BMW 540i Mスポーツ(FR/8AT)
この走りこそBMW 2017.04.04 試乗記 長年の歴史を誇るBMWの基幹モデル「5シリーズ」がフルモデルチェンジ。新開発のプラットフォームが用いられた7代目の実力はどれほどのものか、上級グレード「540i」の試乗を通し、ライバル車との比較を交えながら確かめた。“フィット感”がある
これまで与えられていた「F10」から「G30」へと、コードネームが変更されたBMW 5シリーズ。そのハイライトは、アルファベットがひとつ進んだこと、つまり新世代のアーキテクチャーの採用である。そんなシャシーは「7シリーズ」同様にカーボンコアに代表されるような高価な部材を惜しみなく……とは残念ながらいかないが、ボディーの軽量化と剛性アップを現状の技術でまかなえる最高レベルで実現。乗り心地やハンドリングなど、それはまさにBMWというブランドに誰もが期待する仕上がりだ。
ステアリングをスッと切ればノーズはするりと向きを変え、FRでありながらトラクション感はハンパなく、どこからどうステアリングを切ろうとも姿勢が破綻する兆しも見えてこない。高速コーナーでの身のこなしは、まるで「3シリーズ」のようにドライバーの体と感覚にジャストフィットしたもの。ずうたいの大きなEセグメントモデルでありながら、例えるなら加圧式のトレーニングウエアを着ながらエクササイズを行っているような感覚とでも言おうか。経験上こうしてクルマがひとまわり小さく感じられるドライビングをもたらすモデルは、おしなべて出来が良いと相場が決まっている。
540iという名称ながらパワーユニットに直列6気筒ターボを搭載することや、進化した運転支援システムの採用(惜しいのは日本仕様では自動車線変更の機能が省かれている点だ)、そしてまるで7シリーズか? と見まごうほどにクオリティーアップしたインテリアなど、中身の進化もすでに本サイトでご報告している通り。ひとあし先に新型へと移行した「メルセデス・ベンツEクラス」の対抗馬として、想像以上のポテンシャルと魅力を持っていると紹介できる。
興味深いのは、誰もがガチの相手だと想像している──そしてそれは絶対に間違いではないはずの──Eクラスとの重要な共通点も、5シリーズが持っている点である。意外にも、その答えはタイヤである。
タイヤに驚きの発見
エンジンやシャシーと同等にクルマのパフォーマンスを決める重要なパーツがタイヤ。これは少しでもクルマを知る人ならば、誰しも異論のないところだと思う。タイヤを替えればクルマが変わる、というどこかのタイヤメーカーのキャッチコピーではないが、タイヤは最終的にカーメーカーの思想やクルマの走りそのものをつかさどる。
今回の試乗を含めて、過去乗り比べたEクラスと5シリーズの指定OEタイヤの中核を成すのは、ともにランフラットでミシュランの「プライマシー3」。まぁ、ここまでであれば、「同じミシュランで同じ銘柄ね」とよくある話にも聞こえる。例えば、「ピレリPゼロ」はスーパーカー御用達の銘柄として人気で、パガーニやランボルギーニ(特にランボは100%ピレリ)などのイタリアンスーパーカーをはじめ、AMGやアストン、ベントレーなど、これをOEタイヤとして採用している車種は多い。しかし、そのどれもが同じPゼロであっても、専用チューンのオリジナルレシピ。名前は同じでも中身は全く別物と言っていいほど、味付けは異なっているのである。
そんなスパイスの違いは、サイドウオールに付けられた認証マークで視覚的にも確認可能だ。例えば「N」はポルシェ認証、「AO」はアウディ認証を表す。ところが、BMW 5シリーズとメルセデス・ベンツEクラスに装着されるプライマシー3の認証マークは、「☆」(BMW)と「MO」(メルセデス)の連名。5シリーズもEクラスも、OE装着タイヤはブランドどころかスペックも共通の同一製品ということになる。
ミシュランのプライマシー3ランフラットは、メルセデス、そしてBMWのダブルネームともいえる製品を開発し、互いのメーカーにこれを供給している。さほど世の中の話題にはなっていないが、永遠のライバルたる両メーカーが、クルマに内包される小さな部品(これはもちろんサプライヤーの関係で今までも共用があっただろう)ではなく、クルマのパフォーマンスを左右する最終的なパーツである“タイヤ”を協調領域とした点がニュースなのだ。
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ライバルとはやはり違う
この事実を目の当たりにしたときは、正直そこそこショックだった。Eクラスと5シリーズは確かにライバル同士だが、目指す方向が違っている。そんな証拠のひとつが、開発エンジニアの選ぶタイヤにある。そう信じて疑わなかったからだ。
しかし、採用タイヤが同じだからといって、この両車が同じ走りを持っているかといえばそれは違う。いかにEクラスがスポーティー方向に舵を切ったとはいえ、一方の5シリーズがコンフォート性能を向上させたとはいえ、不思議にも……いや当たり前のことだが、確かに両車は別物なのだ。
少し舗装が傷んだ路面においても、540i Mスポーツは、ボディーの揺れを一発で抑えるアシとボディーを持っている。キャビンに不快な振動や大げさなロードノイズが伝わることは皆無で、アシの動きの収まりも良い。この小気味よさは、何度も言うが、われわれがBMWというブランドに期待するまさにそれでしかない。ボディーとサスペンション、そしてそれをコントロールするドライバーとの一体感はスゴイとしか言いようがない。もうこの時点で、装着タイヤがランフラットだとは気づかない。
それはまさに、乗り心地とコントロール性能を見事にバランスさせたラグジュアリースポーツのお手本のようなライド感だ。自慢ではないが、個人的には人一倍三半規管のスペックが低いので、クルマの揺れやボディーの共振には敏感。ボディーが緩く、タイヤが丸くない(ユニフォーミティーが低い)クルマは低周波のドラミングや不快な上下動で割とすぐに分かり、同時に助手席に乗った際には、運転が残念な方も早めに見極めができる。
スピードを上げれば上げるほどボディーのフラット感は強くなり、540i Mスポーツは、見事なまでの安定感をもたらす。同時に、静粛性は歴代5シリーズ中最高のレベルで、高速巡航中の快適性はこの上ない。少しアクセルを踏み込めば、適度な音量を持つストレートシックスのなんともいえないエキゾーストノートが耳に心地よく響く。
“エンジン屋”の面目躍如
今やダウンサイジングで、かつてV8の称号だった540にも、搭載されるのは最高出力340ps(250kW)、最大トルク450Nm(45.9kgm)の3リッター直6ターボである。ターボと聞いて、エンジンレスポンスそのものや上まで回したときのフィーリングを不安に感じる自然吸気派も多いだろうが、その心配は杞憂(きゆう)である。BMWの直6は、ターボにもかかわらず──陳腐な表現にはなってしまうが──、相変わらず高回転が気持ち良い。他の表現方法はいくつもあろうが、「BMWの直6は気持ちが良い」と伝えれば、このリポートをわざわざ読もうとしてくれているモニターの前の皆さんであれば、ニヤリとしながらうなずいていただけるはずだ。
右足の動きにダイレクトに反応する感覚は、いかにもBMWのストレート6。しかしそのトルク感は従来の自然吸気ストレート6の倍にも感じられる。ググッとボディーを前に押し出す動きはかなり強烈で、ターボ万歳である。「ノーマル」モードでこの反応であるから、「スポーツ+」モードではどれほどのものとなるかは想像どおり。反応がより鋭くなり、トランスミッションもエンジンを高回転でキープしようとする。普段乗りはノーマルモードで十分だと感じる。
話を同じタイヤを持つEクラスとの比較に戻せば、エンジンパフォーマンスを含めた「走り」については、いかにアジリティーの向上をうたう新型Eクラスであっても、幾分その反応はおうようであり、このセグメントでスポーツの旗印を背負っている5シリーズとは、ねらいが明確に異なっている。
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幼稚なスポーティネスとは一線を画す
中でも特に異なるのが、前述したエンジンのフィーリングとサウンドだ。540i Mスポーツのライバルは、3リッターのV6ツインターボで最高出力333psの「E400 4MATIC」あたりになろうが(同じ6気筒ならメルセデスではこの上に「AMG E43 4MATIC」もあるが、401psもの最高出力を持つことから、ここではE400をライバルに挙げる)、エンジンの魅力という点において540i Mスポーツには及ばない。
BMWが「シューン」だったら、あいかわらず「モモーン」と回るメルセデスのエンジンは、パワーやトルク感こそ文句ないパフォーマンスをもたらし機械としては素晴らしいが、それが官能的なフィールを持つモノかと聞かれれば、答えはノーだ。ただしAMG E43 4MATICは純血AMGではないとはいえ、エンジンフィールも相当頑張っているので「やはりEクラスは……」とひとくくりにいえないのが少しややこしい。
ステアリングフィールは、E400が「スーッ」と切れるのに対して、540i Mスポーツは「スッ」と切れる。表現は難しいが、この音引きの有無こそが、両車の違い。特に擬音でのリポートが好きなわけではないが、まぁ言葉にすればそんなイメージということだ。
かようにステアリングに切れ味鋭いシャープさはあるものの、それはいたずらに反応速度を上げ、スポーティーさを強調する稚拙なものとは異なる。動きは穏やかでありながら、スピーディーでスムーズ。まさに「大人のスポーツセダンの味付け」である。いささかベタで使い古された表現だが、一度でも540i Mスポーツのステアリングを握った方なら、なるほどと理解してもらえるはずだ。
クルコンの制御は自然なものの……
もうひとつ、新型5シリーズの美点として挙げるべきは先進運転支援システム(ADAS)の進化だ。冒頭でも触れたとおり、日本仕様には残念ながら自動車線変更の機能は導入されなかったが(この点はライバルであるEクラスに軍配が上がる)、実用的な車線認識やレーンキープの無駄のない動き、前走車追従時の加減速などは、「きっとクルマの運転が好きな人がセッティングしたのだろう」と(勝手に)思えるほどスムーズで好感が持てるものだった。
ただ、ステアリングホイールを握っているにもかかわらず「ステアリングから手を離すな」と警告を受けたり、気づけばいつの間にかレーンキープアシストが解除されていたりといった現象が確認され、何がきっかけでそうなるのかを今一度確認したいとは考えている。その再現性を求めるのなら、オーナーとして乗りこなすぐらいの時間とクルマとの対話が必要となるかもしれないが、それを知るためにドライブに出掛けることをいとわないほどエンジンは刺激にあふれ、ハンドリングはファンで、乗り心地は上質……と、まぁ手っ取り早く言えば、5シリーズの魅力にやられたのだ。
個人的な話で恐縮だが、私のこれまでの愛車で言えば、BMWが1台に対して、メルセデスは「190E」に始まり都合8台と、圧倒的にメルセデスが多かったことはお伝えしたい。つまり、この試乗報告は決してBMWの回し者による仕業ではないということだ。メルセデス党との自認はないが、気づけば多くなっていたメルセデス遍歴を持つ自分自身にさえ、G30は過去最も実用的で興味深い(役モノを除く)BMWとしてインプットされたのだ。
(文=櫻井健一/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
BMW 540i Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4945×1870×1480mm
ホイールベース:2975mm
車重:1760kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:340ps(250kW)/5500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/1380-5200rpm
タイヤ:(前)245/40R19 98Y/(後)275/35R19 100Y(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:12.5km/リッター(JC08モード)
価格:986万円/テスト車=1118万円
オプション装備:ボディーカラー<ブルーストーン>(9万円)/リアエンターテインメントシステム(31万円)/BMWナイトビジョン(30万6000円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(56万円)/BMW Individualリーディングライト(5万4000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2364km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:273.5km
使用燃料:27.7リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:9.9km/リッター(満タン法)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。