今回の注目は? 日本からの参加は? 「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」を現地リポート
2023.07.28 デイリーコラム英国南部の“聖地”で催される2つのイベント
「グッドウッド」という言葉は、クルマ好きにとってもはや、垂涎(すいぜん)の響きをもって耳の奥まで届く。特にヒストリック&ヴィンテージカーファンにとっては、「ヴィラデステ」や「ペブルビーチ」と並んで“死ぬまでに現場で見ておきたい”イベントのひとつだろう。
今年でちょうど30周年というから、それ自体は決して歴史のあるイベントではない。けれども英国モーターレーシングの世界における「グッドウッド」そのものはもう少し古く、75周年を迎えた。
イベントの核心人物は第11代リッチモンド公爵=バリバリの貴族だ。日本ではチャールズ・ゴードン=レノックスもしくは以前の呼称であるマーチ卿のほうがなじみ深いかもしれない。彼の祖父が戦後すぐの1948年に開いたのがグッドウッド・サーキットで、75年前に第1回のレース「グッドウッド・ミーティング」を開催している。サーキットが閉鎖される1966年まで、ジム・クラークやジャッキ・スチュアート、スターリング・モスなどのトップレーサーも集う、英国南部のレースの中心地だった。
混乱のないように初歩的な情報を先に記しておくと、このサーキットを1998年に当時のマーチ卿が復活させたのが「グッドウッド・リバイバル」であり、通常は例年9月に開催されている。こちらはクラシックカーによるレースイベントである。一方、7月に開催されるグッドウッドは「フェスティバル・オブ・スピード」、通称FoSだ。こちらはサーキットではなく、公爵の館(やかた)であるグッドウッドハウスまわりの私道を使ったヒルクライム競技がメインだ。
“グッドウッド”をよみがえらせたマーチ卿の情熱
グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードは、グッドウッド・リバイバルより5年前に始まったが、それはかのサーキットをよみがえらせるための最初の一歩でもあった。子供の頃に衝撃を受けたレースイベントをなんとしても復活させたいと願ったマーチ卿の情熱、執念だったといっていい。
英国の貴族らしく、自前の広大な土地に有名なクラシックカーオーナーやレーシングチームを招き、ヒルクライム競技イベントを開催。舞台となる私道は、リッチモンド公爵自身、幼い頃からカートやクルマを走らせていた場所で、1955年に祖父がたった一度だけヒルクライムを催したという故事にもちなんでいた。これが大成功を収め、5年後のサーキット復活につながっていく。
当初から、F1マシンを筆頭に数々のレーシングカーやヴィンテージモデルが集う、クルマ好きにとってはたまらないイベントだったが、年を追うごとに規模は拡大し、同時にコンテンツも充実する。一時期は「ムービング・モーターショー」というイベントも併催されたが、今でもまさに動くショー。過去から未来への自動車文化の架け橋となる重要なイベントになった。観客動員数も、今では当初の20倍近くにまで膨れ上がっている(初回の有料入場者数は1万2000人だった)。
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往年のF1マシンが、ルマンカーが走る
あらためて、サーキットの誕生から75周年、イベント開催から30周年にあたる節目の今年、メインテーマを「ポルシェの75周年」として、マニア垂涎のヒルクライムイベントは開催された。
訪れるたびにとにかく“私有地”の広大さに驚く。観客はほとんどすべてクルマでやってくるが、それらを収容する何千台規模の駐車場も、公爵の土地だ。駐車場への大渋滞でも不思議と苦にならないのは、やってくるクルマにも“名車”が多いからか。駐車場を見ているだけでも、日本のカーイベントの充実度を確実に上回る。
会場内のグッドウッドハウス周辺はクラシックな装いでコーディネートされており、リバイバルほどではないにしても、響き渡るヴィンテージレーサーのサウンドと相まって、タイムスリップしたかのよう。行程1.16マイルのコース脇に陣取ってシャンパングラスを傾けた瞬間、クルマ好きは間違いなく「もうここから離れたくない」という気分になる。
安全上の理由からF1マシンによるタイム計測はずいぶん前になくなった。それでも、歴史的なマシンから最新モデルまで、新旧の有名なレーサーによるF1ヒルクライムは、このイベントのハイライトであろう。加えてこの2023年は、ルマンの100周年にもあたっていた。歴代ルマンカーの勇姿を、ヴィラデステ、ルマンクラシック、そしてグッドウッドと立て続けに目撃できた喜びは、“仕事”とはいえ感無量だ。
ミリオンダラーのハイパーカーの競演
とはいえ、このイベントの魅力はクラシックだけじゃない。スーパーカーパドックには世界最高峰のハイパーカーが総出演だ。「ブガッティ・ボリード」や「パガーニ・ウトピア」「ケーニグセグ・レゲーラ」「アストンマーティン・ヴァルキリー」「メルセデスAMG ONE」「ゴードン・マレーT.50」「フェラーリSP3デイトナ」など、ミリオンダラーのハイパーカーが勢ぞろい。「ランボルギーニ・レヴエルト」や「ポルシェ911 GT3 RS」など最新のスーパーカーもノーズを並べる。なかにはカムフラージュされた未発表モデル(メルセデスAMGの新作)まで!
またメーカーが軒を連ねるパビリオンエリアでは、各ブランドの最新作が披露され、例えば今年60周年を迎えたランボルギーニが、2024年からの世界耐久選手権の参戦モデルを披露していた(参照)。グッドウッドは、今や廃れたモーターショーの代替イベントとしても、十分に機能しているのだ。
これらメーカー発表の新作のなかでは、最終日に今年の計測ベストタイム、45秒342を記録した「マクラーレン・ソラスGT」に注目が集まっていた。マクラーレンもまた今年で誕生60周年(参照)。グッドウッドは創始者ブルースの亡くなった場所であったにもかかわらず、彼らはサーキットの復活当初からマーチ卿に協力的だった。ロン・デニス時代には「ロンのくつろいだ姿を見たければグッドウッドへ行け」と言われたほどだ。今年はその歴史のすべてがグッドウッドにそろい、ミカ・ハッキネンやエマーソン・フィッティパルディもマシンに搭乗してデモ走行を披露した。
イベントの主役となった「マクラーレン・ソラスGT」
マクラーレン・ソラスGTは2022年のペブルビーチにて発表された世界限定25台のトラック専用マシンで、お値段350万ドル(約5億円)からという超お大尽モデル。今回のFoSではその顧客向けプロダクション1号車が「マクラーレン ハウス」前に展示されたほか、プロトタイプがタイムアタックに参戦し、見事、第1位を獲得したというわけだ。
ゲーム『グラントゥーリズモ』に登場したバーチャルモデルを再現した異色のハイパーカーであり、開発責任者のアンディ・パーマー氏いわく、「ゲーム用のデザインをできるだけ再現するために(出力の稼げるターボではなく)V10自然吸気エンジンを選んだ。サイズ、パフォーマンス、そして熱対策といった点で、あのスタイリングにベストマッチするエンジンがジャッドV10だったんだ」。
ちなみに2022年の発表時点で25台は完売御礼。MSO(マクラーレン・スペシャル・オペレーション)によってアレンジされ、すべてが違う仕様になっているという。空気を切り裂くようなV10サウンドに大いにしびれ、この手のトラック専用マシンを目撃した感想としては、珍しいことに“自分で操ってみたい”と心から願った(あまりに突拍子もないスタイルと性能のモデルにはフツウ、あまり乗ってみたいとは思わないものだ)。フルカウルで安全性にも優れたF1というコンセプトと、あのV10サウンドがそう思わせたのだろう。このほかにも、マクラーレンは新作の「750S」も展示。こちらもヒルクライムに出走した。
日本メーカーの姿はどこへ……
土曜日にはストーム級の強風警報が出てイベントそのものがキャンセルされるなど、波乱に満ちた30回大会だったが、パビリオンの風景を見ていて寂しく思った点がひとつあった。それは、過去にこのイベントを何度も盛り上げてきたホンダや日産、マツダといった国産ブランドの姿が見えなかったことだ(マシンはもちろん多数参加していた)。唯一(二?)の救いはトヨタのラリーマシンたちと、名古屋のAIMが出展し、マニア人気を集めた「EVスポーツ01」の走る姿だった。
代わりに目立っていたのは中国系や韓国のブランドだ。産業の勢いそのままといえばそれまでだけれど、動くモーターショーとしての価値と規模、そしてその文化性を考えたとき、“グッドウッド”は今や世界の自動車産業が無視できない存在になっている。そういった場所への継続的な参加をあきらめている日本ブランドの現在地に、とても寂しい気分になってしまった。
(文=西川 淳/写真=The Goodwood Estate Company Limited、newspress、トヨタ自動車、マクラーレン、ランボルギーニ/編集=堀田剛資)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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