BMW X5 M50i(4WD/8AT)
思えば遠くへ来たもんだ 2020.04.24 試乗記 「BMW X5」のハイパフォーマンスモデル「M50i」に試乗。最高出力530PSを生み出す4.4リッターV8ツインターボエンジンと“駆けぬける歓び”をもたらすシャシー、さらには手放し運転を可能にする運転支援装備など、現代の自動車技術の最先端を体感した。BMWのドル箱
2000年前後に相次いで登場した「メルセデス・ベンツMクラス」(今の「GLE」)や「ポルシェ・カイエン」などとともに現在まで続くSUVブームを牽引(けんいん)してきたBMW X5は、現行モデルで第4世代となる。
歴代どのモデルも世界中でヒットし、今ではBMWで一番のドル箱だ。昨2019年の日本導入直後に3リッター直6ディーゼルターボエンジンを搭載した「xDrive35d」を試し、その洗練度の高さに驚かされた。
今回は4.4リッターV8ガソリンターボエンジンを搭載したM50iを試した。車両価格は1354万円。テスト車には356万5000円分のオプションが備わり、総額で1710万5000円に達していた。
さすがは“エンジン工場”
エンブレム以外で高性能なM50iであることを識別できる点は、キドニーグリルやエアインテークが「Mパフォーマンスモデル」専用色となるセリウムグレーに塗られる程度で、これみよがしに他のグレードと異なる点はない。特徴はなんといっても4.4リッターV8ターボエンジンを搭載することだ。このエンジンはウルトラスムーズ。あまりにスムーズに回転上昇していくがゆえにかえってパワフルという印象に欠けるほどだ。気づけば速度だけがとんでもない領域に達している。これが仮にスポーツカーであれば、もう少し演出された“ラフさ”がないと物足りないと感じる人もいるかもしれないが、洗練という意味ではその極みにある。直6もよいがV8もよい。要するにBMWのエンジンがよいのだ。スムーズさには8段ATも貢献している。頻繁に変速を繰り返すが、乗員にそのショックをほとんど感じさせない。
最高出力530PS/5500rpm、最大トルク750N・m/1800-4600rpmというド級のパワーを発生しながら実にフレキシブルだ。市街地の混雑した交通の中で、わずかに加速したかと思えばすぐに減速を強いられるような低負荷状態を延々と続けても、エンジンからは何ひとつ不満が伝わってこない。また高速道路での100km/h巡航はこのエンジンにとってはアイドリングに毛が生えた程度の負荷でしかなく、タコメーターの針は1300rpm前後を指したまま。
「一般道を走るために530PS、750N・mもあったって仕方ないじゃないか」と言う人がいるかもしれない。実際にピーク値は重要ではなく参考程度に見ておけばよいと思う。BMWのほうでも精いっぱい努力してこの数値を達成したというわけではなく、常用域での力強さ、気持ちよさを重視した結果、このスペックになったということのはずだ。とにかくいかなる場合でも加速においてドライバーにストレスを感じさせることがない。高速道路へ合流する時、先行車が車線変更して前が開けた時、コーナーの出口に差し掛かった時など、今まさにという場面で思い通りに加速できる。道が上っていても、多人数乗車していても関係ない。実用的というのを大きく飛び越えた、極めてぜいたくな加速を味わうことができる。
乗り心地も曲げ心地も素晴らしい
乗り心地もまた快適そのもので、洗練されたパワートレインと調和が取れている。快適そのもの。X5 M50iは車名にMを含むが、例えば「M3」や「X5 M」のように過激なチューニングが施された伝統的なMモデルではなく、Mパフォーマンスモデルというノーマルモデルの事実上のトップグレードに位置づけられるモデルだ。ひと桁数字とMが組み合わせられていたらMモデルで、それ以外はMパフォーマンスモデルと判別できる。だからハイパワーエンジンを搭載するモデルであっても胃袋を揺するようなハードな足まわりというわけではなく、ドライブモードを「コンフォート」にすればとろとろの乗り心地であり、「スポーツ+」を選んでもかなり文化的な乗り心地となっている。
その根幹をなすのがアダプティブエアサスペンション(「ドライビングダイナミクス」という30万6000円のオプションに含まれる)だ。例のエアサス特有のソフトさが味わえるだけでなく、各輪にセンサーが仕込まれていて、常に路面状況をセンシングし、前後左右で個別の動きをするという。それがどう仕事をしているかまでは分からなかったが、得られる結果は分かりやすい。いつなんどきでもフラットネスを保ちつつ、道路のギャップなどがもたらす振動を最小化し、不快さを低減してくれる。「7シリーズ」あたりに乗っているかのような感覚でいられるのだ。
加えてハンドリングの気持ちよさも備わる。一見してボディーとタイヤが大きく車高が高い時点で重心が低くないことは明らかだが、ワインディングロードでも実に軽やかに立ち回ることができるのだ。エアサスの部分で述べたドライビングダイナミクスには、「インテグレイテッドアクティブステアリング」という四輪操舵機能も含まれる。60km/hを境として低速では逆位相に、高速では同位相に後輪が切れる。コーナーの連続では特に逆位相の動きのありがたみが大きく、巨体を思い通りに操ることができる。車体のこういう動きと先に何度も述べたスムーズかつパワフルなエンジンとが組み合わせられることで、よいクルマの一丁上がりといった感じだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
先進装備もさすがの出来栄え
ストップ&ゴー機能付きのACCや車線変更警告システム、車線逸脱警告システム、事故回避ステアリング操作機能が付いた衝突回避・被害軽減ブレーキなど、自慢の3眼カメラを活用した最先端の運転支援システムが採用されている。高速道路を60km/h未満で走行中にはハンズオフ機能をオンにすることができる。つまり条件がそろえば、前方を注視している限りステアリングホイールから手を放すことができる。なんだかんだいってこの体験は新鮮で“思えば遠くへ来たもんだ”感を味わうことができる。と同時に、渋滞気味の、ほぼ誰にとっても快適ではない状態の高速道路でリラックスできるという点で、実用的でもある。
直前に前進したルートを最大50mまで記憶して同じルートをバックで正確に戻ることができる、例のリバースアシスト機能も付く。これについてBMWは「例えば、日本に多数点在する細い道での対向車とのすれ違いに困った際など、安全かつ正確に、元のルートに復帰することが可能となる」と説明するが、どの程度役立つかは未知数だ。しかしこれはパーキングアシスト機能に含まれるおまけみたいなものなので、あって困るものではない。
初期設定では「OK、BMW」という掛け声で起動する音声アシスタント機能は、幅広い機能を会話に近い感じで命ずることができ、慣れると手動による機能呼び出しが面倒に思えてくる。ハンズオフ運転をしながら音声で選曲したり目的地設定したりすれば、たいていの同乗者は感心するはずだ。今このあたりが市販車の最先端だ。
(文=塩見 智/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW X5 M50i
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4935×2005×1770mm
ホイールベース:2975mm
車重:2320kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:530PS(390kW)/5500rpm
最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-4600rpm
タイヤ:(前)275/35R22 104Y/(後)315/30R22 107Y(ピレリPゼロ)※ランフラットタイヤ
燃費:8.0km/リッター(WLTCモード)
価格:1354万円/テスト車=1710万5000円
オプション装備:ボディーカラー<タンザナイトブルー>(32万9000円)/BMWインディビジュアルエクステンドレザーメリノ<アイボリーホワイト>(0円)/プラスパッケージ(15万円)/BMWインディビジュアルパッケージ(34万4000円)/コンフォートパッケージ(43万7000円)/ドライビングダイナミクスパッケージ(30万6000円)/22インチMライトアロイダブルスポークホイール<スタイリング699>(28万8000円)/BMWインディビジュアルピアノフィニッシュブラックトリム(6万2000円)/アンビエントエアパッケージ(4万4000円)/スカイラウンジパノラマガラスサンルーフ(37万7000円)/BMWレーザーライト(17万9000円)/リアエンターテインメントシステム<プロフェッショナル>(36万3000円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(68万6000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1179km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:270.0km
使用燃料:46.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.9km/リッター(満タン法)/5.8km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
NEW
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.3.4試乗記メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。 -
NEW
始まりはジウジアーロデザイン、終着点は広島ベンツ? 二転三転した日本版「ルーチェ」の道のり
2026.3.4デイリーコラムフェラーリ初の電気自動車が「ルーチェ」と名乗ることが発表された。それはそれで楽しみな新型車だが、日本のファンにとってルーチェといえばマツダに決まっている。デザインが二転三転した孤高のフラッグシップモデルのストーリーをお届けする。 -
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す
2026.3.3エディターから一言電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。 -
F1で絶体絶命!? アストンマーティン・ホンダになにが起きているのか?
2026.3.3デイリーコラム2026年のF1開催を前に、早くも苦戦が伝えられるアストンマーティン・ホンダ。プレシーズンテストでの大不振はなぜ起きたのか? ここから復活する可能性はあるのか? 栄光と挫折を繰り返してきたホンダが、ふたたびF1で輝くために必要なものを探った。 -
電動式と機械式のパーキングブレーキ、それぞれメリットは?
2026.3.3あの多田哲哉のクルマQ&A一般化された感のある電動パーキングブレーキだが、一方で、従来型の機械式パーキングブレーキを好む声もある。では、電動式にはどんなメリットがあって普及したのか? 車両開発者の多田哲哉さんに話を聞いた。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.3.3試乗記「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。


























































