トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”(4WD/8AT)
あのころと同じ夢 2025.08.14 試乗記 「トヨタGRヤリス」のマイナーチェンジモデルが登場。ただし、いわゆるお化粧直し的な改良は一切なし! ひたすら速さのみを追求した、いかにもマニアックな進化を遂げているのだ。最上級グレード「RZ“ハイパフォーマンス”」の8段ATモデルをドライブした。もはやぜいたく品のホットハッチ
GRヤリスの発売はコロナ禍真っただ中の2020年9月ということだから、間もなく6年目を迎えることになる。この間、ライバルが続々登場……には至っていない。どころか、WRCへワークス参戦するエントラントも減っている。
その間、本場の欧州で何があったかといえばCAFEやユーロ6などの規制によるCO2およびエミッションの締め付け強化の一方、電気自動車化への政治圧力が高まっていったわけで、それによりハイパワーを廉価で楽しめるホットハッチのような企画は価格的に成立しなくなってしまっている。それでも踏みとどまっている数少ない銘柄といえば「ゴルフGTI」だが、本国のドイツでも4.5万ユーロ超~と、若者にはとても手の届かないところにいってしまった。そんな市況ゆえ、WRCに予算を割いても販売増の見返りが望めないという悪循環に陥っている。それが欧州の現状だ。
ちなみにGRヤリスのドイツでのお値段はほぼ5.2万ユーロ~と、現在のレートで換算すると日本の値札がうそのように思えてくる。と、そんなGRヤリスにこの春、2度目のマイナーチェンジが施された。といっても1度目は2024年1月の東京オートサロンで発表と、時間的には1年余りしかたっていない。しかも2024年のマイナーチェンジでは内外装の実戦的な変更やエンジン出力向上など、ひと通りかつ大がかりに手が加えられている。
はたして今回は何を……というわけだが、さすがにメニューは前回に比べると地味だ。足まわり部品の取り付けボルトの締結強度アップのためにリブを加えたりフランジの肉厚をアップし、それに合わせてダンパーやEPSのチューニングを再変更したりという具合だ。前回のマイナーチェンジで追加された8段AT「GR-DAT」は、よりダイレクトな応答性を目指して変速マネジメントを早速見直した。
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トルコンATならではのフィーリング
ほかにも細かなところに手が入っているが、分かりやすいのはこれまで競技ベース車両的位置づけだった「RC」のみにオプション設定されていたサイドブレーキの配置変更が全グレードで可能になったことと、S耐や全日本ラリーで得られた最新の知見を織り込んだ「エアロパフォーマンスパッケージ」を一部グレードにオプション設定したことだろう。
取材車はRZ“ハイパフォーマンス”でトランスミッションはGR-DAT、サイドブレーキの移設キットや冷却性能を強化するクーリングパッケージが搭載されていた。くだんのエアロパフォーマンスパッケージは2025年秋以降のリリースということで、現状では最も走りに振られた2ペダルのGRヤリスということになる。
取材日は折からの猛暑で早朝から気温が30℃に届かんとする、高性能ターボ車にとってはかなり厳しい環境だった。が、GRヤリスのスピードの乗りによどみはない。合流ではトントンと小気味よくギアを上げながら高速道路の流れに乗っていく。変速の感触はタイトだけど、DCTほどサクサクにドライな感じではなく、一般道でもわずかにトルコンのヌル味がみてとれる。例えば地下駐車場の上りスロープから歩道をまたいで路上に出るような曖昧な速度調整を要する場面では、そのわずかな滑りがありがたい。まどろっこしくない程度にトルコンのうまみが生かされているあたりは気が利いている。
さりとて、いざ走りを楽しみたいときにクラッチ式の2ペダルに対してダイレクト感や変速速度に見劣りがあっては元も子もない。今回の刷新ではその部分をさらに追い込んでスポーティネスを高めているという。具体的には2速から1速にダウンシフトする際の車速を高速側に変更し許容域を拡大したうえで変速時間を短縮。マニュアルモードかつドライブモードを「スポーツ」に指定している際のレッドゾーン付近でのダイレクト感を向上させたほか、登坂時はエンジンのパワーバンドを最適化するためにシフトタイミングをわずかに遅らせて回転数を高めたうえで上のギアにトスするような工夫も加えているという。おおむねは、初出時にトランスミッション保護のために取っておいたマージンを少し走り側に振る余裕が確認できたというイメージではないだろうか。ちなみに重量増は6段MT比でプラス20kgと優秀である。
縦引きサイドブレーキの使用感
ドライブモードをスポーツに設定すればGR-DATの変速マネージはスポーツドライビングに最適な回転域をつかまえにいくが、さらにアグレッシブに走るのであれば、もちろんシフトパドルでギア選択をオーバーライドできる。シフトレバーをマニュアルモード側に倒せば最速の変速操作となるわけだが、その際のレスポンスやダイレクト感はさすがに強烈で、甘えがないぶん熱ダレを心配してしまう。が、一等地に大容量のATFクーラーまで備わるなどとにかく仕事に隙がない。
こういう仕事は今までTRDのようなメーカーの別動隊が開発を担当し、施工は提携ショップというのが常套(じょうとう)だった。工場出しの段階からここまで念入りかつ保証付きという話はあまり思い浮かばない。さしずめ「911」なら「GT3 RS」のようなものということになるだろうか。「GRヤリスはメーカーさんがひと通りやってるから食えないんすよ」と、ちまたのチューニング屋さんが漏らすのも無理はない。
隙がないといえば、全グレードにオプション設定された縦引きのサイドブレーキもそうだ。ステアリングとシフトレバーの間に配することでリーチを縮めて反応速度とコントロール性を高めたそれは、今までメーカーのファクトリーオプションとして提供された事例に覚えがない。ここまできたら古い英国車のようにレバーはノッチレスのフライオフ式にして、利かせたサイドブレーキはボタンを押してロックするようにすればいいんじゃないかとも思ったが、さすがにそれはやりすぎだろうか。ただし、この安くはないオプション(13万2000円)はクローズドコースでお尻を滑らせるような走らせ方を優先したいという明確な目的意識をもって頼むべきものだと思う。取材車のようなATならともかくMTの場合、中・高速のサーキットをグリップで走るような用途では4~6速のトラベルに気を使うことになるかもしれない。
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乗り心地がよくなった!
そもそもBセグメント級のコンパクトなボディーにして300PSオーバーのパワーをシンプルかつ本格的な4駆で走らせるというのは、今や貴重すぎる体験だ。それをスポーティネスにおいてはMTと遜色のないATでイージーに扱わせてくれるのは、1980~1990年代のWRCに舞い上がった脚力弱め、あるいは痛風持ちのオッさん世代には思いがけないご褒美である。トヨタも罪なクルマをつくるのう……と乗っていて、ちょっと驚いたのは曲がってナンボの話ではなく、普通に走らせていての動的質感が明らかに上がっていることだった。
一般的な速度域での乗り心地自体はバネやスタビライザーといった金物の高レートぶりを伝えてくるが、転がりはバリが取れたように精度感が高まり、凹凸のアタリも角が丸められている。ハコの異様な剛性感にアシが引っ張られることなくきちんといなしが効いていて、大入力のバウンドの収まりなどはちょっと上質な感触さえ漂わせていた。硬いけど気持ちいい、こういう感触はかつてNA2の「NSX」やR35の「GT-R」でも味わったことがあるが、やはりつくり込みを重ねたことによる熟成によって宿るものなのだろう。
取材を終えて家に帰るや、ついウェブサイトで競技向けグレードであるRCの装備と価格の詳細を調べてしまった。ちなみに2025年のマイチェンでは法規対応でレーダークルーズコントロールやレーントレーシングアシストなどがRCでも標準化されている。本気で競技な方々にはひたすらウザいだけかもしれないが、軟弱な老眼ドライバーにとっては法規グッジョブだ。
ちなみにRCのGR-DATモデルは391万円、足まわりや冷却系を上位グレードに合わせる18インチパッケージが11万7700円、そしてエアコンが13万2000円で都合415万9700円。もちろん装備は大きく異なるとはいえ、走ること以外のぜいたくを求めなければ取材車より軽く100万円以上は安く同質のものが味わえる。まぁ実際は遮音や制震もない環境では日々のドライブには適さないだろう。でも、浮いたお金でマフラーやシートを変えてもこのくらいで収まるのか……なんて考えていると、かつて「インプレッサ」の「RA」や「ランエボ」の「RS」をオカズに同じような妄想を膨らませていたことを思い出した。あのころに比べるとクルマは劇的に速く賢くなったけど、クルマバカには一向に進歩はない。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=トヨタ自動車)
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テスト車のデータ
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1805×1455mm
ホイールベース:2560mm
車重:1300kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:304PS(224kW)/6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3250-4600rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92Y XL/(後)225/40ZR18 92Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:10.8km/リッター(WLTCモード)
価格:533万円/テスト車=608万8450円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイトパールマイカ>(3万3000円)/縦引きパーキングブレーキ<手動>+コンソールトレイ(13万2000円)/クーリングパッケージ<サブラジエーター、コールドエアインテークダクト>(11万円)/ナビパッケージ<コネクティッドナビ対応ディスプレイオーディオPlus、ドライブレコーダー【前方】+簡易後方録画、ナノイーX、JBLプレミアムサウンドシステム【8スピーカー】、ETC2.0ユニット>(21万5600円)/デジタルキー(3万3000円)/寒冷地仕様<ウインドシールドデアイサー、PTCヒーター等>+リアフォグランプ(3万6850円)/カーボンルーフ<マーブル柄>(16万5000円) ※以下、販売店オプション GRフロアマット<アドバンスト>(3万3000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1501km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:299.8km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
テスト距離:10.4km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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