BEVにこそ“日本的提案”を! 元カーデザイナーがジャパンモビリティショーを振り返る
2023.11.08 デイリーコラム子供の頃、九州育ちの私にとって東京モーターショーというのは遠い憧れの存在でした。なので、私がデザインしたショーカーが出展された時はとても感慨深かったものです。今回を機に東京モーターショーはジャパンモビリティショーに生まれ変わりましたが、今の子供たちも憧れを持ってくれたでしょうか? ショーカーのデザインを中心に振り返りました。
正反対のアプローチだったマツダと日産
【正統派カーデザインを突き詰めるマツダ】
マツダはショーカー「アイコニックSP」を中心にした展示でした。これまでのマツダデザインをさらにシンプル化し、プロポーション(たたずまい)だけで勝負している感じがします。リフレクションが強く主張するデザインから、もっと大きな立体の表現になったんですよね。一見オリジナリティーが見えづらいと思いますが、それはデザインを突き詰めた結果でしょう。
プロポーションにこだわっているメーカーは、ポルシェ、ボルボ、ランドローバー、マツダの4社が抜きんでていて、どのビューから見てもタイヤが踏ん張ったデザインになっています。この4社のクルマは、皆さん好き嫌いの程度はあれ、素直にカッコいいと思えるのではないでしょうか? これは、特に市販車ではさまざまな設計的整合をとらないといけないので、非常に難しいんですよね。
【従来のカーデザインにアンチテーゼ(?)を示した日産】
一方、日産は現実とバーチャルの融合ということで、実車と3Dアニメーションを駆使した、世界観重視の展示をしていました。なので、個々のデザインを今までの尺度で語ること自体がナンセンスなのかもしれませんが、展示されていたショーカーは、カーデザインのセオリーからかなり外れているように思います。
普通は軸感やカタマリ感を意識してシルエットを形成するものですが、「ハイパーツアラー」や「ハイパーフォース」はそんな感じではありません。むしろ逆にカタマリとしてまとめず、発散している印象です。また、あえて線から決めて、面を出来成りにつなげているデザインのようにも見えます。
日産は「アリア」のように、先進性と普遍性が高次元で融合したデザインができる会社です。今回は確信犯的にこうしたデザインを提案しているのですが、常に新しい表現を追求する姿勢はすごいですね。お客さんの反応が気になりました。
ブランドの「思い」が伝わってきたダイハツとBYD
【すべてに統一感があったダイハツ】
直感ですが、目標が社内でしっかり統一されている感じがしました。私も苦労しましたが、社内の意識統一はデザインを行ううえでとても大事なんですよ。ショーカーもすべてデザイン、仕立てに統一感を持たせていました。
華美な装飾を避けたミニマル的な表現なのですが、シチュエーションを想起させるデザインだったので、このクルマを使うとどんな気持ちになるかが、すごく伝わってきました。今後、このようなテイストで市販車が出てくるとしたら、うれしいですね。
またショーカーではありますが、ワイパーや開閉部のヒンジ、リアゲート開口部のゴムパッキンなど、細かなつくり込みをしており、見る人にリアリティーを感じられる工夫をしていました。
→「ダイハツ・ビジョン コペン/オサンポ」のギャラリーはこちら
→「ダイハツme:MO」のギャラリーはこちら
→そのほかのダイハツ展示車両のギャラリーはこちら
【地に足がついたBYDの量産車】
BYDは脅威と言われている理由が、デザインでもよくわかりました。特にセダンの「シール」は、内外装とも欧州車的基準ですよね。それはデザインそのものだけでなく、インテリアの仕立て、質感などはテスラを大きく凌駕(りょうが)している印象を受けました。「ATTO 3」もプロポーションはまさに欧州車のそれです。内装のデザインが少し有機的すぎて好みが分かれるところですが、質感は申し分ありません。
日本メーカーがやや浮き足立っている感じのなか、技術に裏打ちされた実直な展示は、説得力がありました。
ユーザーの“気持ち”に沿ったショーカーが見たい
【個人的にデザインが一番よかったAIM】
素通りしてしまった方もいるかもしれませんが、エンジニアリング会社のAIMが2台のEVを出展していました。長い間日産デザインをけん引していた中村史郎氏が代表を務めるSN DESIGN PLATFORMがデザインを担当したとのことですが、ちょっとしたことでプロポーションにオリジナリティーを出しているんですよね。少ない手数で最大限の効果を出す、というカーデザインのお手本です。
【最後に……BEV時代こそ、日本の強みが必要ではないか?】
現在、世界のBEV市場をテスラとBYDがリードしています。ただこの2社は、“BEVメーカー”という認識で共通していると思うのですが、今のところそれ以上でもそれ以下でもありません。
一昔前の東京モーターショーは他国のショーとは違い、よくも悪くも独創的なショーカーであふれかえっていました。それこそBEVの提案も、ずっと行われてきていましたよね? 他国がデザインそのもので勝負しているなか、日本のメーカーはユーザーの気持ちや使われ方を重視してきました。BEVが本格的になる時代において、差別化として一番必要なことなのではないのか? と思います。
一部を除き、そのような提案が少なかったのがちょっと気がかりですね。
(文=渕野健太郎/写真=webCG、渕野健太郎/編集=堀田剛資)

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
-
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―NEW 2025.12.5 ハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。
-
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る 2025.12.4 「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
-
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相 2025.12.3 トヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。
-
あんなこともありました! 2025年の自動車業界で覚えておくべき3つのこと 2025.12.1 2025年を振り返ってみると、自動車業界にはどんなトピックがあったのか? 過去、そして未来を見据えた際に、クルマ好きならずとも記憶にとどめておきたい3つのことがらについて、世良耕太が解説する。
-
2025年の“推しグルマ”を発表! 渡辺敏史の私的カー・オブ・ザ・イヤー 2025.11.28 今年も数え切れないほどのクルマを試乗・取材した、自動車ジャーナリストの渡辺敏史氏。彼が考える「今年イチバンの一台」はどれか? 「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の発表を前に、氏の考える2025年の“年グルマ”について語ってもらった。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。













