ホンダWR-V Z+(FF/CVT)
「便利」の本質 2024.06.05 試乗記 ホンダのSUVラインナップに新たなエントリーモデル「WR-V」が仲間入り。その最大の特徴はインド生産とさまざまな割り切りによって実現した200万円前半からという販売価格だ。果たして日本のカスタマーを満足させることができるのだろうか。存在が大きすぎる「N-BOX」
このところ実家まわりの所用が増えて、折につけ住まいの東京と九州とを往復している。行き先はコミュニティーバスにも見放されたド田舎ということもあり、着いた空港からはレンタカーを借りての移動がマストだ。大きなゴミ出しなどがあるときは車種を指定するが、普段は軽自動車~Bセグメントあたりのクルマがランダムに配される代わりに料金が一番安いというプランを好んで使っている。
このレンタカーガチャで当たり物件といえば「ヤリス」「フィット」「ノート」のハイブリッドあたりになるわけだが、先日引き当てて感心させられたのが先代「N-BOX」だった。
現行型に乗った際には、その熟成ぶりに感心させられつつも、リピーター予備軍を一気に引き寄せるほどの差異ではない一方で、もし代々の既納客がくたびれてきて買い替えを検討する際には絶対に再び財布を開かせる、そういう出来のクルマだと思っていた。
大衆の枠内で特別を目指す。それは超コストコンシャスなコモディティーマーケットでの立派な戦い方だ。ファミレスでいえばロイヤルホスト、ビジホでいえばドーミーイン……と、思い浮かぶ他例はいくらでもある。スマホでいうなら日本はキャリアの偏った施策のおかげでそのシェアがやたらと高いが、他国からしてみれば「iPhone」とはそういう存在だ。
そんなアタマで旧型N-BOXに乗ると、これのどこに不満を抱けばいいのよというくらいに満足度が高い。特に軽トラが先導するのどかなバイパスの流れに身を任せると、白ナンバーを買う理由もETCを付ける意味も見失う。東京の常識は地方の非常識。そういうことを考えさせられる。
と、そこで思うのは、今、これこそがホンダの国内市場の首を絞めているのではないかということだ。日本の日常とN-BOXのフィット感とがあまりにビタビタにすぎて、ユーザーは生活環境の変化でも起こらない限りはそれこそ「フィット」に乗り換える気にはなれない。プラスαの付加価値をもった存在が「フリード」や「ヴェゼル」ではあるものの、そこは価格的にN-BOXとの乖離(かいり)が大きすぎる。果たしてN-BOXで得た大量のホンダ票を、いかに白ナンバーの登録車へと誘引しつつ長いお付き合いへと結びつけられるのか。WR-Vに課せられた裏の大きなミッションはそれだろう。
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メイド・イン・ジャパンからメイド・バイ・ホンダへ
WR-Vのパワー&ドライブトレインは1種類のみ。車格的には全高差を除けばほぼ同じという同門のヴェゼルと果たしてどうすみ分けようというのかと思っていたら、直近のマイナーチェンジでヴェゼルはガソリンのFFモデルを落とし、4WDのみの設定となった。FFのみのWR-Vに額面的なエントリーの役割を譲ったかたちだ。これで両モデルのスタートプライスは55万円差となる。
WR-Vの価格は209万8800円から。そのスタートプライスに該当する「X」でも機能装備の面で上位グレードに見劣りはなく、ADASも全グレードで標準装備となる。他銘柄の代表格といえば「ヤリス クロス」だろうが、価格差と装備差を吟味すると、伍(ご)すところにあるといえそうだ。
そんなWR-Vの優れたコスパの理由がインド生産であることをご承知の方も多いだろう。為替も含めてもはや中国やタイでの生産では劇的なコスト圧縮は望めないなか、まだインドならばその余地はある。そんな側面もあれば工場稼働の活性化という側面もあるだろう。マルチスズキが幅を利かせつつも世界のメーカーが参入するこれからの激戦区で少しでもコスト的優位に立つために生産規模を高めたい。国内では月販3000台を計画するWR-Vは、インドの稼働率を上げる援護射撃としても適切だ。
ホンダはすでに「オデッセイ」や「アコード」も輸入しているが、このシフトの背景には海外生産に積極的という社風に加えて、二輪での成功例も影響しているのだと思う。今や日本市場で販売されるホンダのバイクは小排気量車を中心に舶来化が相当進んでいる。一時期、「スーパーカブ」の生産を中国に移管した際には品質的な問題も耳にしたが、品質管理が行き届き、現場も成長した現在はクオリティー面での不評は耳にしなくなった。
四輪でも「USアコード」や「フィットアリア」などの前例が示すとおり、ホンダはかねて輸入販売には積極的だったが、ここにきてメイド・イン・ジャパンからメイド・バイ・ホンダへのシフトを本格的に検討しているのだろうか。言い換えればそれは、利ざやの小さいコンパクトカーやスケールの小さい日本専売モデルの国内生産供給が、いよいよ収益的にも難しいところにきているということでもある。国内雇用を死守するというトヨタでもこのカテゴリーで利益をひねり出すための苦労は相当なものだろう。現在、ホンダは日産と多面的な業務提携を検討している最中だが、項目のなかには当然これらにまつわる課題も共有されているはずだ。
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よく見える、すぐに使える
とあらばWR-V、気になるのはそのクオリティーだ。仮にN-BOXから乗り換えるとして、満足できる質感は備わっているのか。個人的にはイエスでもノーでもない、五分五分かなという印象だった。外装の塗装やチリ合わせ、内装の大物樹脂のテクスチャーなどは、かつて経験したインドもののどれよりも明確に上質だ。特に塗装は耐候最重視だろう本国仕様に対して、日本向けはひとむきしてるんじゃないかというくらいにゆず肌が気にならない。ダッシュボードのテカテカ感もしっかり抑えられており、スイッチ類のタッチも日本生産のそれと変わらないとみていいだろう。
が、同級のヴェゼルやフィットと比較して見ていくと、やはり端々にはアラがある。はめ込みものの隙間感やセンターコンソールの建て付け、ドアトリムの殺風景ぶりなど、安普請を感じるところもなくはない。でも、クルマがこれから普及する国の民のワクワク感からしてみれば、そんな価値はさしたる問題ではないのも確かだ。
では日本の立場からしてみれば、WR-Vの何に一番の価値があるのか。いざ乗ってみると特筆すべき事項があった。それは近年まれに見るといってもいい、視界や車両把握の明快さだ。いわゆるクラムシェルスタイルのボンネットはヴェゼルも同じだが、WR-Vは明確にスクエアな形状となっており、左右端も前端もバキッと見切れる。見た目のとおりウエストラインもド水平で周縁部の認識性も高いうえ、ホンダの長年のこだわりとしてピラー形状なども吟味されているから、視界のクリアさは同級のライバルに比べても明らかに一枚は上手だ。スペックを見て1790mmの全幅はどうなのよと思ってはいたが、これほどクルマが手の内にいるならばまったく不満はない。さすがに後方ばかりはそうはいかないが、ここはリアモニターやソナーなどで補完することになるだろうか。
このクルマでZ世代の捕獲を狙っているというホンダ的には古くさくてお恥ずかしいという話かもしれないが、視界に加えてむしろ歓迎したくなるのは、エアコンに物理ボタンが残っていたり、シフトレバーやサイドブレーキが手引きだったり、ハザードスイッチがセンターに陣取っていたりというインターフェイスの旧態さだ。走る曲がる止まるの操作ロジックが昭和そのまんまというのは今やむしろ肯定的に捉えられる。ただしACCは30km/h前後でカットオフされる旧態的なロジックだ。
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何の文句もありません
クルマというアイテムはケータイなどと同じく、商品であると同時にインフラでもあるからして、消費者の脱落を無視することはNGという倫理や責任感をもって関わるべきものだと思う。近年はIT的な感覚でそれをガン無視するような銘柄がその乱雑ぶりを優位に吹聴する傾向もあるが、金にもならない安全運転普及本部を半世紀以上前から運営するほど交通事故に敏感なホンダが、そこのところをほごにするわけがない。
その走りについては果たして、何を伝えればいいだろうと思うほど引っかかるものがなかった。基本的にヴェゼルも同じものを積む1.5リッター4気筒の感触はカサカサとドライな感があったが、それは制振や遮音の要素による印象差もあるだろう。かの地ではむしろ上質さの一因と考えられているというCVTの感触も、今々のモデル群と著しい差はなく、エンジンの無駄ぼえに伴うラバーバンドフィールなども抑えられている。コーナリングは粗相はないけど彗眼(けいがん)するほどの要素もない。操舵にも制動にも唐突な要素はなく、想定できる範囲で癖なく収まっている。
もう、日々普通に乗るクルマとして何の文句もない。なんなら前述した静的質感についてもリアルなカスタマーにおいてはどうでもいいことだろう。クルマ好きが唱える官能だの実感だのという呪文を差し置いて、なんならガチの運転しやすさを評価してタクシーや教習車に化けても全然OKなクルマだとも思う。そこで忘れ物のようなひとことを付け加えるなら、後席の居住性は「ロッキー/ライズ」はもとより、「CX-3」もヤリス クロスも相手にしないほど広々としている。なんなら、かの地ではショーファードリブンとしても使われるというから、それも、さもありなんだろうか。
前述のとおり、ホンダはこれをZ世代にあてがいたい思惑だというが、WR-Vはむしろ年配のドライバーに喜ばれるクルマではないだろうか。乗り降りしやすく視界は開けていて、あるべき場所にあるべきものがあり、人もゆったり荷物もしっかり積める。N-BOXに足りないものを探すのは本当に難しいが、クルマ選びに迷えるシニアには、試乗してもらえば伝わるものがあるのではないかと思う。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ホンダWR-V Z+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4325×1790×1650mm
ホイールベース:2650mm
車重:1230kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:118PS(87kW)/6600rpm
最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/4300rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(ブリヂストン・トランザT005A)
燃費:16.2km/リッター(WLTCモード)
価格:248万9300円/テスト車=282万8100円
オプション装備:ボディーカラー<イルミナスレッドメタリック>(3万8500円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット(4万0700円)/ドライブレコーダー<フロント用>(3万7400円)/9インチHonda CONNECTナビ(20万2400円)/ETC2.0車載器<ナビ連動タイプ・アンテナ分離型>(1万9800円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1270km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:262.8km
使用燃料:25.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:10.4km/リッター(車載燃費計計測値)/10.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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