BMW 523iエクスクルーシブ(FR/8AT)
新世代のBMW 2024.02.17 試乗記 新型「BMW 5シリーズ」から、2リッターガソリンターボエンジン搭載の「523iエクスクルーシブ」をチョイス。快適かつ軽快な走りは確かにBMWだが、細かな作法がこれまでとはちょっと違う。時代に合わせて味わいを変えられる自在さもまた老舗の強みなのかもしれない。新型にはストレートシックスなし
日本国内における新型5シリーズのラインナップは、ガソリンとディーゼルの各エントリーモデルと上級の電気自動車(BEV)……という布陣になっている。具体的には、2リッター4気筒ターボのガソリンを積む523iと同じくディーゼルの「523d xDrive」(どちらもマイルドハイブリッド)がエントリーモデルで、その上は即座にBEVの「i5」となる。
ちなみに、523iという車名は日本特有のもので、同モデルの欧州名は「520i」。グローバルでは、ほかにガソリンの4WDやディーゼルの2WD、2リッターガソリンを高出力化した「530i」、直列6気筒ガソリンの「540i」、あるいは4気筒プラグインハイブリッド車(PHEV)の「530e」、同じく6気筒の「540e」も存在するが、現時点ではこれらの国内導入予定はない。
このように、上級エンジン車やPHEVをあえて省くというBMWジャパンのラインナップ戦略は、先に上陸した「7シリーズ」に似ている。7のような上級サルーンは複数台所有される例が多く、しかもサルーンはビジネスやフォーマルに使われがちだから、BEVとの親和性が高いとの判断だろうか。実際、最近の都心では、BEVのi7を見かけることが意外なほどに多い(ハイヤー比率も高いけれど)。
ただ、7よりも複数台所有率が低いはずの5シリーズでも、同様のマーケティングで成功するかは興味深く見守る必要はあるだろう。いずれにしても、現時点で「エンジン付きの新型5シリーズに乗りたい」と思った場合は、今回の523iか、ディーゼルの523dを選ぶしかないわけだ。先日国内発表された5の「ツーリング」はさらに徹底していて、エンジン車は523dのみである。
正直なところ、ひと昔前の5シリーズといえばストレートシックスこそドンピシャだったはず。なのに、それを味わえないとは、時代とはいえ「なんだかなあ」と思わなくはない。
操作の簡素化もいいけれど……
新型5シリーズのエクステリアデザインは7シリーズ同様の水平基調プロポーションだが、下半身に後ろ上がりのプレスラインを入れることで、より若々しくアクティブな雰囲気を醸し出している。7(や「X7」)のそれとは異なる横長のキドニーグリルも、下のクラスに類似点をもつポピュラー寄りの意匠だ。
さらに、キドニーグリルも、新型5シリーズで実際に開口しているのは全体の3分の1程度。その開口部にも、必要なときだけ開くアクティブグリルシャッターが備わる。個人的には、グリル=通風網という機能部品……の建前だけは(嘘でもいいから)守ってほしいと切に願いたいが、空力的にはそうもいかないのだろう。
インテリアデザインも、7に似たBMWの最新モードである。12.3インチの大型液晶を2枚連ねた「カーブドディスプレイ」を中心に、隠しタイプ(?)の空調吹き出し口、アイランド型シフトパネル、ツマミ式シフター、そしてパンチングメタルのスピーカーネットなどが、その典型的ディテールだ。
なかでもカーブドディスプレイは、今やBMWインテリアの最大のお約束だが、マイナーチェンジで後づけしたケースでは、正直なところ視認性に問題なしとはいいがたい。その点、今回のように最新の異形ステアリングホイールとの組み合わせなら、眼前の液晶表示が蹴られることもない。
新デザインではステアリングスイッチも簡素化された。結果として「アダプティブドライブ」などの運転支援機能も、手元でおこなえるのはオンオフや速度設定などの本質的なものだけになった。これも操作を簡素化して使いやすくする意図なのだろう。ただ、車間距離やレーンキープ系は、個人的には周囲の交通状況に応じて細かく調節したくなることが多く、それらの操作がセンターディスプレイ内に追いやられた新しいインターフェイスは、もろ手をあげての歓迎はしづらい。
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実務型の4気筒ターボ
宿敵「メルセデス・ベンツEクラス」に対して、もともとわずかに大きかった5シリーズだが、ほぼ同時刷新となった今回の新型では、5の拡大幅のほうが大きい。結果として、この523iは新型「E200」に対して、全長で100mm、全高で45mmと、これまで以上に明確に大きくなった。先代では唯一Eのほうが勝っていた全幅も、今度は5が逆転して20mm幅広い。5シリーズがここまで大型化された背景には、エンジン専用パッケージのEクラスに対して、5には同じ車体を使って巨大なバッテリーを積むBEVのi5が存在することが大きいのだろう。
新型5シリーズではもっとも穏やかな動力性能となる523iは、動力性能はまさに必要十分といったところで、日本の一般的な交通環境で使うかぎり困ることはないが、とくにパワフルでもない。
前記のように、海外には同じエンジンを高出力化した530iがあるので、この523iでは高回転域で意図的にフタがされた感がなくもない。トップエンドまで見事なまでにフラットトルクを貫く実務型のエンジンフィールだ。8段ATもスポーツタイプではないので、スポーツモードにしてもマニュアル操作しても、変速はあくまでゆったりしている。
というわけで、そこにBMWらしい炸裂感はまるでないが、エンジンの回りかたそのものはとても軽快でさわやかだ。上での伸びていく感覚がないかわりに、常用域となる3000rpm付近でのピックアップが心地よいからだ。そこにはマイルドハイブリッドのモーターアシスト効果もあるかもしれない。そして、523iはそのパワーやトルクをすべて後輪だけに流すFRだが、19インチの「ピレリPゼロ」タイヤのおかげもあるのか、どういう場面でどうアクセルを踏んでも、足取りはまったく揺るがない。パワートレインに対して、とにかく車体やシャシーが圧倒的に勝っている。
違和感はある……でも快適
かといって、ベターっと安定しているだけかといえば、そうでもない。ステアリングをヒョイと操作するだけで、交差点でも山坂道でも、スイスイと曲がっていく。路面からの突き上げも最低限で、乗り心地はすこぶる快適だ。
こうした乗り味は前記の19インチのPゼロに加えて、アダプティブサスペンションやインテグレイテッドアクティブステアリング(可変レシオステアリング+後輪操舵)などのオプションによるものだろう。逆に、オプションなしのツルシの523iは、悪くいえば、もっさりした走りに感じられるかもしれない。
ひと昔前のBMWではありえなかった上下がフラットな異形ステアリングホイールを標準で使うのも、操舵量そのものが激減するインテグレイテッドアクティブステアリングを前提としたデザインなのだろう。同時に、可変制御がテンコ盛りなので、かつてのBMWが売りにしていた、ステアリングのリニア感や接地感が少し薄れているのも否定できない。
しかし、そういうアナログな手ざわりにこだわるのは、時代遅れといわれれば、そうなのかもしれない。実際、従来型よりも今回の523iのほうが圧倒的に肉体的負担が少なく、そして動きそのものは軽快で俊敏だ。巨体なのに小回りも利く。これが新しいBMW味ということなのだろうか。
……と、今回の523iが快適至極であるいっぽうで、どうにも薄味に感じられたのは電子制御のせいだけではなさそうだ。エンジン性能や車重に対して、車体やシャシーに余裕がありすぎることで、手応えがさらに希薄になっている面もある。新型5シリーズの基本フィジカル性能が、これよりはるかに重くて、大トルクのBEVに照準を合わせているからか。
5シリーズといえばもはや古典ともいえる車名のひとつだが、もっとも安価な523iエクスクルーシブでもツルシでほぼ800万円(!)という価格も含めて、その有り様が時代とともに大きく変わっている。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW 523iエクスクルーシブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5060×1900×1515mm
ホイールベース:2900mm
車重:1760kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:190PS(140kW)/5000rpm
エンジン最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)/1500-4000rpm
モーター最高出力:7PS(5kW)/6000rpm
モーター最大トルク:25N・m(2.5kgf・m)/500rpm
タイヤ:(前)245/45R19 102Y XL/(後)245/45R19 102Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:14.4km/リッター(WLTCモード)
価格:798万円/テスト車=965万8000円
オプション装備:ボディーカラー<タンザナイトブルー>(19万3000円)/BMWインディビジュアルレザーメリノ<シルバーストーンII×アトラスグレー>(0円)/エクスクルーシブメリノレザーパッケージ(41万6000円)/プラスパッケージ(29万2000円)/セレクトパッケージ(28万4000円)/コンフォートドライビングパッケージ(36万8000円)/ステアリングホイールヒーティング(4万1000円)/Bowers & Wilkinsサラウンドサウンドシステム(8万4000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3917km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:559.3km
使用燃料:51.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.9km/リッター(満タン法)/11.0km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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