なぜマツダはロータリースポーツカーにこだわるのか
2024.02.12 デイリーコラム夢に向かって着々と
マツダは2023年6月22日に「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」、すなわち欧州向け「MX-30ロータリーEV」の量産を開始したと発表した。シリーズ式プラグインハイブリッドのこのクルマは発電専用のシングルローター・ロータリーエンジンを積んでいる。マツダは2012年6月に13B型2ローター・ロータリーエンジンを搭載した「RX-8」の生産を終了しているので、約11年ぶりにロータリーエンジンの生産を復活させたことになる。
2023年10月25日から11月5日にかけて開催されたジャパンモビリティショー(JMS)2023でマツダは、ロータリーエンジンの搭載を想定した「MAZDA ICONIC(アイコニック)SP」を世界初公開した。このコンパクトスポーツカーのコンセプトモデルもMX-30ロータリーEVと同様で、建前はシリーズ式プラグインハイブリッド車だ。
ただしシングルではなく2ローターで、MX-30のような横置き搭載ではなく縦置きに搭載する。さらに、プロペラシャフトが通る構造になっている。ロータリーエンジンを発電専用に使うだけでなく、後輪を駆動することも想定された車両だ。コンセプトモデルなので「どのようにロータリーエンジンを使うかは決めていない」とのことだったが。
年が明けて2024年1月12日、東京オートサロン2024のプレスカンファレンスでマツダの毛籠勝弘社長は、「2024年2月1日にロータリーエンジン開発グループを立ち上げる」と宣言した。ロータリーエンジンの開発グループは2018年に解散しており、6年ぶりに再結成することになる。
ロータリーエンジン開発グループを立ち上げるきっかけになったのは、JMSに出展したアイコニックSPへの「多くの賛同、そして激励」だったと毛籠社長は説明した。そして、「皆さまに背中を押され、この夢に近づくべく」ロータリーエンジン開発グループを立ち上げると続けたのである。マツダはアイコニックSPの市販化に向けて動き出すと理解していいだろう。
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効率だけでは語れない
なぜ、いまごろになってロータリーエンジンを復活させるのだろうか。そもそも、ロータリーエンジンは効率(燃費)の悪さから生産終了に追い込まれたのではなかったのか。
ロータリーエンジンはピストンが往復運動をするレシプロエンジンに対して構造面で致命的な弱点を抱えている。ひとつには燃焼室が偏平なため火炎伝播(でんぱ)による燃焼速度が遅く、燃焼サイクルの効率に劣ること。また、燃焼室が偏平なために表面積が大きく、冷却損失が大きいこと。さらに、レシプロに比べてシールが長く、ガスの漏れが多くなるのを避けられないことだ。
MX-30ロータリーEV向けに開発した8C型(830ccシングルローター)は、直噴化や圧縮比の向上に燃焼室形状の変更、クールドEGRの採用などで従来の13B型に対して熱効率の大幅な改善を図ってはいる。しかし、あくまでもロータリーエンジン比での効率向上でしかない。
ロータリーエンジンである以上、構造に由来する弱点の根本的な解消は不可能だ。それではなぜ、マツダはロータリーエンジンにこだわるのだろうか? 毛籠社長は、クルマの電動化を進めるうえで、コンパクトなロータリーエンジンは非常に相性がいいと説明した。また、雑食性の高さ(水素を含め幅広い燃料に対応可能であること)を挙げた。カーボンニュートラルに向けたマルチソリューション戦略を推進するうえで可能性を期待させると。
今から新規に発電用のエンジンを開発するなら、小さな体格で高い熱効率が期待でき、無振動にできる2ストローク対向ピストンエンジンを選択する手も考えられるはずだ。こうした新技術には目をくれず、いったんは生産を終了したロータリーエンジンにこだわるのは、このユニークなエンジンがマツダにとってもファンにとっても、マツダという会社のアイデンティティーとして受け継がれている「飽くなき挑戦」の開発姿勢を象徴するからだろう。
熱効率という尺度だけでロータリーエンジンの良しあしは語れない。技術的な壁があるのを承知で、それを乗り越えようとする姿勢にファンは共感するのだ。それだけではない。「飽くなき挑戦」を象徴するロータリーエンジンの復活は、困難な時代に立ち向かっていこうとする社員を鼓舞する意味も込められている気がする。
(文=世良耕太/写真=マツダ、webCG/編集=関 顕也)
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世良 耕太
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