第100回:コンパクトSUV百花繚乱(前編) ―デザイン的にも粒ぞろい! 老若男女をメロメロにする人気者の実情―
2026.01.28 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
日本国内でも、海外でも、今や自動車マーケットで一大勢力となっているコンパクトSUV。ちょっと前までマイナーな存在だったこのジャンルは、なぜ老若男女をメロメロにする人気者となったのか? 話題の車種を俯瞰(ふかん)しつつ、カーデザインの識者と考えた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
スズキは商売がうまい!
webCGほった(以下、ほった):皆さん聞いてください。この「カーデザイン曼荼羅」、今回が100回目です。
清水草一(以下、清水):記念すべき第100回のテーマが、コンパクトSUVでいいの?
ほった:まぁいいんじゃないですか。日本でも海外でも、今や人気の超重要ジャンルだし。それに清水さん、きっと「スズキ・クロスビー」のお話がしたかったんじゃないですか?
清水:個人的に、今いちばん注目してるクルマなんだよねぇ。(参照)
渕野健太郎(以下、渕野):この間マイナーチェンジしたクロスビーですね(参照)。これは私も、デザイン的にすごく難しい仕事だなって思っていたんですよ。というのも、“丸目から丸目”への変更じゃないですか。これは逆に難しい。普通に考えると、あまり印象が変わらない。
ほった:そうですよね。
渕野:でも今回は、すごく“変わった感”が出ているじゃないですか。前のモデルとまずシルエットが違う。以前より四角くなっていますよね。ボンネットまわりのシルエットが違うので、違うクルマに見えるぐらいの変化です。顔だけを見ても、前面をフラットにして、丸目の上を切ったようなランプと横長のグリルをひとまとめにしている。
清水:前のが悪かったわけじゃないんだけど、今回のほうが断然好みだな。スッキリかわいくて。
渕野:スズキが上手だなと思うのは、これはジープと同じ手法なんですよね。ジープは「ラングラー」をベースに、ほかの車種にもその顔まわりの意匠を展開させていますが、スズキも「ジムニー」を起点に、例えば「ハスラー」とか「スペーシア ギア」とかに、「横長のグリルに丸目」というアイコンを取り入れてる。今回のクロスビーもそうで、ホントに商売上手です。逆に言えば、ジムニーがそこまでのポジションになったんだなって、あらためて感じました。
清水:振り返ると、初代ハスラーがバカウケしたのでクロスビーはその系統のフロントデザインで出たんだけど、今はジムニーが大人気だから、そっちに切り替えたわけですね。
テールランプの“費用対効果”がスゴい
渕野:もうひとつ、写真を見比べながら「あっ」と思ったのがサイドビューです。さっき言ったように、フロントまわりは四角く変わったんですが、リアはそのまま……とはなっていない。実はリアコンビランプを角張らせて、微妙にプロポーションが四角く見えるようにしているんですよ。
清水:そうなんだ!
渕野:従来型のリアコンビはつるっとしているんですが、新型はリアコンビランプの角をちょっとだけ立たせている。それによって、クルマ全体をなんとなく角張って見せているわけです。これはすごい技だなと思いました。リアゲート自体は全く変わらないんですが、リアコンビのレンズを、ちょっとだけ飛び出ているように見せている。実車を並べて比べたわけじゃないんですが、写真で見る限りそうです。
従来型は、フロントが丸いからリアも丸くて整合がとれてたんですけど、今回はフロントを四角くしたのに、リアが丸いままだとちょっとおかしいでしょう? その問題を、リアコンビランプだけで解決しちゃったのかと思うと、これはすげえ(笑)。それだけでプロポーションがしっかり見えるんです。お金をそんなにかけずに、プロポーションの雰囲気まで変えているのがスゴい。
清水:なるほど、納得しましたよ! それですごく魅力的になったんですよね。前型は微妙にファンシーで、男には買いづらい感じもあったけど、新型は誰が乗ってもサマになる。気負ってない、脱力感のあるイメージになってますよね。カーマニアのハズし技としてもイケる。いやホント、「プジョー508」をこれに買い替えようかなって思いましたよ(笑)。欲しいなぁ。
渕野:好みの問題は脇においても、賢いマイナーチェンジのお手本みたいな感じがしますね。フロントまわりをごっそり変えているので変化感が出るのは当然ですが、リアコンビランプの件も含めて、ホントよくできてる。
ほった:このマイチェン以降、販売台数が2倍に増えてますね。
清水:元が少なかったから、もっと売れてもいいような気がするよ!
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
実は登録車のいちばん人気
渕野:それにしても、クロスビーはモデルライフ8年にして、フルモデルチェンジじゃなくてマイナーチェンジですか。最近はクルマのモデルサイクルが長くなっていますよね。「三菱デリカD:5」なんか典型ですが、長いライフをマイナーチェンジでつないでる。
ほった:ほかにお金を使わなきゃいけない開発がいっぱいありますから。今のご時世、ガンバってもあまり評価されない部分は、お金をかけずにそのまま使う流れになっているんでしょうね。プラットフォームとか。
清水:30年前は、「4年のフルチェンジごとにプラットフォームごと新しくする!」くらいの勢いだったから、隔世の感だね。
渕野:それと、今回のテーマでいうコンパクトSUVって、どこまでのクルマを指すんですかね? 私は「ホンダ・ヴェゼル」ぐらいまでかなと思うんですが。
ほった:ですね。Cセグメントまで含むと「スバル・フォレスター」あたりも入ってきますけど、あれはアメリカじゃコンパクトでしょうが、日本ではとても……。
清水:今回のテーマとしては、Bセグまででいいんじゃない?
渕野:Bセグメント以下だと、そんなに数がないんじゃないですか?
清水:それが、今ではそうでもないんですよ。販売台数もこちらのほうが多いし。
渕野:代表格はやっぱり、「ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズ」の兄弟ですかね。
清水:ロッキーとライズを合わせると、実は2025年の国内登録車販売台数ナンバーワンなんですよ。トヨタの「ヤリス」「カローラ」は、クロス系とその他の車形を合算した数字なんで。
ほった:実質、登録車でいちばん人気なんですね。
渕野:デザインに関しては、ロッキーもすごくいいなと思います。もう登場から何年もたっていて、結構古いですけど、よくできてる。なにより、このサイズでちゃんとSUVに見えるところがすごい。
清水:あと、誰にも嫌われないところとか。
ほった:それ、ほめてます?
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
コンパクトSUVの人気を高めた立役者
渕野:あとは「トヨタ・ヤリス クロス」かなぁ。これもデビューしたときからいいなと思ってました。もともと、このクラスはSUVが少なかったんですよね。だけど、ここら辺のクルマが出てきて、一気に増えた。
清水:ヤリス クロスは、クロスビーやロッキーと違って、丸みを帯びた乗用車的な形だけど、サイズの割に押し出し感があるし、うまいこと仕上げてますよね。
渕野:結局、ヤリス クロスがこのクラスの火付け役なんでしょうね。その発展が「レクサスLBX」。これもダウンサイジングする人にとっては、いい選択だと思います。
清水:あとは逆輸入勢。まずスズキの「フロンクス」。
渕野:あ、それ忘れてた。
ほった:フロントマスクを見ると、ちょっと前のシトロエンに寄せてますよね。フォグランプっぽいところに本当のヘッドランプがいる。
清水:いや別にシトロエンじゃないでしょ。そもそもは「日産ジューク」だし、デリカD:5もそうだし。少し前のはやりだよね。
渕野:フロンクスは、ヤリス クロスより一回りタイヤ外径が小さいのですが、そういう制約のなかで、なんとかSUVとして成立させようという気概が感じられますよね。国内でどれくらい売れるのかわかりませんが……。
清水:最初は結構売れてましたけど、クロスビーのマイチェンの影響か、2025年の秋からガクッと落ちました。
ほった:ああ、残念。
清水:フロンクスのデザインは、スズキのアジア新興国戦略を体現しているよね。ちょっと豪華に見せたいっていう。日本ではもっとシンプルなほうがいい。スズキは今でも、仕向け地によってまるでデザインテイストを変えてくる。
ほった:このクルマに関しては完全にインドメインで、「日本でも出すか」くらいの感じでしょうね。しかも、インドではNEXA(ネクサ)っていうプレミアム販売網で売っているクルマなので、そういう点でも豪華押しなんでしょう。同じアジア戦略車でも、ホンダの「WR-V」は真逆。
清水:こっちはベーシック狙いね。あれくらい割り切ってると、クルマ好きとしては好感持てるな。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
自動車メーカーの思惑どおり
渕野:あとは日産の「キックス」ですけど、もう古いし、そろそろ新型が出るのかな。キックスの新型はどうですか?
ほった:いや、デカいんすよ、かなり。新型の外寸は米国仕様で全長×全幅×全高=4366×1801×1626~1631mm。
清水:全幅、1800mmまでいっちゃうのか。
渕野:どんどんでデカなりますね。これ、日本でも販売するんですよね?
ほった:それはおそらく。えり好みしてたら、日産は売るクルマがなくなっちゃいますから。
清水:全幅を見ると日本市場は眼中にない気もするけど。
ほった:日本に来るまでにダイエットしてもらいましょう。それにしても、こうして見るとコンパクトSUVは百花繚乱(りょうらん)ですね。いちジャンルに、ターゲットユーザーもキャラクターも違うクルマがギチギチひしめいてる。小型車をSUV化して高く売ったろうっていうメーカーの狙いが、バッチリ決まった感じですね。逆に、本来のベーシックカーはずいぶん少なくなりましたよね。販売的にも、「ホンダ・フィット」なんかも最近はあんまり売れてないみたいですし……。
渕野:ヤリスも、営業車とかレンタカーの需要は強いですけど、一般ユーザーはそこまで割り切れないかもしれませんね。そう考えると、SUV化したくなるのはすごく分かる。ヤリスだと気が引けるけど、ヤリス クロスなら乗ってもいいかなって、そういう風には思います。
清水:最量販モデルがSUVになるのも、必然ってことですね。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=スズキ、ダイハツ工業、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、向後一宏、webCG/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第133回:軽EVのデザインを考える(後編) ―「ラッコ」も「eスカイ」も夢がない!? 軽EVが“普通のデザイン”になった理由― 2026.10.21 「BYDラッコ」に「スズキeスカイ」と、新作が登場しては業界の話題をさらっている軽の電気自動車(EV)。しかし、そのデザインはどれも普通というか、エンジン車の延長線上にないか? 急速におとなしくなった軽EVの潮流を、カーデザインの識者と考えた。
-
第132回:軽EVのデザインを考える(前編) ―「スズキeスカイ」にみる“大衆車メーカー”スズキのスゴみ― 2026.10.14 希代の凡作か? 実はすべてが計算のうちか? スズキ初の軽乗用電気自動車「eスカイ」の造形を、カーデザインの識者と考察。つかみどころのないイメージの背景にある、“大衆車メーカー”スズキの慧眼(けいがん)に思いをはせた。
-
第131回:新型三菱パジェロ(後編) ―レトロブームには頼らない? 最新のデザイントレンドを追求した三菱の思惑― 2026.10.7 正式発表を間近に控え、ますますファンの間で話題が盛り上がっている新型「三菱パジェロ」。歴史的な旗艦の復活だというのに、三菱があえてレトロブームに乗らなかった理由とは? カーデザインの識者とともに、新型パジェロに見る最新のデザイントレンドを探る。
-
第130回:新型三菱パジェロ(前編) ―泥や雪より都会が似合う!? 高級&上質に進化した“関越キング”に思う― 2026.9.30 いよいよ登場した新型「三菱パジェロ」。復活を遂げたクロスカントリーSUVの雄だが、そのデザインは海や山やスキー場より、むしろ都会が似合うものに仕上がっていた!? 三菱が世に問う渾身の力作、その造形をカーデザインの識者とともに考察した。
-
第129回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(後編) ―プロポーションの進化と「駄作」の消失に見る、日本車の現在地― 2026.9.23 今や欧州と立場が逆転? 世界的に見ても高い水準にあるという日本のカーデザインだが、そこには本当に足りないものはないのか? 今後、さらなる発展を望むうえで必要なものとはなにか? カーデザインの識者と、日本の自動車デザインの“今”を考えた。
-
NEW
第347回:カーマニア的に隠れた名車
2026.10.26カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。「トヨタ・アクアGRスポーツ」を夜の首都高に連れ出した。実はこう見えて初代「アクア」の元オーナー。最初期型のハンドリングは「フェラーリ458イタリア」を彷彿させたが、最新モデルの走りはどうか。 -
NEW
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/7AT)/ゴルフRアドバンス(4WD/7AT)【試乗記】
2026.10.26試乗記1976年に誕生し50周年を迎えたフォルクスワーゲンのホットハッチ「ゴルフGTI」と、333PSの出力とハイテク満載の4WDシャシーを武器とする高性能モデル「ゴルフR」にサーキットで試乗。両者の違いとそれぞれの特徴を報告する。 -
NEW
ホンダが次世代ハイブリッドの名称を「Honda Hybrid」に決定 命名の理由とその背景を探る
2026.10.26デイリーコラム本田技研工業が2027年からグローバルで用いる次世代ハイブリッドシステムの名称を発表した。その名は「Honda Hybrid」である。「i-MMD」から「e:HEV」へと変更されて6年。慣れ親しんできた名称が変更される理由と、その背景を探る。 -
日産キックスX e-4ORCE(後編)
2026.10.25思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。箱根のワインディングロードでのドライブで、日産自慢の最新電動パワートレインと4輪制御技術はどんな印象を残したのだろうか。 -
レクサスES350h(FF/CVT)【試乗記】
2026.10.24試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。8代目となる新型ではボディーがググッと大きくなったほか、デザインも一気に現代的に。さらにトヨタグループでは最新鋭のパワーユニットを積むなど、中身も外身も刷新されている。2.5リッターハイブリッドモデルを試す。 -
第61回:「あえてのフツウ戦略」に脱帽! 「スズキeスカイ」の若きチーフエンジニアを直撃!
2026.10.23小沢コージの勢いまかせ!! リターンズスズキの軽乗用EV「eスカイ」が注目を集めている。小さなバッテリーにして一充電走行距離310kmを誇る電費のよさはもちろんのこと、スズキらしさ全開ともいえる価格設定もまたスゴい。若きチーフエンジニアの杉山達樹さんにその秘密を聞いた。

















































