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クルマの「〇〇らしい走り」とは? ブランド固有の“味”について考える

2024.08.05 デイリーコラム 工藤 貴宏
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それは“魔法のフレーズ”である

まず最初にお断りしておくが、はっきり言って今回のコラムは禅問答である。なぜなら、はっきりとした答えがあるようでない、なんともつかみどころのないテーマだからである。

なので、もし「付き合っている時間はないからダラダラ書くな。結論は簡潔に!」という忙しい人がこのページを開いてしまったら、見なかったことにしてサッと閉じることをおススメしておこう。

……ここまで確認したのだから、ここから先を読む人は完読後にくれぐれも「で、結論はなに?」なんて粋じゃない突っ込みはしないことを誓ってから読み進めてもらおうじゃないか。では、心してどうぞ。

今回のコラムのお題は、よくある“〇〇らしい走り”って何なのか? それは確かに味わえるのか? というものだ。

例えばトヨタは、2024年8月1日に発売した最新の「GR86」で、「GRらしい走りの味に磨きをかけた」と言っている。GRに限らず、「ホンダらしい」「Mらしい」「フランス車らしい」などクルマ好きがよく使うフレーズだけれど、実際、それは明確にわかるのだろうか?

確かに「○○らしい」というフレーズは自動車メディアに散見され、筆者も「そんなの使ったことなど一切ない!」と断言できるかといえば、できない。ただ、まず伝えておくと、「○○らしい」という言葉は絶対的な優劣を示すものではないということだ。

例えばある知り合いの言動について「アイツらしいな」と言った場合、それが指すのはポジティブな意味のときもあれば、ネガティブなときもあるだろう。クルマだって同じこと、いい意味にも悪い意味にもなる。

さらにいえば「○○らしい」というのは、料理でいえば「味の個性」のようなものだと思えばいい。

例えばラーメン。醤油もあれば味噌もあるし塩もある。担々麺だってある。そのなかで、味の薄いのがあれば濃いのもあるし、あっさりしたものがあればクセの強いものもある。そんななかで「○○(店名)のラーメンらしい味」といえばなんとなく説明がつくし、その“らしさ”と「おいしい/おいしくない」は関係ないのだ。「○○らしい」と言っておけば、なんとなく説明できるし誰もが納得するであろう、魔法のフレーズなのである。

プロドライバーからのフィードバックを生かして「GRらしい走りの味」に磨きをかけたとうたわれる、改良型「トヨタGR86」。同モデルの“味”については、具体的に「ドライバーの意のままに操れる“手の内感”」「限界域でのリニアな応答、キビキビした走り」と説明されている。
プロドライバーからのフィードバックを生かして「GRらしい走りの味」に磨きをかけたとうたわれる、改良型「トヨタGR86」。同モデルの“味”については、具体的に「ドライバーの意のままに操れる“手の内感”」「限界域でのリニアな応答、キビキビした走り」と説明されている。拡大
2024年8月1日に発売された改良型「トヨタGR86」のMT車では、スロットル特性が変更されている。操舵のレスポンスやリニア感のほか、接地感を向上させるなどして「GRらしい走りの味」を追求したという。
2024年8月1日に発売された改良型「トヨタGR86」のMT車では、スロットル特性が変更されている。操舵のレスポンスやリニア感のほか、接地感を向上させるなどして「GRらしい走りの味」を追求したという。拡大
2022年のデビュー時には「これがフェラーリ!?」と業界をざわつかせた4ドアの跳ね馬「プロサングエ」。今では「フェラーリらしい走りが堪能できるスポーツカー」との呼び声が多いが……さて、“フェラーリらしい走り”とは?
2022年のデビュー時には「これがフェラーリ!?」と業界をざわつかせた4ドアの跳ね馬「プロサングエ」。今では「フェラーリらしい走りが堪能できるスポーツカー」との呼び声が多いが……さて、“フェラーリらしい走り”とは?拡大

乗る側との相性も大事

話をクルマに戻すと、では“○○らしい”って明確にわかるのか? というのが論点なわけだが、それはわかるクルマとわからないクルマがある(しかも乗り手の感度によるところが大きいから話が厄介)。

「GRらしい」は正直なところよくわからないけれど(ブランドとして統一された方向性が見えないからだと思う)、例えば「BMWらしい」といった場合、ハンドルを切ったときのスッとクルマが向きを変える感覚がそれに相当すると筆者は思っている。「ホンダらしい」といえばやっぱり軽快な音でスムーズに回るエンジンだし、「フランス車らしい」といえば、シャープなハンドリングではないけれどフラット感が強くてソフトな乗り味が相当するだろう。

繰り返すが「絶対的な良さを表すものなのか」といえば、あまり関係ない。俊敏なクルマが好みでなければ「BMWらしい走り」なんて全く興味がないだろうし、逆にソリッドな操縦性を求めるなら「フランス車らしい」クルマは避けるべきだろう。「らしさ」とは、それを受ける側の好みとのマッチングも重要なのだ。

実のところ、「〇〇らしい」なんて、クルマを説明する際の便利な(逃げの)フレーズとして使っているだけじゃないのか? などと突っ込まれそうだが、確かに筆者に関していえば図星。そうやって便利に使わせてもらっている。だけど筆者以外の著者はきっと、逃げというよりは「そのほうが読者に伝わりやすい」として使っているんじゃないだろうか。

ただ、ひとつだけいえるのは、どのクルマも昔に比べると“らしさ”の濃度は薄まってきているということだ。これはグローバル化や点数主義の弊害であり、結果として個性が失われる残念な流れである(まれにやたらと濃いクルマもあるが)。

というわけで、同じような牛丼でも吉野家と松屋とすき家では味に差があり、感度が良くてわかる人には「〇○らしい」と判断できるが、わからない人にはわからない。そして“○○らしさ”とその濃度は、絶対的なおいしさとは比例しない。そういうことなのだ。

やっぱり食べ物に例えるのが、一番わかりやすい。

(文=工藤貴宏/写真=トヨタ自動車、マツダ、BMW、フェラーリ/編集=関 顕也)

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ブランド固有の“らしさ”を示すフレーズとして「駆けぬける歓び」を掲げてきたBMW。それは、100%電動モデルにも共通の性質であるという。
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工藤 貴宏

工藤 貴宏

物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。

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