BMW X5 M60i xDrive(4WD/8AT)
オールラウンドな高速ツアラー 2024.01.08 試乗記 マイナーチェンジで48Vマイルドハイブリッド機構を採用した「BMW X5」の4.4リッターV8搭載モデル「M60i xDrive」に試乗。ブラッシュアップされた内外装の仕上がりと、530PSの最高出力を誇る「Mパフォーマンスモデル」の走りを確かめた。マイルドハイブリッド機構を追加
先日「xDrive40d」が追加されたことで、2023年春にビッグマイナーチェンジを受けたX5のラインナップも、ひとまず出そろったことになる。別格の「Mコンペティション」を頂点に、新しいxDrive40d、「xDrive50e」、そしてM60i xDriveという“ディーゼル、プラグイン、ガソリン”という三者三様のパワートレインを取りそろえる基本構成は、マイチェン前と変わりない。
今回の試乗車であるガソリン4.4リッターV8ツインターボを積むM60i xDrive (以下、M60i)は、従来の「M50i」の後継機種となる。先に改良が施された「X7」と同様に、新たに最高出力12PS、最大トルク200N・mの48Vマイルドハイブリッド機構を付け加えたことが、車名数字が“10増し”になる根拠といっていい。エンジン本体の530PS、750N・mというピーク性能値は以前と同じで、0-100km/h加速値なども変わっていないが、WLTCモード燃費は8.0km/リッターから8.5km/リッターに向上している。
こうしたパワートレインの手直しは、基本設計を共有する「X7」や「X6」とほぼ同じ。また、それ以外のマイチェン内容も、最近のBMWのお約束に沿ったものと考えていい。ヘッドランプ内部に矢印型デイライトがあしらわれたほか、テールランプも矢を思わせる意匠となった。バンパー形状も刷新されている。いつも注目されるキドニーグリルの基本形状は変わっていないが、グリル内部にイルミネーション照明が内蔵された。
ただ、手直しはインテリアのほうが大規模だ。12.3インチのメーター画面と14.9インチのセンター画面を一体化させたお約束のカーブドディスプレイのほか、スリムになったエアコン吹き出し口やイルミネーションがインパネのハイライトである。さらにシフトセレクターも例のツマミ型になってセンターコンソール周辺がすっきりとした。
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ためらいもなく吹け上がる
最近のBMWでは、純粋にMやMコンペティションを冠する真正Mモデルに加えて、「M○○i」というグレードを用意する。どちらもモータースポーツ活動や高性能車を担当する別会社=BMW M社の製品とされるが、正確には真正Mモデルが「Mハイパフォーマンスモデル」で、M○○iは“ハイ”のつかないMパフォーマンスモデルと呼ばれる。
今回のM60iはもちろん後者。搭載されるエンジンはMコンペティションと共通の「S68型」だが、レブリミットをMコンペティションより1000rpm低い6000rpmとすることで、最高出力もあえて95PS低くおさえこまれているのがM60iの特徴である。
とはいえ、750N・mという最大トルクはMコンペティションと同じで、低中速のパンチ力も大きく引けを取らない。さらにパワートレインを「スポーツ」や「スポーツプラス」モードにすれば、“ボボボボ……”というそれなりに不敵な排気音を聞かせてくれる。マイチェン前も過給ラグはほとんど気にならない柔軟性を披露していたが、M60iでは2000rpm付近の低域から、いささかのためらいもなく吹けるのは、マイルドハイブリッド効果かもしれない。
ただ、ほぼ同じハードウエア構成の「X6 Mコンペティション」をこの直前に味わわせていただいた身としては、6000rpm以降の“クオーン”と泣きながら突き抜ける手前で、見事に寸止めされてしまうのは、どうにも欲求不満がつのる。もっとも、日本の公道でその領域を味わえるのは1速と2速だけだ。それに、周囲の耳目や交通環境を考えれば、1速と2速でもそこまで回せる機会はめったにないだろうけど……。
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笑みがこぼれるコントロール性
エンジン以外の走行メカやハードウエアにも、Mコンペティションとのちがいがいくつかある。パワートレインやパワステ、サスペンションがモードによって可変できるのは同じだが、Mコンペティションのように変速スピードやブレーキフィール、先進運転支援システムの介入度合いまでキメ細かく設定する機能はM60iにはない。「スポーツ/コンフォート/エコプロ」がならぶドライブモードボタンも、Mコンペティションではなく、通常のBMWのほうと共通である。
タイヤや可変ダンパーも含めたフットワーク関連や4WDシステムの調律がMコンペティションより控えめで穏当な設定になるのは、まあ当然といえる。そのうえで「4輪アダプティブエアサスペンション」と「インテグレーテッドアクティブステアリング」というMコンペティションではあえて省かれる二大メカが、M60iでは標準装備される。エアサスは50eや40dの「Mスポーツ」にも標準装備で、インテグレーテッド~はMスポーツではオプションである。
標準にあたるコンフォートモードで走るM60iの乗り心地は、見事なまでに快適だ。とくに市街地ではフワリと適度に上下する柔らかいエアサス感で、路面からの入力はあくまでカラダに優しい。そのまろやかな肌ざわりは、ちょっと感動するほどである。
スポーツモードにすると、フットワークは明確に引き締まって少し揺すられるようになり、まるでクルマが軽くコンパクトになったかのように錯覚する。ワインディングロードでは積極的にアクセルペダルを踏むほど曲がりがよくなって、思わず笑みがこぼれるコントロール性はBMWならでは。この巨体をCセグメントホットハッチとさほど変わらない感覚で操れるという事実に、あらためて感心した。
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Mより標準車に近い乗り味
とはいえ、タイトなコーナーになっていくと、重さを持てあますようになるのも事実だ。以前に乗ったX6 Mコンペティションは、明らかにゴリゴリとした肌ざわりがあるかわりに、どんなにタイトなコーナーでも軽々と曲がる。ブレーキフィールにおいても、足裏にかじりつくように利くMコンペティションほどの絶大な信頼感は、M60iにはない。こんなクルマを山坂道で振り回すなんて時代錯誤なのは承知のうえだが、そういう走りかたをしたときに、Mコンペティションほどのダイレクト感はないものの、肉体的負担が明らかに小さいのがM60iの利点……というか特徴である。
それはソフトなダンパーや状況に応じてバネレートも変わるエアサスによる快適な乗り心地に加えて、可変レシオと後輪操舵を組み合わせたインテグレーテッドアクティブステアリングによるところが大きい。
Mコンペティションも単独で乗るかぎりは特別に疲れるとも思わないのだが、同じ道をM60iで走ると、あからさまに軽くて操作量の少ないステアリングが、筆者のような中高年オヤジにはありがたい。せまいパーキングだと、数回の切り返しでタメ息が出てしまうMコンペティションに対して、肉体的負担が明らかに少ないM60iでは思わず鼻歌が出る。
M60iの1520万円という本体価格は、50eや40dのMスポーツより230万円~250万円高く、Mコンペティションより452万円安い。M謹製というM60iゆえに、どちらというとMコンペティション寄りの仕上がりをイメージするかもしれないが、実際の乗り味をあえてチャート化すると、じつは価格設定のほうが実態に近い。つまり、乗っていると、MっぽさよりX5らしさが勝つというか。
このクルマでダイレクト感が身上のMコンペティションの片りんを味わおうとすると、ちょっと肩透かし気分になる。かわりに、オールラウンドな高速ツアラーとして見ると、M60iは圧倒的に快適で肉体的疲労も少ない。もともとはMコンペティションみたいなクルマが大好物の筆者だが、50代もなかばという年齢になると、「これが買えるご身分なら……」と妄想したときに実際に食指が動くのはM60iだったりする。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMW X5 M60i xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4935×2005×1770mm
ホイールベース:2975mm
車重:2390kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 48バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:530PS(390kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-4600rpm
モーター最高出力:12PS(9kW)/2000rpm
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/0-300rpm
タイヤ:(前)275/35R22 104Y XL/(後)315/30R22 107Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:8.5km/リッター(WLTCモード)
価格:1520万円/テスト車=1561万8000円
オプション装備:ボディーカラー<Mブルックリングレー>(0円)/BMWインディビジュアル フルレザーメリノパッケージ(35万2000円)/MライトアロイホイールVスポークスタイリング747Mバイカラー(6万6000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3564km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(5)/山岳路(4)
テスト距離:282.1km
使用燃料:44.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.4km/リッター(満タン法)/6.5km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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