BMW R1300R(6MT)/R1300RT(6AT)
フラットツインの新時代 2025.07.04 試乗記 1.3リッターの大排気量ボクサーエンジンを搭載したロードスター「BMW R1300R」と、それをベースにしたスポーツツアラー「R1300RT」に、本国ドイツで試乗。伝統とハイテクが融合した2台の走りを、モーターサイクルジャーナリストのケニー佐川氏が報告する。圧巻のパワーと軽快な身のこなし
BMWが世に問う水平対向エンジン搭載の俊足ロードスター、それが新型R1300Rである。先行発売された「R1300GS」と同じく、最高出力145PS、最大トルク149N・mを発生する、“BMW史上最強”のボクサーツインを新設計のシャシーに搭載。倒立フォークや進化したリアサスペンション、軽量ホイールの採用により、軽快なハンドリングと鋭いスポーツ性を追求している。
スタイリングは、従来型の丸みを帯びたフォルムから、シャープなフロント形状が目を引く引き締まったものへと変貌。まるで減量に成功したアスリートのような印象だ。いざまたがると、シートは存外に低めで、ハンドルも従来モデルよりやや低く、かつ前寄りにセットされており、軽く前傾した自然なライディングポジションがとれる。
エンジンは極めて力強く、回転数やギアポジションを問わず、アクセルをひねれば即座にパワーが湧き出す。0-100km/h加速は3.25秒。驚異的な中速トルクにより、回転上昇を待たずに一気に加速できるのが魅力だ。排気音は相変わらず控えめだが、スピードメーターを見て驚く。体感よりはるかに速いのだ。
加えて、コーナーへの進入や向き変え、切り返しなどは、いずれも鋭く軽快。前後を貫くクランクとドライブシャフトを軸に、スッとリーンするボクサー特有のロールの軽さが際立つ。その身のこなしは、重厚なエンジンを抱えていることを忘れさせるほどだ。
サスペンションのスプリングレートが変わる?
ライディングモードは「ロード」「レイン」「エコ」の3種が標準で設定され、さらにオプションで「ダイナミック」「ダイナミックプロ」モードも用意。同じく有償で、電子制御サスペンションも装備可能だ。
注目の新機能は、この新型から採用された「可変スプリングレートサスペンション」だ。オプションの「DSA(ダイナミック・サスペンション・アジャストメント)」に含まれるもので、従来のセミアクティブサスとは異なり、ダンパーの減衰力やプリロードだけでなく、スプリングのレート(=バネの硬さ)まで疑似的に変化させるという。実際にスプリングを交換せずに、それに匹敵する効果を発揮するところが画期的で、ダイナミックなスポーツライディングから快適なツーリングまで幅広くカバー。走行中でも、その特性は調整できる。
実際に試してみると、通常走行では従来の電制セミアクティブサス「ダイナミックESA」と大差ない感覚だが、ライディングモードをダイナミックプロに切り替えると一変。前後サスペンションが連動してシャキッとした踏ん張りをみせ、車高もやや上がるのだ。プリロードの調整だけでは防げなかったバンプ時の底づきが解消し、高速コーナーでの安定性も大幅に向上。より安心感のある走りが可能となる印象だった。
さらに、BMWではおなじみのブレンボ製前後連動ブレーキ、コーナリングABS、トラクションコントロールなどの電子デバイス群が、大排気量の上級ロードスターにふさわしいハイクオリティーな走りを、裏でしっかりと支えてくれている。
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涼しい顔で200km/hクルーズ
いっぽうのR1300RTは、大型のカウルを備えたグランドツアラーだ。長距離走行時の快適性を重視し、電動スクリーンや「オートマチック・シフト・アシスト(ASA)」「アクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)」など、豪華装備、ハイテク装備をふんだんに用意している。
デザインも変化しており、従来の威風堂々とした“大陸横断スタイル”から一転、スリムかつ機能美を追求した造形となった。直線的で角張った箱型フォルムなど、「R1300GSアドベンチャー」との関係性を感じさせる意匠も取り入れつつ、全体ではまるでGTカーのように洗練されたたたずまいを見せる。
搭載されるのはR1300GS/R1300Rと同じ水冷ボクサー。分厚いトルク感は共通ながら、RTのものは穏やかで上質な味つけだ。ただBMW開発陣によれば、いずれもエンジンマップは共通とのこと。駆動系が車種ごとに最適化されているのだという。約40kgの重量差もあって、刺激がマイルドに感じられるのがツアラーとして理想的だ。
このバイクに関しては、走りだした瞬間から極上の時間・空間に包まれる。試乗車には「オートメーテッド・シフト・アシスタント(ASA)」が搭載されており、クラッチ操作なしで発進、停止、ギアチェンジが可能。これが実に快適で、一度味わうと元には戻れない。電動ウインドスクリーンは手もとのスイッチで簡単に高さを調整でき、フルアップ時には、高速走行中でも無風・無音の快適空間が出現。左右のスピーカーが奏でるBGMとともに、流れる風景を優雅に楽しめる。歴代最強のボクサーエンジンと、この緻密な空力設計、刷新されたシャシーやEVOテレレバー/パラレバーの絶妙な組み合わせにより、アウトバーンでは余裕の200km/h巡航を楽しむことができた。
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一台で2つの走りを楽しめる
さらに新型RTには、注目すべきポイントがもうひとつある。「DCA(ダイナミック・シャシー・アダプション)」という新機能が搭載されており、ライディングモードに応じてバイクの“姿勢”が2種類に変化するのだ。基本のロード/レイン/エコでは、柔らかなスプリングとフラットな車体姿勢の組み合わせで、高い安定性を確保。いっぽうダイナミック/ダイナミックプロでは、足まわりが硬くなって車高もアップ。そしてバイク全体がより前傾姿勢となる。
驚かされるのが、これが単なるギミックではなく、実際に走りの質が劇的に変わることだ。バイクの姿勢が変わるので当然といえば当然だが、とくに前傾した状態では、キャスター角が立ってハンドリングががぜん俊敏となり、より深いバンク角もとれるようになる。一台で快適ツアラーとスポーツバイクの両面を楽しめるわけだ。もちろん他の制御システムと同様、これも細かいセッティングが可能となっている。
それにしても感服するのが、共通のボクサーエンジンを心臓に持ちながら、ここまでキャラクターを鮮やかに分けるBMWの力量だ。アドベンチャー(GS)とロードスター(R)、ツアラー(RT)のそれぞれにおいて明確な哲学があり、かつそれを具現できるテクノロジーを持つからこそなせる業だろう。今回はRとRTの2台を味わったわけだが、おのおのの際立つキャラクターに、ただただ脱帽する体験となった。
(文=佐川健太郎/写真=BMWモトラッド/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
BMW R1300R
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2126×1000×--mm
ホイールベース:1511mm
シート高:785/810mm
重量:239kg(空車重量)
エンジン:1300cc 水冷4ストローク水平対向2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:145PS(107kW)/7750rpm
最大トルク:149N・m(15.2kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.8リッター/100km(約20.8km/リッター、WMTCモード)
価格:--円
BMW R1300RT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2229×971×--mm
ホイールベース:1500mm
シート高:780/860mm
重量:281kg(空車重量)
エンジン:1300cc 水冷4ストローク水平対向2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:145PS(107kW)/7750rpm
最大トルク:149N・m(15.2kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段AT
燃費:4.9リッター/100km(約20.4km/リッター、WMTCモード)
価格:--円

佐川 健太郎(ケニー佐川)
モーターサイクルジャーナリスト。広告出版会社、雑誌編集者を経て現在は二輪専門誌やウェブメディアで活躍。そのかたわら、ライディングスクールの講師を務めるなど安全運転普及にも注力する。国内外でのニューモデル試乗のほか、メーカーやディーラーのアドバイザーとしても活動中。(株)モト・マニアックス代表。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。
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