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第35回:「ホントに失礼だな(笑)」 小沢コージがマツダの丸本 明社長を直撃!(前編)

2023.05.02 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ 小沢 コージ

マツダの逆張り戦略を考える

みなさまご無沙汰、小沢コージです。突然ですが、去年から勝手にもんもんと心配していることがありました。それはマツダが満を持してリリースしたラージ商品群第1弾の「CX-60」!

クルマ好きにはたまらんFRの完全新骨格のオールニューSUVで、当初は乗り心地の硬さなども問題になりましたが、見てくれは骨太な欧風フォルムに和のエレガントさもまぶしてあるし、なにより直6ディーゼルのトルク感とステアリングフィールがすごすぎる! 特に今年追加されたFRグレードは見事に“マツダ流SUVロードスター”を体現しております。

が、声高には言いませんが、こんな戦略アリなのか? と根強く思ってたのも事実。先日、EUの2035年のエンジン車全面禁止こそカーボンニュートラル燃料使用車に限って軟化しましたが、世の中どう考えても流れは自動車の電動化であり、電気自動車(EV)化。そんななか、CX-60はいまどきあり得ない新型直列6気筒のそれもディーゼルエンジンで、骨格も完全新規のFRプラットフォーム。一応、プラグインハイブリッド車(PHEV)やマイルドハイブリッド車(MHEV)もありますが、特にPHEVは1割売れればいいほう。

加えて今後はサイズ&シートレイアウト違いの「CX-70」「CX-80」「CX-90」と世界展開する予定。電動化時代にあえて全面ガチンコの新作エンジン車。この子どもでも心配になる逆張り作戦はどこに勝算が? 小沢コージが独自に、6月に勇退予定のマツダの丸本 明社長を直撃してみましたっ!!

他社がEV化を推し進める時代に、なぜマツダは直6エンジンを復活させたのか!? マツダの丸本 明社長にぶつけてきました。
他社がEV化を推し進める時代に、なぜマツダは直6エンジンを復活させたのか!? マツダの丸本 明社長にぶつけてきました。拡大
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CX-60戦略は賭けではないのか?

小沢:今回はありがとうございます、丸本社長! まさか本当に取材を受けていただけるとは。

丸本:あのときは酔ってたからね(笑)。

小沢:先日は立ち話で失礼にも「CX-60の戦略は賭けじゃないか?」と言いまして……。

丸本:ああ、ホントに失礼だよね(笑)。

小沢:でもやっぱり聞きたいのはそこなんです。先日、EUの2035年エンジンゼロ方針こそ撤回されましたが、イマドキ6気筒の新型ディーゼルエンジンに、しかも新型FR骨格をつくるってマジですかと。時代的には一見逆張りだし、アマノジャク戦略もいいとこ。イマドキ、欧州メーカーは新作エンジンすらつくってませんから!

丸本:実はつくってますけどね(笑)。まあ最初に言っておきますが、マツダの人間は誰も逆張りだなんて思っていません。

小沢:しかし今やジャガーが2025年、メルセデス・ベンツが2030年、あのレクサスですら2035年のEVブランド化をうたっておりまして……。エンジンだってボルボは6発どころか多くて4発、最近では3発に減らす方向で。

丸本:では聞きますが、6気筒をつくるのって何が大変なの?

小沢:いやいや、どう考えても新しい工作機械が要るだろうし、新しい生産ラインも要りますよね?

丸本:まったく必要ない。まずはアナタ、いろいろ言う前にマツダの工場を見に来なきゃ。それにCX-60は2022年発売で、いつまでエンジンつくるかって考えたときに、欧州で2035年に販売禁止っていっても読めない部分はあるし、北米の環境に厳しい州以外や日本、豪州での全面禁止は決まっていない。少なくともあと13年はつくり続けられるわけですよ。

小沢:確かに。まだまだエンジン禁止のディテールは変わりそうですね。

丸本:その13年を短いとみるか長いとみるかという議論がひとつあって、さらにわれわれは「ビルディングブロック」という考え方で技術や知見をどう積み上げて長く生かせるかを常に考えています。例えば新開発の3.3リッター直6ディーゼルですが、シリンダーを共有する2.2リッター直4と、燃焼メカニズムもある程度共有できる。既にわれわれの手の内にある制御技術なんです。

小沢:ぶっちゃけ、言うほど大変ではないと?

丸本:大変ですけどゼロから開発するわけじゃない。それに新型6気筒の生産が大変ですねって言うけど、今のマツダは機械加工にマシニングセンターという自由度の高い工作機でいろんなパーツをつくるし、制御は100%マツダが行い、メンテナンスもやっている。しかもそれでエンジンブロックやヘッドをつくっていますが、一部は十数年使っていますから自然と設備更新のタイミングがくる。要は新型直6といっても一部の4気筒用の古い機械を幅の長い新しい機械に入れ替えればいいわけです。

小沢:決して大きい投資じゃない?

丸本:皆さんが思うような額ではありません。

小沢:とはいえ新作FRプラットフォームは大変ではないのかと。

丸本:大変ですけど専用ラインは必要ではありません。車体のサブアッセンブリーをセル方式にすることにより、既存のFFラインへの自然な混流ができています。ビルディングブロック戦略は開発だけでなく生産にも生かせますし、CXー60のラインは将来のEV生産ラインに対する投資でもあるんです。われわれはお金のない会社なので、何にお金をかけるかはトコトン考え抜きますから。

写真左が小沢で右が丸本社長。まだ失礼なことを聞く前なので、和やかな雰囲気だ。
写真左が小沢で右が丸本社長。まだ失礼なことを聞く前なので、和やかな雰囲気だ。拡大
問題の「CX-60」がこちら。同じプラットフォームを使って「CX-70」「CX-80」「CX-90」もつくるというではないか!
問題の「CX-60」がこちら。同じプラットフォームを使って「CX-70」「CX-80」「CX-90」もつくるというではないか!拡大

電動化のほうがよほどお金がかかる

小沢:一方、2022年末におっしゃっていたのが、マツダは今後10年間で電動化に1兆5000億円を投資するということ。そっちのほうがもしや全然大きい?

丸本:生々しい話なんで細かくは言いませんが、海外で向こうの電池メーカーと共同で電池工場をつくりますとなると、年間40GWhぐらいの規模で3000億円くらいかかる。しかも工場内に電池のアッセンブリーラインをつくったとして1本で年間せいぜい4~5万台分ぐらいです。つまりEVを年間20万台つくるとすると電池のラインだけで4~5本は要る。

小沢:大量生産のプロたる丸本社長から見ると、新作の直6・FR車のラインより新作EVのラインのほうがよほどお金がかかる感覚だと?

丸本:感覚ではなく事実として。そもそも電池はセルの製造工程で乾燥にものすごいエネルギーを必要とするし、半導体製造と同様にコンタミネーション、つまり異物混入に気を使う。それを管理する人間のオペレーションだけでも別次元に大変なんです。

小沢:簡単にEV生産とか言っちゃいけない理由が分かってきた気がしました。すんごくお金がかかるんですね。電池以外に生産設備にも。ただし、先日社長はおっしゃってました。最初にFR計画を聞いたときに机をたたいて怒ったと。「何をバカなこと考えてる!」と。

丸本:確かに怒りました。ただ、それは新作FRの計画だけでビルディングブロック戦略につながっていなかったから。直6・FRの技術がEVにも生かせる、マツダのハイブリッドにも生かせると分かってからは綿密に考えました。例えば今回、PHEVとMHEVの生産で電池の挟み込み技術と制御技術を手の内化し、マツダ社内で100%内製化できるようになりました。先進運転支援装備の技術やFR車の加減速統合制御技術も同じ。それはすべてEV生産に生かせるのです。EV時代は後輪駆動車の時代でもあるので。

小沢:今の投資はほぼすべてFR車だけでなく、未来のマツダ車にもつながると。

丸本:直接使えないのは直6エンジンと8段ATの技術ぐらいかな。

小沢:なるほど。ムダどころか生産設備を骨までしゃぶるような作戦なんだと、マツダCX-60のビルディングブロック戦略は。

丸本:われわれから見ると全然無理筋ではありません。何が賭けだ……逆張りだと(笑)。

小沢:す、すいません……。では現状のCX-60の販売、4月末で国内が約2万台、欧州が受注含みで3万台とのことですが、これについてはどうでしょう?

丸本:ほぼ計画どおり。まあ、北米用のCX-90が立ち上がったらたぶん一杯になると思いますね。今の防府工場の生産キャパシティーが。

小沢:だいたい年間10万台狙いですか?

丸本:まだまだ少ない。今後はワイドボディーのCX-70とか国内向け3列シートのCX-80なんかも出てきますから。

小沢:少なくとも年間20万~30万台はつくりたいですよね。「CX-5」と同じように。

丸本:それに仮に30万台が目標としても、30万台分の生産設備を一気につくるつもりはないんです。まずはちゃんとした売り方をしてほしいし、生産台数は実績を見ながら段階的に増やしていくつもりです。最初にCX-60の欧州向けが立ち上がり日本でも販売し、今はCXー90の生産が始まって、1年ぐらいかけて段階的に投資する計画。この計画は既にマーケットに伝えていますし、ちゃんと売れたら次の投資をするんです。

小沢:これまたビルディングブロック的で、マツダは適切な投資を適切なタイミングで行い、賭けどころか非常に綿密なリスクマネジメントをしていると。ボディーサイズが違っても同様につくれるモデルベース開発もそうですし、直4エンジンと直6エンジンのつくり分けもそう。いかにムダなくフレキシブルにつくるかみたいなところがマツダ最大の武器で、生産量に対してもフレキシブルに対応する。

丸本:われわれは「段階投資」という言い方をしていて、次に能力を増やすには何が必要で、どれだけの投資が要るかを階段で見ている。最初は3つの階段があるとしても、最初は1段階で、ちゃんと売れたら残りの2つの階段をやりましょうと。

小沢:重々分かりました。CX-60は賭けではないと(苦笑)。

(後編に続く)

(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

丸本社長「直6エンジンを積むFR車よりも、EVのほうがよっぽどお金がかかります」
丸本社長「直6エンジンを積むFR車よりも、EVのほうがよっぽどお金がかかります」拡大
「CX-60」の内装。こちらは全然逆張りではなく、この価格帯としては飛び抜けて立派にできている。
「CX-60」の内装。こちらは全然逆張りではなく、この価格帯としては飛び抜けて立派にできている。拡大
小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』

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