クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

ステランティスの電動化戦略のカギ 「フィアット600e」と「ジープ・アベンジャー」を見比べる

2024.10.31 デイリーコラム 山崎 元裕
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

「eCMP2」プラットフォームを使用する兄弟BEV

ステランティス ジャパンから、前後して2台のBセグメント電気自動車(BEV)が日本に導入された。「フィアット600e」と「ジープ・アベンジャー」の両モデルである。

ステランティスは2021年、4タイプのBEV専用プラットフォームを開発し、拡張性を持った3タイプのEDM(エレクトリック・ドライブ・モジュール)と合わせ、すべてのブランドとセグメントにおいて、ベスト・イン・クラスのBEVを提供するという中期目標を掲げた。そのなかでも特に需要の高いBセグメントでいかに魅力的なモデルを投入してくるのかは、大いに大いに注目されるところだった。

600eとアベンジャーは、いずれも「eCMP2」プラットフォームを使用する、いわば兄弟車だ。運転席下と後席下に分けて搭載されるバッテリーの容量は両モデル共通の54kWh。前輪を駆動するエレクトリックモーターの最高出力は156PS、最大トルクは270N・mと、こちらも変わらない。

一充電での走行距離は、WLTCモードで600eが493km、アベンジャーは485kmというほとんど誤差の範囲内に収まる数字。ということになれば、あとはブランドの独自性がどのように演出されているのかが、ユーザーサイドでは興味の対象ということになるのだろう。今回はドライブした印象を含め、両モデルがステランティスという巨大グループ内でどうブランディングされ、どう差異化されているのかを解説していこうと思う。

まずステアリングを握ったのはフィアット600e。そのコンセプトは先に登場したAセグメントのBEV「500e」に、さらに100個の魅力を追加する「500+100」にあるという。

2024年9月に相次いで日本に上陸したステランティスのBEV「フィアット600e」(写真左)と「ジープ・アベンジャー」(同右)。
2024年9月に相次いで日本に上陸したステランティスのBEV「フィアット600e」(写真左)と「ジープ・アベンジャー」(同右)。拡大
「600e」と「アベンジャー」は、いずれもステランティスの「eCMP2」プラットフォームを使用する兄弟BEV。eCMP2は旧グループPSAの主導で開発されたもの。
「600e」と「アベンジャー」は、いずれもステランティスの「eCMP2」プラットフォームを使用する兄弟BEV。eCMP2は旧グループPSAの主導で開発されたもの。拡大
2024年9月10日に東京・二子玉川で行われた「フィアット600e」の発表イベントの様子。ステランティス ジャパンの打越 晋社長が登壇し車両の紹介を行った。
2024年9月10日に東京・二子玉川で行われた「フィアット600e」の発表イベントの様子。ステランティス ジャパンの打越 晋社長が登壇し車両の紹介を行った。拡大
2024年9月26日に東京・虎ノ門で行われた「ジープ・アベンジャー」の発表イベントの様子。こちらもステランティス ジャパンの打越社長がステージに立った。
2024年9月26日に東京・虎ノ門で行われた「ジープ・アベンジャー」の発表イベントの様子。こちらもステランティス ジャパンの打越社長がステージに立った。拡大
フィアット の中古車webCG中古車検索

フィアット600eに漂う独自の世界観

600eのボディーサイズは全長×全幅×全高=4200×1780×1595mmと、日本の市街地で使うことにもほとんどストレスを感じさせないものだ。ヘッドランプの上部にボディーと同色のカバーが備わるため、どことなく眠たげな印象を与えるフロントマスクだが、これもまたフィアットというイタリアンブランドの楽しさでもある。

一方で、そのシルエットからも想像できるように、600eのパッケージングはとても真面目だ。キャビンスペースには十分な余裕が感じられ、さらにラゲッジルームの容量は360リッターと、Bセグメントモデル最大を主張する。

156PSの最高出力を発生するエレクトリックモーターは、1580kgの車重には必要にして十分な性能だ。600eには、「ノーマル」「エコ」「スポーツ」の3種類のドライブモードが設定されている。さらにシフトセレクタースイッチで通常走行の「D」と、回生ブレーキが強くなる「B」を簡単に切り替えることが可能だ。そのメリハリのある制御は、極端すぎる減速感がない好感の持てるものだった。

600eの走りで最も魅力的だったのはその乗り心地だ。ワインディングロードではいかにもコンパクトなイタリア車らしい俊敏さを披露しながら、高速走行時には高級感のあるライド感を演出。ハンドリングと乗り心地のバランス感覚に優れた足まわりは、快適の一言につきる。

フィアットブランドとしては初採用となる、ACC使用時のレーンポジションアシスト機能の制御も良好だ。日常の足のみならず、航続距離を気にする必要はあるもののロングドライブも楽しめるBセグメントBEVである。こうしたBEVの特徴的な走りと“いかにもフィアット”な世界観が、600eを所有する喜びにつながりそうだ。

「600e」は、アイコニックなイタリアンデザインに快適性、革新性、テクノロジーを詰め込んだBセグメントのコンパクト電動SUVと紹介される。
「600e」は、アイコニックなイタリアンデザインに快適性、革新性、テクノロジーを詰め込んだBセグメントのコンパクト電動SUVと紹介される。拡大
アイボリーカラーを基調としたインテリアには、丸型のメータークラスターや2本スポークのステアリングホイールなど、初代「600」からのデザイン要素が継承されている。
アイボリーカラーを基調としたインテリアには、丸型のメータークラスターや2本スポークのステアリングホイールなど、初代「600」からのデザイン要素が継承されている。拡大
フロントに搭載され前輪を駆動するモーターは最高出力156PS、最大トルク270N・mを発生。一充電走行距離は493km(WLTCモード)。
フロントに搭載され前輪を駆動するモーターは最高出力156PS、最大トルク270N・mを発生。一充電走行距離は493km(WLTCモード)。拡大
アイボリーカラーのエコレザー表皮が採用された「600e」のシート。「FIAT」ロゴのエンボスおよびターコイズブルーのステッチがアクセントになっている。
アイボリーカラーのエコレザー表皮が採用された「600e」のシート。「FIAT」ロゴのエンボスおよびターコイズブルーのステッチがアクセントになっている。拡大

アベンジャーに息づくジープブランドのこだわり

それでは600eの兄弟車となる、ジープ・アベンジャーの魅力はどこにあるのだろうか。アベンジャーがジープブランドの一員であることは、そのフロントマスクを見れば一目瞭然だろう。

ボディーサイズは全長×全幅×全高=4105×1775×1595mm。デザインはいかにも都会派のSUVといった印象だが、さすがはジープのブランドを掲げるモデルだけのことはあり、アプローチアングルは20°、ランプブレークアングルとデパーチャーアングルはそれぞれ20°と32°を誇る。最低地上高も200mm確保し、オフロード性能も十分に意識されている。

フィアットの600eと同様に、アベンジャーのパッケージングも実に巧みである。印象的なのは、自然なドライビングポジションが得られること。比較的スクエアなエクステリアデザインも寄与し、室内からの見切りは良好だ。その良好な運転姿勢と車両感覚のつかみやすさは、オフロードに軸足を置き歴史を積み重ねてきたジープブランドの各車に共通する特徴と紹介できそうだ。もちろんコンパクトなサイズは、市街地での使い勝手にも優れる。

アベンジャーの駆動方式はFWDとなるが、「セレクテレイン」と呼ばれる独自のドライブモードを持つことが600eとの大きな違いだ。「ノーマル」「エコ」「スポーツ」の3つは600eと同じだが、これに「スノー」「マッド」「サンド」の3種類が加わる。さらにヒルディセントコントロール機能が標準で装備されるのもジープブランドならではのこだわりだろう。

こと走破性という点においては、FWDとはいえアベンジャーはジープブランドの伝統と信頼を確実に受け継ぐ一台といえるのだ。

「ジープ・アベンジャー」は、2022年10月のパリモーターショーで正式発表されたコンパクトSUV。ヘッドランプよりも前方に配置されたフロントの「7スロットグリル」と、極端に短い前後のオーバーハングなどがエクステリアデザインにおける特徴だ。
「ジープ・アベンジャー」は、2022年10月のパリモーターショーで正式発表されたコンパクトSUV。ヘッドランプよりも前方に配置されたフロントの「7スロットグリル」と、極端に短い前後のオーバーハングなどがエクステリアデザインにおける特徴だ。拡大
水平基調のダッシュボード中央に10.25インチサイズのタッチ式ディスプレイを配置。ダッシュボード下部や大型センターコンソールおよびドアポケットなどに計約26リッター分の収納スペースが用意される。
水平基調のダッシュボード中央に10.25インチサイズのタッチ式ディスプレイを配置。ダッシュボード下部や大型センターコンソールおよびドアポケットなどに計約26リッター分の収納スペースが用意される。拡大
「フィアット600e」と同じく最高出力156PS、最大トルク270N・mを発生する電動パワーユニットをフロントに搭載。
「フィアット600e」と同じく最高出力156PS、最大トルク270N・mを発生する電動パワーユニットをフロントに搭載。拡大
ヒーター内蔵の電動調整式フロントシートを標準で装備。シートバックに「Jeep」のロゴ刺しゅうが施されている。
ヒーター内蔵の電動調整式フロントシートを標準で装備。シートバックに「Jeep」のロゴ刺しゅうが施されている。拡大

充電インフラの整備は進んでいるが……

600eもアベンジャーも現在はBEVのみの設定だが、600eには2025年中にマイルドハイブリッド版も追加設定される見込みだ。一方のアベンジャーは、当面BEV一本で販売が展開される。これはステランティス ジャパンの戦略で、オフロードイメージが先行するジープブランドに先進性や都会的なイメージを付加する狙いがあると読み取れる。実際欧州では、600eにもアベンジャーにも純ガソリンエンジン車やマイルドハイブリッドモデルが用意されている。

ステランティス ジャパンは電動モデルの導入を推進し、気づけばBEVとPHEVの数は20車種(限定車を含む)に及ぶ。そのうちBEVはフィアット600eと500e、「アバルト500e」、「プジョーe-208」と「e-2008」、「シトロエンE-C4エレクトリック」で、アルファ・ロメオ初のBEV「ミラノ」改め「ジュニア」の上陸も控えている。

ENEOSのEV経路充電サービス「ENEOS Charge Plus」をパートナーとした、ステランティスの正規ディーラーにおける充電器の設置は、アベンジャーの導入によってジープディーラーにも拡大。なかにはショールームを分けて複数のブランドを取り扱うディーラーもあるので、全国で300を超えるとされる拠点のほぼすべてをカバーするのも近いだろう。ただし、充電器を複数設置しているところは少なく、需要に対して十分とはまだまだ言えない。

そうした足元のインフラを考えれば、ハイブリッドモデルへの期待度は小さくはないし、実際にハイブリッドモデルが果たす役割は重要なものになるはずだ。600eだけでなくアベンジャーにも、と思うのは自然だろう。アベンジャーは発売以来、欧州で10万台以上を販売し、欧州カー・オブ・ザ・イヤー2023をはじめとする多くの賞に輝いている。ジープ初のフルEVたる戦略的価値や象徴としての役割は理解するものの、日本にはハイブリッド車を好むユーザーがまだまだ多いことも事実である。

(文=山崎元裕/写真=ステランティス ジャパン、webCG/編集=櫻井健一)

「600e」も「アベンジャー」も容量54kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。普通充電および急速充電ポートが、左リアフェンダーに並んで配置されているのも両車に共通する。
「600e」も「アベンジャー」も容量54kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。普通充電および急速充電ポートが、左リアフェンダーに並んで配置されているのも両車に共通する。拡大
センターコンソール前方に配置されるスイッチ式のシフトセレクターも両車に共通するアイテム。アダプティブクルーズコントロールや衝突被害軽減ブレーキ、レーンキープアシストといった運転支援システムの充実も両車のセリングポイントとなる。
センターコンソール前方に配置されるスイッチ式のシフトセレクターも両車に共通するアイテム。アダプティブクルーズコントロールや衝突被害軽減ブレーキ、レーンキープアシストといった運転支援システムの充実も両車のセリングポイントとなる。拡大
日本に導入される「600e」は最上級グレード「La Prima(ラプリマ)」の右ハンドル仕様車のみで、価格は585万円。外板色はフィアットブランドにおいて新色となる「サンセットオレンジ」(写真)と「スカイブルー」「ホワイト」の3色から選択できる。
日本に導入される「600e」は最上級グレード「La Prima(ラプリマ)」の右ハンドル仕様車のみで、価格は585万円。外板色はフィアットブランドにおいて新色となる「サンセットオレンジ」(写真)と「スカイブルー」「ホワイト」の3色から選択できる。拡大
「アベンジャー」の導入開始に合わせ登場した発表記念モデル「ローンチエディション」。「アルティテュード」グレードをベースにパワーサンルーフや18インチアルミホイール、ブラックペイントルーフなどを採用しながら、価格はベース車から15万円アップの595万円となる。
「アベンジャー」の導入開始に合わせ登場した発表記念モデル「ローンチエディション」。「アルティテュード」グレードをベースにパワーサンルーフや18インチアルミホイール、ブラックペイントルーフなどを採用しながら、価格はベース車から15万円アップの595万円となる。拡大
デイリーコラムの新着記事
デイリーコラムの記事をもっとみる
クルマに関わる仕事がしたい
関連キーワード
新着記事
新着記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。