乗れば楽しいに決まってる! 「アルピーヌA290」に宿るルノー・スポールの魂
2024.07.03 デイリーコラムルノー・スポールからアルピーヌへ
アルピーヌから「A290」というブランニューモデルがお披露目されたのを、熱心な読者諸兄ならきっとwebCGの記事で読んだことだろう。まさにホットハッチと呼ぶにふさわしい、スポーティーに仕立てられたコンパクトなハッチバックの電気自動車(EV)だ。
そんなA290のアンベールの場はルマン24時間レースだった。サーキットのすぐ脇で、まさにレース期間中に行われたわけだが、何を隠そうワタクシ(ライターの工藤貴宏)もお披露目の場に立ち会った一人。A290が正式発表されると聞いて、居ても立ってもいられずにフランスまでノコノコ出かけて行ったのだ。
なぜかって? それはワタクシがつい先日まで「ルーテシア ルノースポール(R.S.)」を所有し、とっても気に入っていたから(ほれ込んでいただけに別れは本当につらかった)。スポーツカー事情に詳しい読者諸兄ならご存じとは思うが念のために説明しておくと、ルノー傘下にある現在のアルピーヌはルーテシアや「メガーヌ」に用意されたR.S.シリーズでおなじみのルノー・スポールがブランド変更した組織となっている。
つまり復活した「ルノー5(サンク)」をベースに高性能化したアルピーヌA290はある意味、ルノー・ルーテシアをパワフルなホットハッチに仕立てたルーテシアR.S.の同門であり、現代流解釈なわけだ。というわけで今回のコラムは、元ルーテシアR.S.オーナーの視点でアルピーヌA290をチェックしてみようじゃないか。
いかにも強そうなA290
まずはスタイル。はっきり言って甲乙つけ難い。
マツダから移籍したデザイナーのヴァン・デン・アッカー氏がまとめた4代目ルーテシアのデザインは流麗で美しさが宿っていた。それはホットハッチのR.S.になっても変わらず、中身は熱血体育会系だが見た目はスパルタンというよりエレガントだ。
いっぽうでA290は、見るからに武闘派。片側3cmずつ張り出したオーバーフェンダーはかつての「5ターボ」を思わせるし、ライトの「X」はラリーマシンのテーピングをイメージしているのだとか。いかにも強そうなオーラを漂わせている。
ルーテシアR.S.がシンプルで美しさを追求したのに対してA290はレトロモダンと方向性はまるで違うけれど、どちらも魅力的だと心から思う。A290の見た目だって大いにアリだ。余談だが、ヴァン・デン・アッカー氏はルノーのデザイン部門の責任者という立場で、A290のベースであるルノー5のデザインに携わっている。
「A110」のドライビング感覚を継承
パワーユニットはルーテシアR.S.がガソリンエンジンに対してA290はモーターと大きな違いがあるものの、面白いのは最高出力。A290の上位タイプは218PSだが、それは筆者が乗っていた「ルーテシアR.S.トロフィー」の220PSとほぼ同じ。あの「特別なテクニックを持たないドライバーがなんとか完全に支配下におけてアクセル全開を楽しめる感覚」がしっかり継承されている……はずである(乗ってないから分からんけど)。いっぽうで最大トルクはルーテシアR.S.トロフィーの260N・mに対してA290の上位タイプは300N・mと2割弱増し。車両重量まで含めて考えると、体感的な加速性能は同じくらいか?
発表会場でA290の開発者に走りの方向性を尋ねたところ「ガソリン車の延長線上にあるEVスポーツモデルをつくったわけではない。しかし、走りの気持ちよさはしっかりと盛り込んでいる」のだとか。
その点に関しては心配はいらないだろう。すでに市販されている「A110」(A290はA110のドライビング感覚を継承しているとのこと)に乗ればアルピーヌがつくろうとしている走りの気持ちよさの意味はしっかり伝わってくる。A290だって楽しくないはずがない。
ただ、アルピーヌのCEOであるフィリップ・クリエフ氏はアルピーヌの方向性についてこうも言う。
「ルノー・スポール時代はちょっとマニアックすぎたかもしれない。サーキット走行を楽しむオーナーにはとても喜んでもらったけれど、アルピーヌではもう少し一般的なクルマ好きにも楽しんでもらえるようなキャラクターにしたい」
A290のキーワードのひとつである「エブリデイスポーツネス」にはそんな意味が凝縮されているのだろう。
日本上陸は2026年以降?
ルーテシアR.S.は「ワインディングロード向け」と「サーキット向け」、そして「さらにサーキット向け」と3タイプのサスペンションが設定され(3タイプの足を用意する時点でマニアックすぎる!)、筆者は「毒を食らわば……」の精神で最もハードなサーキット特化タイプを選んだ。そんなワタクシからすると、開発者やCEOの言葉からひも解くA290はそこまで攻めたキャラクターではないのかもしれない。とはいえ、あの組織が送り出すクルマだけに、どの方向性でも運転の楽しさは外さないはずだ。
というわけで、A290の先輩にあたる(と勝手に思っている)ルーテシアR.S.の元オーナーとしてどう感じたかといえば、A290の期待値は相当高い。っていうか期待するなっていうほうが無理。日本導入に関してアルピーヌ・ジャポンの公式コメントとしては「導入検討中」だけど、きっと入ってくるだろう。
本国でも2024年の終わりから2025年初めにかけてのデリバリー開始が予定されていて、右ハンドルの生産が始まるのはそれよりもさらに先とのこと。となると、日本で乗れるのは早くても2026年初めごろとなるだろうか。
えっ、誰だい? 「せっかくだからかつての5ターボ(とか「ルーテシアV6」)みたいに後輪駆動にすればいいのに。モーター駆動なんだからやればできるでしょ?」とか「ガソリンエンジンバージョンもつくればいいのに? ついでにマニュアルトランスミッションも用意したら最高だね」なんて言っているのは。ワタクシはそんなこと言いませんよ。たとえ思っていたとしても。
(文=工藤貴宏/写真=ルノーグループ/編集=藤沢 勝)

工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
-
激動だった2025年の自動車業界を大総括! 今年があのメーカーの転換点になる……かも? 2025.12.26 トランプ関税に、EUによるエンジン車禁止の撤回など、さまざまなニュースが飛び交った自動車業界。なかでも特筆すべきトピックとはなにか? 長年にわたり業界を観察してきたモータージャーナリストが、地味だけれど見過ごしてはいけない2025年のニュースを語る。
-
スバリストが心をつかまれて離れない理由 「フォレスター」の安全機能を体感 2025.12.25 「2025-2026 日本カー・オブ・ザ・イヤー」に選出された「スバル・フォレスター」。走り、実用性、快適性、悪路走破性、そして高い安全性が評価されたというが、あらためてその安全性にフォーカスし、スバルの取り組みに迫ってみた。
-
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025 2025.12.24 旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表!
-
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題 2025.12.22 横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。
-
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」 2025.12.19 欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.12.30試乗記ホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。といってもただのリバイバルではなく、ハイブリッドシステムや可変ダンパー、疑似変速機構などの最新メカニズムを搭載し、24年分(以上!?)の進化を果たしての見事な復活だ。果たしてその仕上がりは? -
BMW M235 xDriveグランクーペ(前編)
2025.12.28ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルで、STIで、クルマの走りを鍛えてきた辰己英治が、BMWのコンパクトスポーツセダン「M235 xDriveグランクーペ」に試乗。長らくFRを是としてきた彼らの手になる “FFベース”の4WDスポーツは、ミスタースバルの目にどう映るのだろうか? -
ルノー・キャプチャー エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECHリミテッド【試乗記】
2025.12.27試乗記マイナーチェンジした「ルノー・キャプチャー」に、台数200台の限定モデル「リミテッド」が登場。悪路での走破性を高めた走行モードの追加と、オールシーズンタイヤの採用を特徴とするフレンチコンパクトSUVの走りを、ロングドライブで確かめた。 -
『webCG』スタッフの「2025年○と×」
2025.12.26From Our Staff『webCG』の制作に携わるスタッフにとって、2025年はどんな年だったのでしょうか? 年末恒例の「○と×」で、各人の良かったこと、良くなかったこと(?)を報告します。 -
激動だった2025年の自動車業界を大総括! 今年があのメーカーの転換点になる……かも?
2025.12.26デイリーコラムトランプ関税に、EUによるエンジン車禁止の撤回など、さまざまなニュースが飛び交った自動車業界。なかでも特筆すべきトピックとはなにか? 長年にわたり業界を観察してきたモータージャーナリストが、地味だけれど見過ごしてはいけない2025年のニュースを語る。 -
第942回:「デメオ劇場」は続いていた! 前ルノーCEOの功績と近況
2025.12.25マッキナ あらモーダ!長年にわたり欧州の自動車メーカーで辣腕(らつわん)を振るい、2025年9月に高級ブランドグループのCEOに転身したルカ・デメオ氏。読者諸氏のあいだでも親しまれていたであろう重鎮の近況を、ルノー時代の功績とともに、欧州在住の大矢アキオ氏が解説する。










































