メルセデス・ベンツE220dアバンギャルド(FR/9AT)
輝きを取り戻すために 2024.03.11 試乗記 名車の誉れ高いW124をルーツとする「メルセデス・ベンツEクラス」がフルモデルチェンジし、6代目に進化した。内外装デザインを一新し、全パワートレインを電動化。このところ影が薄くなったといわれる中核モデルは、かつてのような輝きを取り戻せるのか。看板モデルの復権なるか
どの自動車メーカーにも、ブランドを代表する“看板モデル”があるが、メルセデス・ベンツの場合は、アッパーミディアムクラスの「Eクラス」ということになろう。
過去20年の日本での販売を見ると、台数では同社の「Cクラス」に先行されるものの、常に輸入車トップ10に名を連ね、その強さをアピールしてきた。ところが2020年に15位に後退すると、以後はトップ20から姿を消し、少なくともここ日本ではその存在が薄れていた。Cクラスの躍進に加えて、アッパーミディアムクラスの市場自体が縮小傾向にあるのが原因と考えられるが、メルセデスの“顔”であるEクラスにはいつも輝いていてほしいと思うのは私だけではないだろう。
それだけに新型Eクラスの登場には期待を寄せていたのだが、待望の6代目Eクラスが2023年にワールドプレミアを果たし、日本でも2024年2月から販売開始。さっそくメディア向け試乗会でその走りを試すことができた。
セダンとステーションワゴンが同時に導入となった新型Eクラスには、2リッター直列4気筒ガソリンターボを積む「E200アバンギャルド」と、2リッター直列4気筒ディーゼルターボの「E220dアバンギャルド」が用意される。さらに、2リッター直列4気筒ガソリンターボに電気モーターを組み合わせたプラグインハイブリッド車(PHEV)の「E350eスポーツ エディションスター」をセダンにのみ設定。このなかから、今回はセダンのE220dアバンギャルドを引っ張り出した。
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「EQE」に寄せてきたフロントマスク
実車を目の当たりにしてまず視線が向かったのは、なかなか個性的なフロントマスク。ラジエーターグリルとヘッドランプの間がつやのあるブラックパネルで埋められ、クロームの縁取りとシングルルーバーがなければ「EQE」あたりと間違えそうな雰囲気だ。もちろん、ボンネット下にエンジンを搭載するEクラスだから、グリルはしっかり風を取り入れる構造になっているのは言うまでもない。立体的なデザインということもあって、フロントマスクの印象は以前にも増して存在感が強い。
それとは対照的に、Eクラスのサイドビューは落ち着きがあり、眺めていて安心するデザインだ。短い前後のオーバーハングと長いボンネット、やや後ろに配置されるキャビン、それらを美しくつなぐルーフラインがつくり出すフォルムが、「やっぱりセダンっていいな」と思わせるのだ。リアのデザインは、“スリーポインテッドスター”をイメージさせるライトにより、「Sクラス」やCクラスとすぐに見分けがつくのはいいが、遊び心がすぎる気がする。
せり出してきた自動格納式のドアハンドルを引いて運転席に乗り込むと、センタークラスターから助手席にガラスが広がるデザインに目を奪われる。「EQS」などEVのインテリアを特徴づけるアイテムが、ついにエンジン車にも導入されるようになったのだ。
新型Eクラスの全モデルにオプション設定されるこの「MBUXスーパースクリーン」は、EQSなどの「MBUXハイパースクリーン」とはデザインが異なり、価格も“お手ごろ”な設定。装着車を見てしまうと、非装着車の室内が寂しく思える私は、メルセデスの術中にはまっている。
新型Eクラスに搭載されるMBUXは最新の第3世代で、サードパーティー製のアプリが利用可能になった。ダッシュボード中央の「セルフィー&ビデオカメラ」はオプションで、これを選ぶと停車中にオンライン会議に参加することも可能だという。「3Dコックピットディスプレイ」もオプション装備のひとつで、メーターパネルが違和感なく立体的に見えるのが面白い。
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力強い加速の2リッター直4ディーゼルターボ
前述のとおり、このE220dには2リッター直4ディーゼルターボが搭載されている。最高出力と最大トルクは先代を少し上回り、それぞれ197PSと440N・mを発生する。
これにスターター・ジェネレーターと呼ばれる電気モーターが組み合わせられ、いわゆる“マイルドハイブリッド”を構成しているのも従来どおりだが、先代がベルト駆動のBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)を採用していたのに対して、新型はエンジンと9段ATの間にモーターを配置するISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)に変更。搭載されるモーターも強力になり、加速時には最大で23PS、205N・mのアシストが可能となった。
エンジンをスタートさせると、OM654ユニットが発するノイズと振動は無視できないが、耳障りというレベルではないのが助かる。さっそく走りだすと、低回転からトルクが太く、しかもアクセルペダルの操作に素早く反応してくれる。モーターによるアシストが、より扱いやすい性格をもたらしているのだろう。最大トルクを1800rpmから2800rpmで発生するこのエンジンは、エンジン回転を上げなくても十分すぎる加速が得られる一方、高速道路の本線への流入などの場面で深めにアクセルペダルを踏み込めば4000rpm超まで力強さが続くのが頼もしいところ。
一方、走行モードを「ECO」に切り替えると、走行中でもアクセルオフでエンジンが停止し、低燃費に寄与するのがマイルドハイブリッドのメリット。アイドリングストップからエンジンが再始動するときのショックは軽く、煩わしくないのもうれしいポイントだ。
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ボディーサイズに似合わず走りは軽快
E220dの走りは、見た目から想像する以上に軽快だ。乗り心地は少し硬めで、19インチのスポーツ系タイヤが路面の荒れを拾いがちなのも気になるところだが、それでも必要十分な快適さが確保されている。個人的な好みを言えば、コンフォート系タイヤでよりインチの小さいタイヤが選べるといいのだが。
いまどきのFRだけに直進安定性に不満はない。後輪操舵システムの「リア・アクスルステアリング」は、PHEVのE350eにのみオプション設定されるため、このE220dでは選べないが、コーナリング時のフィーリングが自然なうえ、十分に軽快なハンドリングが運転の楽しさを加速させる。リア・アクスルステアリングを装着するE350eの場合、最小回転半径は5.0mとなるが、このE220dでも5.4mを実現し、ホイールベースが2960mmもあるとは思えない取り回しの良さは、まさにFRメルセデスの美点といったところだ。
余裕あるホイールベースのおかげで、後席の足元は広く、楽に足が組めるスペースが確保されている。ラゲッジスペースも奥行きや幅に加えて、十分な高さがあり、リアシートを畳まない状態でもゴルフバッグが3個収まる広さだ。
乗り心地の部分で多少気になるところはあるものの、クルマとしての完成度は高く、存在感も一気にアップした新型Eクラス。取材当日は3種類のパワートレインすべてを試したのだが、個人的にはこのディーゼルモデルが一番のオススメではないかと思っている。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE220dアバンギャルド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4960×1880×1470mm
ホイールベース:2960mm
車重:1920kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:197PS(145kW)/3600rpm
エンジン最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)/1800-2800rpm
モーター最高出力:23PS(17kW)
モーター最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)
タイヤ:(前)245/45R19 102Y XL/(後)275/40R19 105Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:18.5km/リッター(WLTCモード)
価格:921万円/テスト車=1201万4000円
オプション装備:メタリックカラー<オパリスホワイト>(13万1000円)/AMGラインパッケージ(50万4000円)/アドバンスドパッケージ(59万円)/レザーエクスクルーシブパッケージ(85万7000円)/デジタルインテリアパッケージ(40万4000円)/パノラミックスライディングルーフ(28万8000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:182km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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