三菱アウトランダーPエグゼクティブパッケージ(4WD)/三菱トライトンGSR(4WD/6AT)
白銀は招くよ 2025.02.12 試乗記 三菱の「アウトランダー」と「トライトン」を雪上でドライブ。片や最先端の2モーター式のプラグインハイブリッド車(PHEV)、こなた設計は最新ながら頑健なラダーフレームを備えたピックアップトラックだ。自慢の4WD技術の最先端を味わってみた。自慢の4WD技術を雪上で試す
大きく重く背が高いSUVタイプのPHEVでありながら、前後2基の独立したモーターの駆動力を制御することによって、驚くほど“曲がる”のが三菱のフラッグシップ、アウトランダーの真骨頂である。しかも2024年末の大規模マイナーチェンジで、システムの要たるバッテリーが従来の容量20.0kWhから約10%増しの22.7kWhの新型に換装されたことで、EV走行換算距離(WLTCモード)が83kmから102kmに伸びたばかりか、トータルのシステム出力が約20%アップ、エンジン始動頻度が下がったうえに、0-100km/h加速も従来型より2秒短縮できたという。
一般道では以前よりも滑らかに動きだし、また踏めば明らかにたくましく加速することは確認済みだが、センターコンソールのダイヤルで選べる7種ものドライブモード、すなわち「パワー」「エコ」「ノーマル」「ターマック」「グラベル」「スノー」「マッド」を全部試すことはできなかった。あれば試してみたくなるのが人情というもの。いや職業病かもしれないが、マッドやスノーなどはそれなりの場所でなければ難しい。
というところにおあつらえ向きの試乗会開催の報が届いた。北海道千歳のオフロードコースで最新のアウトランダーに加え、2024年春に国内発売されたダブルキャブピックアップのトライトンも試乗できるという。前後2モーターおよび各輪のブレーキを制御する車両運動統合制御システム=「S-AWC(スーパーオールホイールコントロール)」と「SS4-II(スーパーセレクト4WD-II)」という三菱自慢の2種類の4WDシステムの実力を体感せよというわけだ。
前後モーターゆえの自由度
アウトランダーは高速域ではエンジンとモーターを併用するパラレルハイブリッドとしても走行するが、基本的には外部充電またはエンジンで発電した電力を使う(シリーズハイブリッド)電動走行優先で、前後アクスルを機械的に連結していないモーター駆動の4WDである。S-AWCは「ランサーエボリューション」の時代から開発を積み重ねてきた技術だが、前後独立したモーターを得たことによって最適な制御を実現できるようになったという。
リアモーターの出力(136PS/195N・m)のほうがフロント(116PS/255N・m)より大きいのも、理想的な駆動力配分のためである。その配分比は例えば舗装路(μ=1)ではリア:100~67%、圧雪路(μ=0.4)ではリア:70~55%の範囲とされている。もちろん、机上の計算そのままに実装するわけにはいかないし、現実の路面の絶えず変化する摩擦係数を各種データから導き出す理論にも三菱独自のノウハウがあるらしい。
アウトランダーはフラットなハンドリングコースで試したが、雪上とは思えないほどレスポンスよく簡単に走れることに驚いた。スノーモードでは安定性重視、グラベルやマッドでは若干のホイールスピンを許容するようだが、どれも(ASCを切らない限り)大きく挙動を乱すことなく、楽々と加速していく。普通の4WDではこうはいかないのだが、すぐに慣れてしまうのが人間の厄介なところ。
また制動側の制御もあるとはいえ、ターンインは話が別だ。しかも周回を重ねるうちに圧雪路面はどんどん荒れていくし、いっぽうで日陰のコーナー入り口にはツルツルに磨かれたアイスバーンも残るといった具合。現実の路面はまさにこんな感じである。雪国のドライバーは日常的に目まぐるしく変わるロードコンディションを読み取りながら走っているということを忘れてはいけない。
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久しぶりのトライトン
日本では12年ぶりの再導入というからあまり知られていないが、実はトライトンは東南アジアやオーストラリア、中南米といった市場を中心に、世界150カ国で年間およそ20万台を販売するグローバルモデルであり、三菱を支える大黒柱といってもいい。1978年の初代モデル(「フォルテ」や「ストラーダ」など名称はさまざまだが)から数えて新型は6代目にあたるという。
タイで生産され、輸入される日本仕様のトライトンは2.4リッター4気筒ディーゼルターボ+6段ATを積む定員5人のダブルキャブのみ。新型はその2.4リッターディーゼルターボエンジン(最高出力204PS/3500rpmと最大トルク470N・m/1500-2750rpm)からシャシーフレームまで新設計であり、予想以上に静かで振動も気にならないし、オンロードでも5mを楽に超えるボディーの重さを感じさせずに加速する。
フロントはダブルウイッシュボーン、リアはリーフスプリングによる車軸式という足まわりだが(大幅に剛性アップしたフレームに合わせてこちらも新開発)、オンロードでもガツン、ドシンと直接的な突き上げを感じることはない。ピックアップトラックはどうしても荷物の積載のためにタフで硬い足まわりが求められるが、トライトンは思いのほか文化的である。
タフでぜいたくな4WDシステム
そのいっぽう、悪路での過酷な使用を想定した4WDシステムはタフな本格派だ。SS4-IIと称する4WDシステムは、「パジェロ」時代のそれとは異なりセンターデフにはトルセンデフを使用(以前はビスカスカプリングだった)、2H(後輪駆動)と4H(40:60の4WD)、4HLc(4WD直結)、そして4LLc(4WDローレンジ直結)と4種類の駆動方式をセンターコンソールのダイヤルで切り替えることができる(リアデフをロックするスイッチも別に備わる)。
ちなみに最大のライバルと目される「トヨタ・ハイラックス」はシンプルなパートタイム式(2H/4H/4L)で(ピックアップトラックではこちらが一般的)、つまり4WDを選ぶと前後輪の回転差を吸収できず、いわゆるタイトコーナーブレーキング現象を回避できない。これが高速道路や雪道などで4Hを選べば、フルタイム4WDとしてほぼフールプルーフに走れるトライトンとの最大の相違点だ。
さらにトライトンは「ノーマル」「エコ」「グラベル」など計7種類のドライブモードを選択(駆動方式に応じて選択可能モードを設定)できるうえに、ブレーキを使うAYC(アクティブヨーコントロール)やアクティブLSD、トレーラースタビリティーアシストといった電子制御アシストシステムを満載しており、そのぶん簡素なハイラックスよりは高めの価格設定だ。ぜいたく盛りのピックアップなのである。
夏場はモトクロスコースだというアップダウンの激しいコースでのトライトンは、何よりボディーの頑健さが頼もしかった。常に上下に揺すられるデコボコ路面でも音や振動が抑えられているのはさすがである。走破性については何事もなし、というしかない。雪道でのハンドリングをうんぬんするクルマではないことはもちろんだが、4Hのままで楽々と走り回ることができた。タイヤのグリップが許す限り、であることは言うまでもない。
また220mmの最低地上高を持つとはいえ、先日の道東の大雪のように一晩で1m降ることもある。そうなったらなすすべなし。不要不急の外出を控えて、などと言っていられない人もいるが、いざ危険となったら雪国の人は運転をあきらめる状況の見極めが早く正確だ。かつて稚内の居酒屋のおかみからこっぴどくしかられた私の実体験である。
(文=高平高輝/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
三菱アウトランダーPエグゼクティブパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1860×1750mm
ホイールベース:2705mm
車重:2140kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:133PS(98kW)/5000rpm
エンジン最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)/4300rpm
フロントモーター最高出力:116PS(85kW)
フロントモーター最大トルク:255N・m(26.0kgf・m)
リアモーター最高出力:136PS(100kW)
リアモーター最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)
タイヤ:(前)255/45R20 101Q/(後)255/45R20 101Q(ブリヂストン・ブリザックDM-V3)
ハイブリッド燃料消費率:17.2km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:102km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:102km(WLTCモード)
交流電力量消費率:227Wh/km(WLTCモード)
価格:659万4500円/テスト車=705万6390円
オプション装備:ボディーカラー<ムーンストーングレーメタリック×ブラックマイカ>(11万円)/電動パノラマサンルーフ(14万3000円) ※以下、販売店オプション 前後ドライブレコーダー+ETC2.0車載器<スマートフォン連携ナビゲーション接続用>(15万1030円)/オールウェザーマット(3万5860円)/トノカバー(2万2000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
三菱トライトンGSR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5360×1930×1815mm
ホイールベース:3130mm
車重:2140kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:204PS(150kW)/3500rpm
最大トルク:470N・m(47.9kgf・m)/1500-2750rpm
タイヤ:(前)265/60R18 110Q/(後)265/60R18 110Q(ブリヂストン・ブリザックDM-V3)
燃費:11.3km/リッター(WLTCモード)
価格:540万1000円/テスト車=552万5190円
オプション装備:ボディーカラー<ヤマブキオレンジメタリック>(5万5000円) ※以下、販売店オプション オールウェザーマット(2万8160円)/ETC車載器<音声案内タイプ>(4万1030円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
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