トヨタ海外仕様車試乗会(前編)【試乗記】
海の向こうの気になるトヨタ(前編:マトリックス/アイゴ/サイオンtC) 2010.10.17 試乗記 国内自動車販売でシェアNo.1を誇るトヨタ。しかし、海の向こうには、まだまだ知らない車種もある!?日本で販売される可能性もゼロではない、そんな“知られざるトヨタ車”の素性をリポートする。
世界中からいらっしゃ〜い
トヨタは全世界合計で77もの車種を用意している。そのうち、日本で販売やリースされているモデルを数えてみたら、54車種あった(『トヨタの概況2010』をもとに数えた2009年の数字。トラック仕様やハイブリッド仕様を別車種と見なせばもっと増える)。
54車種というのは、数としていかにも多い。しかし、逆にわれわれが日本で買えないトヨタがすでに20車種以上、割合でいうと全体の3割あるという事実も、「現地現物主義」を推進するトヨタの現在として知っておいていい。
さて、そんな“現地最適化されたトヨタ車”がずらりと集められた試乗会が、富士スピードウェイの敷地内で開催された。小はヨーロッパ向けの「アイゴ」から、大は南米やアジアなどで作られている「ハイラックス ピックアップ」まで、地域を問わず全世界から8車種11台が一堂に会した。ある意味とてもぜいたくな内容である。
いっぽうで、われわれにしてみれば、なかなか触れる機会がない現地のトヨタ車を知ることで、トヨタ製品の全体像を捉え直せるいい機会でもある。筆者は今回、6台に試乗させてもらった。そこで3台ずつ、2回に分けて報告したいと思う。
さっそくピット裏のパドックへと進み、ずらりと並んだ11台を眺める。まずはツラ構えはどことなく「ウィッシュ」を思わせつつも、背格好は「オーリス」に近い、北米市場向けの「マトリックス」に乗ってみる。
実用ハッチのど真ん中「マトリックス」
あらためて言うまでもなく、アメリカはトヨタにとってとても大きな市場だ。そんな重要な場所で、トヨタがいったいどんな乗用車ラインナップをそろえているかご存知だろうか? 価格が安い方から、「ヤリス(ヴィッツ)」「カローラ」「マトリックス」「カムリ」「プリウス」「ヴェンザ」「アヴァロン」である。
「マトリックス」はカローラのシャシーを使った全長4.4m級のハッチバックで、1万7000〜2万ドルという価格で売られるラインナップの中核的な存在。つまり不特定多数のユーザーを想定して、ある意味で最大公約数的なクルマ作りが求められるエリアに投じられるモデルであり、それはつまり、メーカーの底力が試される厳しいエリアであることも意味している。
実際に乗っても、クルマ作りのど真ん中に直球を投げ込んだような、とてもまじめなクルマである。2.4リッター直4エンジンは力強い低速トルクを備えていて、日常的に多用する4000rpm以下では静粛性もしっかり演出されている。クローズドの試乗コースで試した限りでは、ハンドリングも素直だ。欲を言えば、乗り心地にもう少し上質感が欲しいところ。サスペンションの動きにしなやかさが欠け、段差やギャップ通過時の処理が少々荒っぽいところがある。
「マトリックス」は、実用車としてあくまでバランスを重視する姿勢を貫いているように見える。そういう意味では、確かにこのクルマは「カローラ」ファミリーの一員なのだなあと感じた次第だ。続いて、ヨーロッパ向けの小型車「アイゴ」に試乗する。
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チープだが知性を感じる「アイゴ」
ところ変われば、小型車もずいぶん変わるものである。PSAプジョー・シトロエンと共同で開発された「アイゴ」は、「プジョー107」や「シトロエンC1」と兄弟車の関係にあり、フランス流の合理精神に貫かれたかのようなクルマだ。ボディは軽自動車よりちょっと大きな、全長×全幅=3.4×1.6mしかなく、室内も外観なりの狭さで、大人4人にはミニマムな空間。リアのハッチゲートはガラス部分だけが開閉し、リアウィンドウにいたっては上下せずに前ヒンジで数cmずれるだけの簡素さときている。その昔、クーペなどによく採用されていた方式だ。
はっきり言って「アイゴ」はチープである。“登録車”を小型化させたかのような日本の軽自動車の方がずっとゴージャスだ。しかし「アイゴ」の精神がこれっぽっちも貧しく見えないのは、チープをシンプルと捉えているためだろう。シンプルにするためには知恵と工夫が必要で、そういったことがこのクルマに少なからず知性を添えている。今後、さらなるコストダウンを迫られる(であろう)日本の小型車に対して、「アイゴ」の見せ方は示唆に富んでいるように思う。
エンジンのラインナップもシンプルで、現在は1リッターの直3ガソリン(68ps)のみ。以前、1.4リッター直4ディーゼルも用意されていたが、ラインナップから落とされてしまった。したがって今回試乗したのはガソリンの方だが、800kg台という軽さのおかげか、これがけっこう良く走る。
また、直進時のステアリングの座りのよさや路面情報の多さ、あるいはごく自然にストロークするサスペンションなど、クルマの基本がおろそかになっていないところも「アイゴ」の美点だ。そして最後は、今となっては希少種となってしまったクーペの「サイオンtC」である。
セリカの末裔「サイオンtC」
「サイオン」というのはトヨタがアメリカで“ジェネレーションY”(1975年から1989年までに生まれた世代)に向けて展開するブランド。この世代がクールでスタイリッシュと感じる世界を目指しており、この「tC」のほか、「iQ」、「xD」(日本名:イスト)、「xB」(カローラルミオン)をラインナップしている。「tC」以外は箱型のモデルばかり。そのせいかどうか知らないが、「tC」も流麗というよりは角張った格好のクーペである。
「tC」はその昔、「セリカ」でカバーしていた顧客層がターゲットになっているという。それで納得ができた。確かに「セリカ」っぽいというか、1990年代に最後の盛り上がりを見せたスペシャルティカー的な世界が残っているのである。
スポーツカーほどハードではないが、スポーツセダンよりはずっとその気にさせられたのがスペシャルティカーの世界。「tC」の着座位置は低く、ダッシュボードもこちらにグッと迫り、タイトなコクピットが演出されている。
180psを生みだす2.5リッター直4エンジンも回転を上げていくにつれてスポーティーな息づかいとなり、なかなかの雰囲気だ。足まわりは適度に硬く、ステアリングも適度にダイレクト。思えばこういうクルマ、すっかりなくなってしまったもんである。スペシャルティカーに憧れた世代としては、ちょっとうれしくなってしまった。
(文=竹下元太郎、写真=高橋信宏)

竹下 元太郎
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