【F1 2023】第20戦メキシコシティGP続報:フェルスタッペンが年間最多勝記録更新、プロストに並ぶ51勝目
2023.10.30 自動車ニュース![]() |
2023年10月29日(現地時間)、メキシコのアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスで行われたF1世界選手権第20戦メキシコシティGP。母国のヒーロー、セルジオ・ペレスが早々に消え去り、チャンピオンのマックス・フェルスタッペンはいつもどおりのクルージングでまたも記録を打ち立てた。
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メキシコの星、ペレスへの声援とプレッシャー
メキシコでのレースを前に「なぜレッドブルのみんなは“チェコ”ペレスを愛しているのか?」という動画を公開したのは、ほかでもないレッドブルである。母国GPに臨むドライバーを応援するのは自然だが、来る2024年シーズンまで契約を残す“チェコ”ことセルジオ・ペレスの早期離脱のうわさが後を絶たないからだろうか、その真意を問いたくなる内容にも思えた。
シーズン当初は様相が全く違った。レッドブルで2年目を迎えたペレスは、開幕からの5戦で2勝、2位2回と好スタートを決め、チームメイトのマックス・フェルスタッペンとタイトルを賭けた同門対決となる気配すら感じられた。しかし、第5戦マイアミGPからフェルスタッペンが10連勝を飾ったのとは対照的に、ペレスの戦績は下降線をたどった。18戦を終えた時点で年間最多タイの15勝を記録したフェルスタッペンに対し、ペレスは優勝2回を含んでも表彰台8回にとどまった。特に第17戦日本GPでは度々他車と接触しリタイア、続くカタールGPでもトラックリミット違反を繰り返し10位と、パドックすずめたちが「レッドブルが早期の契約解除を考えている」と騒ぎ立てても不思議はなかった。
おまけに第12戦ハンガリーGPからは姉妹チームのアルファタウリにダニエル・リカルドが現役復帰し、ペレスの“代役候補”も現れたのだから穏やかではいられなかった。
しかし、そんな状況であってもレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は「ペレスは来季も乗る」と言い続けてきた。18戦17勝中のレッドブルは、ライバルを圧倒した今シーズンをチーム初のチャンピオンシップ1-2で終えたいところ。最速にして最強のマシン「RB19」をつくり出した今、まずはドライバーの布陣を含めて安定したチーム運営を手に入れることこそ重要なのだ。
2011年のGPデビューから13シーズン目を迎え33歳となったペレス。257戦して通算6勝は、1960年代に活躍し2勝という記録を残した伝説的ドライバー、ペドロ・ロドリゲスをしのぐメキシコ人最多であり、今季は自身、そしてメキシコ人としても最高のドライバーズランキング2位の座も目前に迫っている。日本、カタールと続いた最悪の状態から脱するべく、レッドブルのファクトリーではシミュレーターに精を出し、そのかいあってか、メキシコのファンも多く詰めかけた前戦アメリカGPでは4位でレースを終えていた。
母国に凱旋(がいせん)したメキシコの星、その輝きが消えるのはまだ早い。ペレスに注がれた大声援は、期待の大きさを表していた。もちろん期待に応えるためにはプレッシャーがつきもの。ベテランの肩には、目には見えないたくさんの思いがのしかかっていた。
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フェラーリ“驚きの”最前列独占、リカルド大健闘の予選4位
当の本人たちも驚く、フェラーリのフロントロー独占だった。予選直前のプラクティスでは13位と15位だった赤いマシンは、路面温度が若干落ちてきた予選Q3になるといきなり最速タイムをたたき出したのだ。
シャルル・ルクレールは2週連続、今季4回目、通算ではフェルナンド・アロンソの記録に並ぶ22回目のポールポジションを獲得。僚友カルロス・サインツJr.が0.067秒という僅差で2位につけ、スクーデリアは2022年モナコGP以来となる最前列独占を果たした。フェルスタッペンは、ポールから0.097秒遅れとこちらもわずかの差で3位だった。
驚きの結果はまだあった。アルファタウリのダニエル・リカルドが4位につけたのだ。予選Q1、Q2とチームメイトの角田裕毅のスリップストリームをうまく活用しQ3に進出すると、Q3では今季チームベストとなる好位置を得た。角田はパワーユニットとギアボックス交換により後方からのスタートが決まっており、チームプレイに徹したかっこうとなった。
ペレスはフェルスタッペンから0.160秒遅れの5位と、ここのところの“定位置”に落ち着いた。メルセデスのルイス・ハミルトン6位、マクラーレンのオスカー・ピアストリ7位、メルセデスのジョージ・ラッセル8位ときて、アルファ・ロメオの2台が5列目に並び、バルテリ・ボッタス9位、ジョウ・グアンユーは10位からレースに臨むこととなった。
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ペレスがスタートでリタイア、レース中盤に赤旗中断
標高2300mの高地にあるエルマノス・ロドリゲスでは空気が薄く、ダウンフォースや冷却効率が下がるなどさまざまな影響が出ることが知られ、そして追い抜きが難しいことでも有名だった。
71周レースのスタート直後にドラマは起きた。最前列のフェラーリ2台に、抜群の蹴り出しだったレッドブルが襲いかかった。長いストレートの後にあるターン1に向けて、フェルスタッペン、ルクレール、ペレスの3台がそろって進入。しかし一番アウト側にいたペレスは、真ん中で行き場のなかったルクレールと接触してしまいコース外にはじき出された。ピットに戻ったもののダメージが大きく無念のリタイア。母国ファンの大歓声が悲鳴に変わったのは言うまでもない。「勝ちたかったが、高い代償を払った」とはペレスの弁。「レースは最初のコーナーで決することはないが、失うことはある」という事実をかみしめているような表情だった。
トップに躍り出たフェルスタッペンを先頭に、2位ルクレール、3位サインツJr.、4位リカルド、5位ハミルトン、6位ピアストリ、7位ラッセルといったオーダーで序盤戦がスタートした。またとない好機をつかんだリカルドは、11周目にハミルトンに4位の座を奪われるも5位をキープ。終盤にマクラーレンのランド・ノリス、メルセデスのラッセルにかわされたのだが、それでも7位入賞を果たし、最下位でくすぶっていたアルファタウリを一気に8位まで躍進させたのだからさすがだった。
抜きにくいコース、各車ともオーバーヒートを気にかけながらのマネジメントレースに徹していた20周目、レースリーダーが早めのタイヤ交換を敢行。フェルスタッペンはミディアムタイヤからハードに履き替えると、29周目にはノンストップで走り続けていたサインツJr.をかわし2位、ルクレールが32周目にピットに入ったことで首位に返り咲いた。
上位陣がピットストップを済ませると、1位フェルスタッペン、2位ルクレール、3位に早めのタイヤ交換で前に出たハミルトン、4位サインツJr.、5位リカルド、6位ピアストリ。33周目、ケビン・マグヌッセンのハースにトラブルが発生、したたかにウォールに当たったことでセーフティーカーが出動すると、フェルスタッペンは2度目のタイヤ交換に踏み切り、ハードから再びハードにスイッチ。その後、大破したマシンを片づけコース脇のバリアを元に戻すために赤旗が出され、レースはしばし中断した。
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フェルスタッペン、今季16勝目で年間最多勝記録を更新
約20分の中断の後、スタンディングスタートで36周目からレース再開すると、調子を上げてきたハミルトンが40周目にルクレールをかわし2位へ。3-4となったフェラーリの後ろにはラッセルがつけ、赤いマシンを黒が挟み込む展開となった。
そしてトップ5台の後ろに、パパイヤオレンジの一台が迫ってきていた。予選で失敗し17番グリッドと後方スタートだったノリスは、再開直後に10位から15位に落ちるも、次々と前車をオーバーテイクし挽回。チームメイトのピアストリに7位を譲ってもらうと、リカルド、ラッセルをも抜き去り、5位でチェッカードフラッグを受けたのだった。
フェルスタッペンは、いつもどおり脱兎(だっと)の如く走り去り、13.875秒のリードを築いてゴール。これでシーズン最多勝記録を更新する16勝目、通算ではアラン・プロストの歴代4位タイの51勝目をマークした。さらに年間18回目のポディウムは自身が保持するレコードタイ。通算リードラップ数2684はプロストのそれを抜き歴代5位となった。
6位から2位フィニッシュ、ファイナルラップにはファステストラップを記録したハミルトンは上機嫌の様子。予選までは「悪夢のようなドライブ」とバランスの悪さに苦戦し、レースでは「このミディアムタイヤで最後まで走るのか!?」と不安を漏らしたものの、フェラーリ2台を難なくかわし快走を見せたのだから、7冠王者の喜びもわかるというもの。ポールから3位のルクレールも、フェラーリのレースペースからしたら及第点の出来だったろう。
残り3戦となった今シーズン。今季最初で最後の3連戦の3戦目は第21戦ブラジルGP。決勝は11月5日に行われる。
(文=bg)