事を読まれる方におかれては、今回の話はややキツい内容となるかもしれない。恐縮だが、ハラを据えてご一読ください。
めでたくも今年で開催50回を迎えた、日本を代表するバイクの祭典「東京モーターサイクルショー」。そのメインステージにおいて、日本自動車工業会 二輪車委員会(以下、自工会)が、とある動画を公開した。その名も「梅本まどかと宮城光のセーフティ ライディング!」。……タイトルは明るいが、その中身は安全なライディングを促す、いわゆる啓発動画である。
過日の自工会メディアミーティング(自工会と二輪メディアの意見交換会)で語られたところによると、2022年のライダーの交通事故死者数は435人と、前年より28人減少した。これまでの推移を見ても、2020年に一度だけ増加したものの、ここ10年はずっと減少傾向。その数は対2012年比で55%と、10年で半数近くまで減ったことになる。
また、自工会ではライダーの事故死者数を2030年までにさらに半減(対2021年比、526人→263人)させる計画を進行中で、それに合わせたロードマップも策定している。その初年の2021年と2年目にあたる2022年は、ともに事故死者数が達成目標を大きく“下回った”。少なくとも現状では、事故死者は想定より速く、大きく減少していると言ってよさそうだ。
しかし、テーブルに並ぶ自工会の面々は「ここからさらに事故死者数を減らすには、相当な努力が必要」と難しい顔。理由は、彼らにとって喜ばしくない事実も浮き彫りになってきたからだ。
そのひとつが、死亡事故におけるヘルメットの離脱率。ITARDA(交通事故総合分析センター)の調査によると、これがおおむね30%と、全く減っていないのだ。それもここ数年の話ではない。25年間ずっとだ。
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自工会の啓発活動はムダだった?
言うまでもないことだが、事故時にヘルメットが脱げてしまうと、ライダーの死亡率は一気に跳ね上がる。分かりやすいのが事故件数に対する死亡事故件数の比率で、頭部損傷をともなう事故の場合は、その数字が3.49倍(5.35%→18.68%)、顔部・頭部を損傷する事故の場合は4.15倍(3.42%→14.19%)となる。2022年の統計を見ると、ヘルメットの離脱が見られた事故での死者数は154人。そのうちの91人が、頭部ないし顔部の損傷によるものだった。自工会によれば、ヘルメットが脱げなければ64~69人の方が亡くならずに済んだかもしれないという。
では、なぜ事故の際にヘルメットが脱げてしまうのか? 正しく装着されたヘルメットが衝撃で脱げてしまう、あるいは留め具が外れる/壊れるというケースは非常にまれだ。亡くなった方を悪く言うのは忍びないが、最大の理由は、「ライダーがアゴ紐(ひも)をちゃんとしていなかったから」なのだ。
本稿の冒頭で紹介した自工会の動画にも、アゴ紐締結の啓発(と胸部プロテクターの普及)を目的にしたものが含まれているのだが……皆さん、ちょっと考えてみてほしい。ヘルメットのアゴ紐を締めるなんて、四輪車で言えば「シートベルトを締める」のと同じレベルの、運転の“基本のき”だ。啓もうだ啓発だというはるか以前の問題なのに、それでも自工会が注意を喚起しなければならず、それでもアゴ紐をしないライダーの数が減っていない実態が、ITARDAの調査で浮き彫りになったのだ。
自工会の川瀬信昭氏は今回のリポートについて、「この状態が25年間続いているというのは、かなり衝撃的。自分たちの活動に限界を感じている」と吐露。その率直な物言いに、鈍い記者もコトの深刻さをさすがに理解した。
もう“規制と強制”に頼るしかないのか
自工会ではヘルメットの正しい装着に加え、今後は死亡事故の低減に有効な胸部プロテクターの認知向上・普及にも取り組んでいくという。……が、果たして彼らの啓もう活動は、どれほど効果を発揮するのだろう? 前述の調査結果は、ライダーの自律心についても疑問を投げかけている気がするのだが。
案の定というかなんというか、その後の意見交換では、議論はまず“規制と強制”の方向に向かった。いわく「クルマで普及が進んでいるドライバーモニターをバイクにも装備し、アゴ紐をしないと発進できないようにしてしまえ」。いわく「道路交通法でアゴ紐の固定を明文化し(現状ではアゴ紐の付いたヘルメットを着用する義務は定められているが、『アゴ紐を締めなければならない』という文面はない)、警察に取り締まってもらうしかない」
……長年にわたり自動車メディアの末席を汚してきた身からしたら、なんか見覚えのある光景である。実際、四輪車のかいわいでは取り締まりの強化がシートベルトの装着率向上につながった過去がある。ドライバーの怠惰を叱責(しっせき)する、監視・警告システムの類いも、今となっては有用性に異論をはさむ余地はない。恥を忍んで白状すると、記者自身も、わき見運転検知システムなどから“おしかり”を受けることが、ないわけではないのだ。
しかし一方で、「ハードウエアによる安全の追求」に大きく舵を切った四輪車では、ABSにESC、自動緊急ブレーキ、接近警報装置、急発進抑制機構……と、満艦飾な機能・装備が製品の価格上昇を促進。ユーザーはもちろん、メーカーまでも苦しめる事態となっている(参照)。
法改正と取り締まりに軸足をおいた施策についても、正直なところ皆ぞっとしないのではないか。街のそこら中で警官が待ち伏せているような世界で、私たちはそれでもバイクに乗りたいと思うだろうか?
というか、そもそもそんなものに頼らないとアゴ紐ひとつできないなんて、ちょっと情けなくないか?
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みんな大人なんだからさ
一知半解とはいえ四輪・二輪の双方を取材している記者からすると、(そんなことはないという意見もありましょうが)つくづくバイクは、その運用や取り締まりにおいて、多くの部分がグレーゾーンで守られていると思う。“すり抜け”に対する取り締まりの在り方ひとつとっても、そうだろう。バイクの有用性は、「あなたたちも大人なんだから、大丈夫よね?」という暗黙の約束によって担保されているのだ。でなければ、さまざまな交通参加者が入り乱れる日本の道路を、こんなキケンな乗り物が闊歩(かっぽ)できるわけがないだろう。
しかしこうした待遇は、世の信用を反故(ほご)にすれば、簡単に失われてしまう。安全装備の義務化によってバイクが高価で鈍重な乗り物と化し、ライダーの一挙手一投足が取り締まりの対象になってから、「あの時みんなで気をつけていれば……」では遅いのだ。
自工会が「死亡事故半減」を掲げる2030年に、私たちはどんなバイクに、どんな風に乗っていたいか。Dリングにアゴ紐を通しながら、あるいはこちらの動画を見ながら、ちょっと考えてみてください。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=webCG/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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