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マツダの将来を担う次世代バイオディーゼル燃料 需給拡大に向けた最新の取り組みを知る

2025.09.03 デイリーコラム 藤沢 勝
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次世代バイオディーゼル燃料の需給拡大に向けた連携

近年のマツダを支えてきたのがクリーンディーゼルエンジンであることに異論がある人は少ないだろう。ただし、取り巻く環境はなかなか厳しく、世の中全体としてはディーゼルが退潮傾向にあるのは間違いない。将来はともかく、マツダも次期型「CX-5」にはディーゼルを設定していない。

国内の乗用車メーカーでディーゼルを主力としているのがマツダのみというのが悩ましいところではあるが、マツダはいろいろな方策でこうした状況を打破しようと取り組んでいる。そのひとつが次世代バイオディーゼル燃料の普及である。もちろんマツダは燃料メーカーではないので、具体的には次世代バイオディーゼル燃料の需給拡大に向けて各事業者の連携を図り、マツダが音頭を取っている。

この取り組みではミドリムシでおなじみのユーグレナが燃料を調達し(つくる)、燃料配送などを手がける平野石油(東京都)が輸送を担当(はこぶ)。マツダの役割はカスタマーとの間を取り持つ「つなぐ」である。イタリアなどではガソリンスタンドにバイオディーゼルの給油機があるのは珍しくないとのことだが、日本ではまだそういうケースはほとんどないため、調達から利用までの流れを明確にしなければ、いつまでたっても「次世代」のままだ。この取り組みを受けて、2025年4月には三井住友銀行がメガバンクとしては初めて次世代バイオディーゼル燃料を社用車に導入している。

マツダの取り組みにはユーグレナや平野石油等が賛同し、需給拡大に向けて連携している。今回は都内で開催された記者説明会でいろいろ勉強させてもらった。
マツダの取り組みにはユーグレナや平野石油等が賛同し、需給拡大に向けて連携している。今回は都内で開催された記者説明会でいろいろ勉強させてもらった。拡大
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材料の段階でCO2を吸収

ユーグレナが供給するのは2024年12月に発表したばかりの最新のバイオディーゼル燃料「サステオ」である。49%の軽油と51%のHVOが混合されており、軽油と同じように使えるのが特徴だ。

HVOとは「Hydro treated Vegetable Oil」の頭文字であり、日本語に直せば水素化植物油となる。原料は使用済みの植物油や植物油の加工に伴う廃棄物等(廃食油)とされており、これを水素と反応させて石油に近い分子につくり変えている。HVOが植物だった時代に光合成でCO2を吸収しているため、燃焼時のCO2はチャラ、つまりカーボンニュートラルという理屈である。サンドウィッチマンのカロリーゼロ理論みたいだ。

このHVOは燃焼時の発熱量(エネルギー密度)が43~44MJ/kgとされており、なんと軽油とピタリと一致。さらにガソリン代替のバイオエタノール系燃料や、廃食油をメタノールと反応させた次世代バイオディーゼルのFAMEなどとは異なり材料腐食性がない。だから軽油と同じように使えるのである。

写真中央が49%の軽油と51%のHVOを混合した「サステオ」だ。
写真中央が49%の軽油と51%のHVOを混合した「サステオ」だ。拡大
「サステオ」を給油した「CX-80」を運転できた。パワートレインは変わらずトルクフルで、乗った印象は軽油100%の場合と変わらなかった。
「サステオ」を給油した「CX-80」を運転できた。パワートレインは変わらずトルクフルで、乗った印象は軽油100%の場合と変わらなかった。拡大

49:51の黄金比率

発熱量が同じなので、ディーゼルの「マツダCX-80」(非ハイブリッド)に給油すれば、軽油と同じように最高出力231PS/最大トルク500N・mのスペックどおりの性能が出せる。軽油しか入れたことがない車両にサステオをつぎ足しで入れてもいいし、サステオばかりのところに軽油をつぎ足してもいい。マツダ車に限らず車両側の改造は不要である。

サステオがHVOを軽油で割って(?)使っているのは、国内規格で「軽油相当」であることを満たす目的である。発熱量が同じなのでHVOをストレートで使っても燃焼的な問題はないのだが、その場合は軽油密度の点で地方税法やJISの求める一般要求品質、品確法等を満たせず公道は走れない。そのギリギリが49%の軽油と51%のHVOのブレンドなのだ。品質の安定が難しいためユーグレナでは長らくHVOが20%のサステオを販売してきたが、ようやく51%にまでこぎつけたという(製法を特許申請中らしい)。なお、燃料タンクに軽油が49%入っているクルマをHVOで満タンにすると結果的にサステオと同じ配分になるが、これは「製造行為」なのでアウトだそうだ。

ユーグレナのHVOはマレーシアにあるPETRONASのプラント(ユーグレナも出資)で精製されて運ばれてくる。そのため、日本での販売価格は約500円/リッターと高額にならざるを得ない。ユーグレナとしてもその問題は認識しており、「まずは環境意識の高い(お金持ちの)アーリーアダプターから」とのことで、三井住友銀行などが顧客になっているのはそういう事情である。

平野石油がラインナップする簡易給油機。ガソリンと違って軽油は200リッターまで届け出なしで保管できるので、これに「サステオ」を満たして営業所に置いておくというような運用ができるのだ(タンク容量は190リッター)。
平野石油がラインナップする簡易給油機。ガソリンと違って軽油は200リッターまで届け出なしで保管できるので、これに「サステオ」を満たして営業所に置いておくというような運用ができるのだ(タンク容量は190リッター)。拡大
平野石油の簡易給油機は100V電源、または太陽光発電で動く。車両に100Vのコンセントがあればこんな使い方もできる。
平野石油の簡易給油機は100V電源、または太陽光発電で動く。車両に100Vのコンセントがあればこんな使い方もできる。拡大

ユーグレナの現実を見据えた判断

ここまで読んで「ミドリムシの話は?」と思われた方もいることだろう。ユーグレナは横浜市鶴見区のバイオ燃料製造実証プラントでミドリムシも原料に活用したバイオディーゼル燃料(主体は廃食油)を製造し、いすゞ自動車の通勤バスの燃料として供給するなどしていたのだが、2024年1月をもってプラントの稼働を終了。国内におけるバイオ燃料の継続利用ニーズに応えるには海外企業等から調達したバイオ燃料の販売にシフトする必要があるという判断だったという。というのも、このプラントで製造したバイオディーゼル燃料は1万円/リッターにも上っていたらしい。いくらお金持ちのアーリーアダプターでも、これではステークホルダーを納得させるのは難しいはずだ。マレーシアから運んでくるHVOにミドリムシ由来の油を混ぜることも可能だが、「WELL TO WHEEL(採掘から走行まで)」の観点から好ましくないという。あくまで現実を見据えるユーグレナである。

ユーグレナのサステオは三井住友銀行の営業車(「CX-60」らしい)を動かすばかりでなく、平野石油の流通網によって工事現場などにも運ばれ、各種重機等にも使われている。こうした小さな積み上げがやがて補助金や助成金というかたちになり、いつしかカーボンニュートラルの大きな流れをつくるかもしれない。

ちなみにユーグレナの社用車はサステオを使ってはいないらしい。というか「余裕がなくて……」とのことで社用車は一台もなく、従業員は電車やレンタカーを利用して頑張っている。「紺屋の白袴」とはちょっと違うかもしれないが、マツダとユーグレナ、平野石油、三井住友銀行らの取り組みに賛同したお金持ちの経営者の方は、「うちもぜひ」と手を挙げていただければ幸いである。

(文と写真と編集=藤沢 勝)

いすゞ自動車の通勤バスはHVO51%のサステオで運用中。かつてはミドリムシ由来の油も使った高価な燃料を使っていた。
いすゞ自動車の通勤バスはHVO51%のサステオで運用中。かつてはミドリムシ由来の油も使った高価な燃料を使っていた。拡大
藤沢 勝

藤沢 勝

webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。

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