トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”(4WD/6MT)
惜しみない拍手を 2024.06.18 試乗記 「トヨタGRヤリス」に追加設定されたAT車のデキのよさは広く報じられているが、6段MTモデルだってきちんと“進化型”へと生まれ変わっている。タイムを追うならATかもしれないが、操る楽しさならやっぱりMTだ。「RZ“ハイパフォーマンス”」の仕上がりを報告する。いかにも高性能車の振動
初夏の早朝、自宅近くの駐車場まで歩くこと数分。あたりはすでに白んでいる。前日止めた進化型GRヤリスに乗り込む。ドライバーを守る壁、みたいなダッシュボードが新しい。愚直な機能主義が用の美を生んでいる。外装についてはキャプションをご参照ください。
シートの位置が25mm下がってもいる。ヘルメットを装着した際の頭上空間を確保するためだ。6点式ベルトで体がシートにくくり付けられても、インフォテインメント用のスクリーンに手が届き、操作できるようになっている。前方視界を広げるべく、ルームミラーをより高い位置に移動してもいる。ラリー、ジムカーナといった競技でパイロン等を見やすくするためだ。
足応えのあるクラッチを踏み込み、ダッシュボードのスタート&オフの丸型スイッチを押す。ぶるんっと、1.6リッターの3気筒エンジンが軽く振動して目を覚ます。足の裏にショックが伝わってくる。いかにも高性能車。3気筒特有の振動もあるかもしれない。
車載コンピューターが「今日はこんにゃくの日です」と教えてくれる。こんにゃくといえば……筆者的には『あしたのジョー』のこんにゃく戦法ですけれど、その話を書いていると話が前に進まない。私は急いでいる。6MTのGRヤリスで、約束の時間までに約束の場所に行かねばならない。
小さなスーパーカー
前日、webCG編集部から自宅まで乗ってきたときは、乗り心地の硬さと、ボーボーという排気音が気になった。こんにゃくの日に乗るクルマではない。そう思った。ところが、走りだして路地を出て、広めの一般道でアクセルを踏み込むや、ヒャッホー! と快哉(かいさい)を叫びたくなった。快なる哉。快なる哉。混雑した道路状況では発揮できなかった潜在能力が解き放たれ、本来の姿を見せたのだ。
1618cc直列3気筒ターボチャージャーは最高出力が272PSから304PSに、最大トルクが370N・mから400N・mに引き上げられている。中低速域がいっそう分厚くなった。筆者もそう感じる。排気音も、より野太く、よりドラマチックになっている気がする。
ギアシフトをほんの数回繰り返すと、いつの間にか一般道の制限速度に達し、高速道路に上がってしまえば、天下無敵。いや、その前からそう思いはじめていたけれど、自分が路上の悪魔になった心持ちになってくる。狭いニッポン。そんなに急いでどこへ行く。自戒しつつ、首都高4号線に入る。目地段差の連続が気になったのは高井戸ICのあたりのこと。ダダンッとショックを感じるたびに高性能車に乗っている感じがして喜んでいる私がいる。タイヤは225/40ZR18の「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S」である。ボディー剛性を含めて、これは小さなスーパーカーなのだ。
ロードノイズははっきり大きい。路面によっては、ロードノイズだけが室内に広がる。高速巡航だとエンジンがなりを潜めているからだ。国立府中ICあたりの路面だと、ロードノイズで、車中の会話も大声になるかもしれない。路面と速度によっては跳ねるときもある。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
みなぎる剛性感と弾性感
それもまた楽しからずや。と余裕をもってそう思えるのは、ボディー全体の剛性が上がってもいるからだろう。具体的にはボディーとショックアブソーバーを締結するボルトの数を1本から3本に増やすことでアライメント変化を抑え、ステアリングの応答性を高めているという。フロントのフードを開けて、ボディーとストラットの締結部分の確認はしたものの、あいにく筆者にはステアリングの応答性の新旧の違いまでは分からない。
ステアリングはやや重めで、男っぽい。ブレーキもまた剛性感たっぷりで、制動力もフィールもすばらしい。6段マニュアルのギアボックスもまた称賛に値する。304PS、400N・mという高出力、大トルクなのにいささかも使いにくくない。ゲートは正確、適度に重さがあって、フィールに優れてもいる。極めて操作しやすい。
考えてみたら、私、GRヤリスを公道で試乗するのは初めてだったのですけれど、ボディーの剛性感が発表前のプロトタイプよりも引き締まっているように思う。スポット溶接の打点数を約13%、構造用接着剤の塗布部位を約24%増やしている。という情報がそう感じさせるのかもしれない。であるにしても、この世界一ホットな3ドアのハッチバックは、剛性感の塊であり、同時に、剛性感の塊というだけでは表現できない弾性を秘めてもいる。
剛性感の塊であると同時に、弾性感の塊でもある。鋼のボディーにゴムの塊のような弾性体のサスペンションが組み合わされている。ゴムの塊といっても、ブッシュのことだけを指しているのではなくて、ダンパーとバネの設定も含めた脚にバネ感がある。スーパーボールみたいな弾性感だけれど、バビューンと反発してどっかに飛んでいっちゃうのではなくて、路面の凸凹に反発しながら安定している。低反発という意味ではない。バネ感はあるのに落ち着きがある。時に跳ねるほどバネは硬い。なのに不快ではないのは、あらかじめそうなることがドライバーに予想できるから、なのかもしれない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
モリゾウからのプレゼント
低速で荒れた路面を通過する際にはガッタンガッタン揺れる。後席に人が乗っていたら不満を漏らすだろう。というような揺れ具合である。もっとも、GRヤリスの後席は多くの場合、畳まれて、競技用のタイヤが積まれているだろうから心配ご無用かもしれない。
いまどき、モータースポーツを意識した量産小型車が存在すること自体が奇跡である。ピュアなガソリンエンジンの4WD、競技用のマシンが500万円を切る価格で販売されていることも奇跡といってよい。いや、奇跡である。GRヤリスはモータースポーツの底辺拡大、という使命を担う、モリゾウさんからの贈り物だから、である。受け取れる方は受け取り、目的に合った使い方をする。それがモリゾウさんへの恩返しということにもなる。
試乗車はときどき、ビーッというビビリ音が左のほうから聞こえてきた。それもまた楽しからずや。ホットハッチのスーパーカーにして、競技用のリトルダイナマイト。至高の一台がここにある。公道では使えない「サーキット」モードという制御も新設定されている。冷却機能を高めた「クーリングパッケージ」というメーカーオプションも設けられている。書き忘れていたけれど、試乗車のRZ“ハイパフォーマンス”にはトルセンLSDが装備されている。
ヘルメットと競技用のタイヤを積んで、ジムカーナ場、もしくはサーキットへと向かう。そういう人にはピッタンコ。そうでない人にも、プロ用スポーツギアをフツウに使う楽しさがある。そのプロ用スポーツギアがより扱いやすく進化した。ここは万雷の拍手。スタンディングオベーションでしょう。さらなる快感はこのギアで自分が舞台に立つことで得られるはずだ。
(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1805×1455mm
ホイールベース:2560mm
車重:1280kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:304PS(224kW)/6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3250-4600rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92Y XL/(後)225/40ZR18 92Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:12.4km/リッター(WLTCモード)
価格:498万円/テスト車=562万8450円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイトパールマイカ>(3万3000円)/クーリングパッケージ<サブラジエーター、コールドエアインテークダクト>(11万円)/ナビパッケージ<コネクティッドナビ対応ディスプレイオーディオPlus、ドライブレコーダー【前方】+簡易後方録画、ステアリングヒーター、シートヒーター、ナノイーX、JBLプレミアムサウンドシステム【8スピーカー】、ETC2.0ユニット>(24万3100円)/デジタルキー(3万3000円)/寒冷地仕様+リアフォグランプ(3万6850円)/カーボンルーフ<マーブル柄>(16万5000円) ※以下、販売店オプション GRフロアマット<ベーシック>(2万7500円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:845km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:604.1km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
テスト距離:10.2km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
フェラーリ849テスタロッサ(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.2.3 フェラーリの新型スーパースポーツ「849テスタロッサ」は、スペシャルモデル「F80」に通じるデザインをまとい、歴史的な車名が与えられている。期待高まる、その走りは? スペインで試乗した西川 淳の第一報。
-
レクサスRZ550e“Fスポーツ”(4WD)【試乗記】 2026.1.31 レクサスの電気自動車「RZ」が大型アップデートを敢行。特に今回連れ出した「RZ550e“Fスポーツ”」は「ステアバイワイヤ」と「インタラクティブマニュアルドライブ」の2大新機軸を採用し、性能とともに個性も強化している。ワインディングロードでの印象を報告する。
-
スズキ・ワゴンR ZL(FF/5MT)【試乗記】 2026.1.28 スズキの「ワゴンR」がマイナーチェンジ。デザインを変更しただけでなく、予防安全装備もアップデート。工場設備を刷新してドライバビリティーまで強化しているというから見逃せない。今や希少な5段MTモデルを試す。
-
スバル・ソルテラET-HS(4WD)【試乗記】 2026.1.27 “マイナーチェンジ”と呼ぶにはいささか大きすぎる改良を受けた、スバルの電気自動車(BEV)「ソルテラ」。試乗を通して、劇的に改善した“BEVとしての性能”に触れていると、あまりに速いクルマの進化がもたらす、さまざまな弊害にも気づかされるのだった。
-
ホンダ・シビック タイプR/ヴェゼルe:HEV RS 純正アクセサリー装着車【試乗記】 2026.1.26 ホンダアクセスが手がける純正パーツを装着した最新ラインナップのなかから、「シビック タイプR」と「ヴェゼルe:HEV RS」に試乗。独自のコンセプトとマニアックなこだわりでつくられたカスタマイズパーツの特徴と、その印象を報告する。
-
NEW
第101回:コンパクトSUV百花繚乱(後編) ―理由は“見た目”だけにあらず! 天下を制した人気者の秘密と課題―
2026.2.4カーデザイン曼荼羅今や世界的にマーケットの主役となっているコンパクトSUV。なかでも日本は、軽にもモデルが存在するほどの“コンパクトSUV天国”だ。ちょっと前までニッチだった存在が、これほどの地位を得た理由とは? カーデザインの識者と考えた。 -
NEW
社長が明言! 三菱自動車が2026年に発売する新型「クロスカントリーSUV」とは?
2026.2.4デイリーコラム三菱自動車が2026年に新型クロスカントリーSUVの導入を明言した。かねてうわさになっている次期型「パジェロ」であることに疑いはないが、まだ見ぬ新型は果たしてどんなクルマになるのだろうか。状況証拠から割り出してみた。 -
NEW
日産エクストレイル ロッククリークe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2026.2.4試乗記「日産エクストレイル」に新たなカスタマイズモデル「ロッククリーク」が登場。専用のボディーカラーや外装パーツが与えられ、いかにもタフに使い倒せそうな雰囲気をまとっているのが特徴だ。高速道路とワインディングロードを中心に400km余りをドライブした。 -
第55回:続・直撃「BYDラッコ」! 背が15cmも高いのに航続距離が「サクラ」&「N-ONE e:」超えってマジか?
2026.2.3小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ2026年の発売に向けて着々と開発が進められている「BYDラッコ」。日本の軽自動車関係者を震え上がらせている中国発の軽スーパーハイト電気自動車だが、ついに大まかな航続可能距離が判明した。「これは事件だ!」ということで小沢コージが開発関係者を再直撃! -
クルマの進化は、ドライバーを幸せにしているか?
2026.2.3あの多田哲哉のクルマQ&A現代のクルマは、運転支援をはじめ、さまざまな電動装備がドライバーをサポートしてくれる。こうした技術的な進化は、ドライバーを幸せにしていると言い切れるだろうか? 元トヨタのチーフエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
フェラーリ849テスタロッサ(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.2.3試乗記フェラーリの新型スーパースポーツ「849テスタロッサ」は、スペシャルモデル「F80」に通じるデザインをまとい、歴史的な車名が与えられている。期待高まる、その走りは? スペインで試乗した西川 淳の第一報。















































