ルマン24時間の舞台で鮮烈デビュー! ブランド初のBEV「A290」が目指したアルピーヌらしい“高性能”
2024.06.18 デイリーコラム新たな顧客層を開拓
フランスはサルトサーキットで、ルマン24時間のハイパーポールと決勝の合間を縫って、アルピーヌはブランド史上初の純電気自動車(BEV)となる「A290」の市販版を発表した。「ルノー5(サンク)E-TECH」と同じ「AmpRスモールプラットフォーム」を用いつつ、アルピーヌならではのスポーツ性、つまり「ホットハッチの伝統」を電動化の時代に復活させるモデルだ。
数年前からアルピーヌは「ドリームガレージ」というコンセプトで、ハッチバックとSUVクロスオーバーGT、そして「A110」を代替するBEVのベルリネットという3台のニューモデルを予告してきた。その第1弾がA290だが、プレゼンテーションを行ったフィリップ・クリエフCEOは2030年までに新たに7車種を投入すると明言。電動化の先駆けとなるA290の仕様内容に、さらなる興味と注目をかき立てた。
発表会場には24時間レースを控えたアルピーヌの耐久チームだけでなく、アルピーヌF1を去ることが発表されたエステバン・オコンと、残留するピエール・ガスリーも現れた。前衛舞踏による演出も相まって、華やかな雰囲気に包まれた。
無論、A290の車両コンセプトはアルピーヌらしく軽量でスポーティーであることだけではない。ブランドのレガシーやDNAを受け継ぎつつも、予定調和を潔しとせず、乗り手が主役であるクルマとして、若くて新しい顧客層を開拓すると、CEOは意気込む。A290の着想の元といえる過去のモデルは3台。すなわち1950年代の「A106」、1980年代の「ルノー5アルピーヌ」、そして現行A110という。A106は大衆車「4CV」をベースとし、5はもちろん当時のBセグスモールカーで、A110はアルピーヌの今日的なドライビングプレジャーの象徴。これらの要素をオールインワンとしたのがA290というわけだ。
Bセグメントとしては抜きんでた高級感
シルエットや高い位置に置かれた縦長のテールランプは確かにルノー5、もしくは「シュペール5」を受け継ぐが、フロント4灯が大小で配された新たなライトシグネチャーは、往年のラリーカーの前照灯に貼られたテープがネタ元になっている。コンパクトながらかつての「A110ベルリネット」と同様の地面への踏ん張りを強調した姿勢は、まさしく「Bombinette(ボンビネット=小さな爆弾)」の異名をとった往年の5アルピーヌや「5 GTターボ」に通ずる。
エクステリア同様、インテリアの仕上げの質感も相当に高い。現時点でハイエンドのトリムとなる「GTS」は、ダークブルーとグレーのコンビによるナッパレザーのシートがおごられ、サイドサポートに優れつつ必要なだけの柔らかさを両立させた座り心地だ。グレーのステッチや「A290」のエンボスが入ったアームレストなど、高級感もBセグとして抜きんでている。
コックピットの雰囲気も近未来的でありながらサンクをほうふつさせるもので、10.25インチのメータークラスターと、ややドライバー側にチルトされた10.1インチのタッチスクリーンが、視界の前にワイドに広がる。メーター表示は古典的な2連メーターを踏襲したレイアウトながら、パワーとチャージが左側、速度と航続距離が右側と、相反する要素を巧みに見やすくしている。「D」「N」「R」のボタン式シフトはA110同様で、スノーフレークなどのアルピーヌらしいモチーフがセンターコンソールにあしらわれている。
パワートレインはFWDで最高出力160kW(218PS)・最大トルク300N・mを発生し、52kWh容量のリチウムイオンバッテリーはシャシー剛性を兼ねており、車両重量1479kgで前後重量配分は57:43となる。パフォーマンス面では0-100km/h加速が6.4秒、WLTPモードによる航続距離は380kmをうたう。絶対的なスペックとしては控えめのようだが、アルピーヌらしくシャシーのセッティングやチューニングは通りいっぺんのものにはならないだろう。
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電子デバイスで運転の楽しさを増幅
サスペンションアームやサブフレームにはアルミニウムが多用され、ホイールベース間へのマスの集中化と低重心化を企図。専用タイヤをミシュランと開発したほか、トルクとブレーキのマネジメントコントロール、つまり左右輪のベクタリングシステムで、まったく新しいアルゴリズムを採用して特許を取得しているという。
加えてスウェーデンなどの氷雪路でのテスト走行を重ねた結果、低速域からの高いアジリティーを実現しながらも、日常的に扱いやすいハンドリング特性が得られたという。
以上がハードウエア面の概要だが、日常的な快適性と鮮烈なドライビング体験を両立させるため、A290はエンハンサーとなるさまざまなデバイスを備えている。
まずサウンドに関して、アルピーヌはフランスの音響メーカー、DEVIALET(デヴィアレ)と組んで、「アルピーヌドライブサウンド」というBEVならではの走行音体験を取り入れている。これはモーターの駆動音を回転数に合わせて、ハーモニクスとして増幅して取り出すシステムだ。フェイクでつくり上げた音ではなく、モーターのうなりを忠実に心地よく再現するため、エンジニアが主観的にチューニングを重ねた音だという。
サウンドモードは通常の「アルピーヌサウンド」と「オルタナティブ」があり、前者の場合、低速・低回転域では低くくぐもった音から加速の伸びに応じて徐々に破擦音のようなトーンがついていく。後者では、よりハイピッチでリバーブも効かせて、ほえるようにパンチの効いたニュアンスが味わえ、頭打ちすることなく音が伸びていく。これを20cm径のサブウーファーを含む計9つのスピーカーシステムから、走行中に発するのだ。
もちろんデヴィアレのシステムは通常のオーディオとしても使え、A290の車内空間に最大限のイマーシブ効果をもたらすという。「フィデリティー」と「スピーチ」、「ダイナミック」に「ヘビー」という、音源のタイプや好みごとに4つのモードを使い分けられる。
Googleネイティブのインフォテインメントを搭載
走りに直接かかわる部分でもユニークなデバイスがある。3本スポークのステアリングはF1カーのそれをイメージしており、スポーク右上には「OV」(オーバーテイク)ボタンが備わり、長押しすれば10秒間だけトルク&パワーを最大化する。また左下には「RCH」ダイヤルが備わり、ブレーキ回生の有無と強弱3段階、つまり4つのレベルで切り替えることが可能だ。
また足まわりには「HCB(ハイドローリックコンプレションバンプ)」と呼ばれるダンパーインダンパーを採用。タイヤはミシュランの専用開発による「パイロットスポーツEV」を標準で装着し、パフォーマンスタイヤの「パイロットスポーツS 5」、あるいは「パイロットアルペン5」という冬用タイヤも用意される。
ちなみにインフォテインメントはGoogleネイティブで、充電時間まで考慮したルート案内や音声認識による多彩なコマンドが可能。しかも走行中の前後Gや回生と制動力バランスなど、各種の情報がライブデータとして見られるテレメトリー機能に加え、ドライビングを評価するコーチングモードや各種チャレンジを採点する機能も備わる。もちろんOTAによるアップデートがなされるという。
かように車両重量になるべく影響を及ぼさないところで、車内エクスペリエンスやドライビング体験をブーストする要素が、さまざまに練り込まれているのだ。
もうひとつA290で特筆すべきは、ルノーグループのBEVとして初めて双方向OBC(オンボードチャージャー)を装備、つまりV2GやV2Lといった給電機能をも併せ持つ点だ。充電速度はACで11kW、DCで100kWまで対応しており、日本のCHAdeMO規格でも後者と同程度の性能は確保できるはずとのこと。欧州でのデリバリーは2024年末。右ハンドルの生産は2025年半ばから、日本市場への導入は2026年が見込まれる。
(文=南陽一浩/写真=ルノーグループ、南陽一浩/編集=藤沢 勝)
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南陽 一浩
1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。出版社を経てフリーライターに。2001年に渡仏して現地で地理学関連の修士号を取得、パリを拠点に自動車や時計、男性ファッションや旅関連を取材する。日仏の男性誌や専門誌へ寄稿した後、2014年に帰国。東京を拠点とする今も、雑誌やウェブで試乗記やコラム、紀行文等を書いている。
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