KTM 990デューク(6MT)
“手に余る”究極の理由 2024.06.16 試乗記 KTMからリッタークラスの新型ロードスポーツ「990デューク」が登場。軽快なフットワークと独創のデザインを併せ持つモーターサイクルは、自称“古いオートバイ乗り”の目にどう映るのか。オーストリアから届けられるアバンギャルドな一台に触れた。ヒラヒラ舞うように扱えそうな感触
「手に余る」。これが個人的なKTM 990デュークの印象だ。ネガティブ発言に聞こえるかもしれないが、もしあなたがKTMに興味をお持ちなら、こんなたわ言もひとつの意見と受け止めてくれたら幸いです。
さておきKTM 990デュークは、デュークシリーズのデビューから30周年の2024年に登場した最新モデルだ。前身の「890デューク」で採用されていた「LC8c」エンジンを拡大し、排気量は947ccで最高出力123PSを発生する、水冷4ストローク並列2気筒DOHCエンジンを搭載している。
などと涼しげに記しているが、ほぼ1リッターで出力100PS以上と聞けば、現代のオートバイのスペックに不慣れな者は肝っ玉が縮み上がる。なので慎重にスロットルを開けてみたのだが、取り越し苦労と言うべきか、いきなり別世界に放り出されるような加速感には襲われなかった。それを安心材料にして街なかを走らせるうち、低速域からでも十分なトルクを引き出せる特性がわかってくると、存外に扱いやすい印象すら覚えるようになる。
ただし、警戒心を解くことはできない。鼓動感を放ちながらもスムーズに高回転域に達するエンジンの手綱を緩めた瞬間、それこそ別世界にさらわれる予感を常に感じるからだ。穏やかにもたけだけしくも乗れそうな幅の広さは、ビッグツインのだいご味なのかもしれない。けれど自分には、ガラガラうなるサウンドはアラートのサインに聞こえた。
すべては「見た目のわりに」という錯覚が油断を引き起こす。ゆるめのライディングポジションもそうだ。ネイキッドモデルのデュークはバーハンドルが主流ゆえ、上体の筋力が求められる前傾姿勢を強いられない。加えてハンドル位置が近めなので、上半身の自由度も高い。ゆえに乗りやすいと思ってしまう。さらに、825mmのシート高はシート自体の幅が狭いので足つき性も悪くないし、狭いながらも尻の収まり具合もいいから困る。
聞くところによると、990デュークには新たな構成部品が90%以上も投入されているそうだ。そのハイライトが、新設計のチューブラータイプフレームとスイングアーム。車体の剛性を高め、リアアームはしならせることでより曲がれるようになったというが、申し訳ないけれどその功績を実感できる技量はない。ただ、このサイズで燃料込み190kgが醸し出す軽量感は、ビシッと硬めの乗り味を担保にした、ヒラヒラ舞うように扱えそうな感触によって体感することができた。
だとしても、「このオートバイを選んでよかった」と喜べる舞台は街なかではないだろう。そもそもKTMは「RADY TO RACE」をうたっているので、街なかしか走らない者の「手に余る」のは当然かもしれない。それでもロードモデルをつくり続けるKTMについて、このあと所見を勝手に語ることにする。「これに乗ってくれてよかった」とデュークが思ってくれない自負を持つ乗り手なので、さして説得力はないけれど。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
なぜKTMはこれほどまでに独創性が高いのか
最も「手に余る」と感じるのは、車両デザインだ。特にデュークの顔は、もとより昆虫を合成したような特異な意匠だったが、今回の990はその極みに到達した感が強い。縦に2つ並べられたプロジェクタータイプLEDヘッドランプの周囲に、細長いポジションランプとデイタイムランニングランプを配置。それが何に見えるかはあなたに任せたい。
なぜKTMはこれほどまでに独創性が高いのか。あるいはこれほどの自由度を許せるのか、実はずっと不思議だった。調べてみたら(二輪事情に詳しい方なら周知の事実かもしれないが)、デザインワークは外部に委託していることがわかった。KTMの母国であるオーストリアに本社を持つKISKA(キスカ)というプロダクトデザインの会社が、そのすべてを担っているらしい。
KTMとKISKAが交わったのは1990年代の半ば。つまりデュークが誕生したのと同じタイミング。それと前後する時期に、オレンジのコーポレートカラーや、KTMが標榜(ひょうぼう)し続けている「RADY TO RACE」のメッセージがKISKAから提案されたそうだ。新しい製品やサービスを世に送り出すとき、専門家が手を組む協業は大きな成果を発揮するのだろう。その成功例が、30周年を迎えるに至ったデュークなのかもしれない。
ただ、独創的なプロダクトデザインを特徴にするKTMは、いつまでデザインの革新を継続できるのか。その革新がどこまでユーザーたちを連れていけるのか。そんな疑問を抱いたのは、990デュークの試乗を終え、あらためてその顔をのぞき込んだときだった。まだメタモルフォーゼは終わっていないと言わんばかりで、その強気ぶりも個人的には手に余った。
あれこれ好き勝手を述べているけれど、要は知らないだけなのだ。デュークを掌握しきれている人の姿を。そのサンプルを目の当たりにできたら、少しはオリジナリティー豊かなデザインに対抗する手段が見つけられるのかもしれない。
この問題の究極は、どんなヘルメットをかぶりどんな服を着れば990デュークに似合うのかがわからずじまいで、そのアイデアの足りなさが「手に余る」原因になっている気がする。いやまったく、さまつな結論に聞こえるだろうが、古いオートバイ乗りは最新のスペックとデザインに乗せられるばかり。その戸惑いが手に余って仕方ない。
(文=田村十七男/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1476±15mm
シート高:825mm
重量:179kg(燃料なし)/190kg(燃料含む)
エンジン:947cc水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:123PS(90.5kW)/9500rpm
最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/6750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.7リッター/100km(約21.3km/リッター、WMTCモード)
価格:179万9000円

田村 十七男
-
スズキGSX-8T(6MT)【レビュー】 2026.3.25 昨今のネオクラシックブームに乗り、いよいよスズキからも新型車「GSX-8T」が登場。しかし実車に触れてみると、既存のライバルとはちょっと趣の異なるマシンとなっていた。スタイリッシュないでたちとスズキらしい実直さが融合した、独創の一台を報告する。
-
日産セレナe-POWERハイウェイスターV(FF)【試乗記】 2026.3.24 販売台数ではトヨタ勢に差をつけられながらも、日産の屋台骨として奮闘する「セレナ」。現行型の登場から3年、マイナーチェンジで磨きがかかった最新の「e-POWERハイウェイスターV」に試乗すると、人の感性に寄り添う開発陣のこだわりと良心が見えてきた。
-
BMW iX M70 xDrive(4WD)【試乗記】 2026.3.23 BMWが擁するSUVタイプの電気自動車「iX」。そのハイパフォーマンスモデルが「iX M70 xDrive」へと進化を遂げた。かつて、BMWの志向する次世代モビリティーの体現者として登場した一台は、今どのようなクルマとなっているのか? その実力に触れた。
-
BMW i5 eDrive35LエクスクルーシブMスポーツ(RWD)【試乗記】 2026.3.21 BMWの「5シリーズ ロング」は知る人ぞ知る(地味な)モデルだが、実はエンジン車のほかに電気自動車(BEV)版の「i5 eDrive35L」も用意されている。まさに隙間産業的にラインナップを補完する、なんともニッチな大型セダンの仕上がりをリポートする。
-
日産リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2026.3.20 民生用電気自動車のパイオニアである「日産リーフ」が3代目へとフルモデルチェンジ。シャシーや電池、モーターなどすべての要素を刷新し、もはやスペック上は何の不安もない水準にまで進化している。360km余りのドライブで実際のところを確かめた。
-
NEW
500万円超のラインナップが2倍に!? 唐突すぎるホンダの上級車種戦略に物申す
2026.3.27デイリーコラム2026年は500万円超のモデル数が2倍に!? 急拡大するホンダの上級車種だが、そこにいまひとつ計画性を感じられないのはなぜか? 豊富とはいえないグレード構成に、再販と販売終了を繰り返すこらえ性のなさ……。今、あえてホンダの上級車戦略に苦言を呈す! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)
2026.3.27JAIA輸入車試乗会2026中国からやってくる「BMW 5シリーズ ロング」はなんとも不思議な存在だ。全長を5175mmまで拡大した後席主体のクルマかと思えば、運転してみても軽快かつ痛快。ポジションはちょっと地味ではあるものの、後世になって「隠れた名車」として評価が高まりそうな予感がする。 -
ディフェンダー・トロフィーエディション キュレーテッドフォージャパン(4WD/8AT)
2026.3.26JAIA輸入車試乗会2026カッコと走りがすばらしい、だけじゃない。黄色いボディーが目を引く「ディフェンダー」の限定車「トロフィーエディション」を前にしたリポーターは、目の前の現実のはるか先にある、伝説のアドベンチャーレースに思いをはせた。 -
おめでとう勝田貴元選手! WRCでの日本人34年ぶりの優勝に至る、14年の足跡
2026.3.26デイリーコラム世界ラリー選手権(WRC)サファリ・ラリーで、勝田貴元選手が優勝! WRCのトップカテゴリーで日本人が勝利を挙げたのは、実に34年ぶりのことだ。記念すべき快挙に至る勝田選手の足跡を、世界を渡り歩くラリーカメラマンが写真とともに振り返る。 -
第954回:イタリア式「走ったぶんだけ保険」奮闘記
2026.3.26マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、マイカーの維持費を節約するべく走行距離連動型の自動車保険に挑戦! そこに待ち受けていた予想外のトラブルの数々とは? 保険にみるイタリアのお国柄と、2カ国生活者ならではの“あるある”な騒動をリポートする。 -
フェラーリ・アマルフィ スパイダー
2026.3.25画像・写真フェラーリが2+2の優雅なオープントップモデル「アマルフィ スパイダー」を日本初公開。フェラーリならではの純粋な走りの高揚感と、4座オープンのパッケージがかなえる多様な体験価値を提供する一台を、写真で紹介する。











