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ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT(6AT)

もっと遠くへ 2025.09.20 試乗記 青木 禎之 日本のモーターサイクルのなかでも、屈指のハイテクマシンである「ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT」に試乗。高度な運転支援システムに、電子制御トランスミッション「Y-AMT」まで備えた先進のスポーツツアラーは、ライダーを旅へといざなう一台に仕上がっていた。
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シフト操作はバイクにお任せ

オフィシャルサイトにて「最上の週末に、出会う」とうたわれるヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMTは、大型自動二輪のオートマ免許で乗れるバイクである。ライダーの左手と左足の代わりに、トランスミッションと組み合わされた電子制御のアクチュエーターがギアを変えてくれる。

この仕組み、自動化されたクラッチについてはホンダの「E-Clutch」と同様だが、ホンダ車は左足によるギアチェンジの操作が必要で、またあえてクラッチレバーを残すことで、いつでも通常のMT車に復帰できるようになっている(そのためAT限定免許では乗れない)。それと比較して、クラッチレバーそのものをなくしてしまったのがヤマハのY-AMTだ。右手でスロットルをひねるだけで、速度に応じて自動でシフトアップされ、停車前に速度を落としていくと、自動でシフトダウンされる。つまり、完全なオートマライドが可能となる(ボタンによるマニュアル操作もできる)。

Y-AMT初体験の自分がとまどったことは2つ。ひとつはやはりクラッチレバーがない点で、停車時にバイクを押して動かそうとしたとき、クラッチを切ろうとしてしばし途方に暮れた。MT乗りの人は、習慣的に1速に入れてバイクを止めませんか? もうひとつは、市街地でタイトに曲がりたいのに、物理的に半クラッチが使えない点。これは、フットブレーキを利かせながら曲がるのがコツだったようだ。

……といったグチをこぼすのがばからしいほど、Y-AMTは個人的にありがたいトランスミッションだった。

2025年3月に大幅改良が発表された「ヤマハ・トレーサー9 GT」。日本仕様は、スタンダードな「トレーサー9 GT」と、ハイテク満載の「トレーサー9 GT+ Y-AMT」の2機種で構成されており、スタンダードモデルでY-AMT仕様を、あるいは上級仕様でマニュアルトランスミッション仕様を選ぶことはできない。
2025年3月に大幅改良が発表された「ヤマハ・トレーサー9 GT」。日本仕様は、スタンダードな「トレーサー9 GT」と、ハイテク満載の「トレーサー9 GT+ Y-AMT」の2機種で構成されており、スタンダードモデルでY-AMT仕様を、あるいは上級仕様でマニュアルトランスミッション仕様を選ぶことはできない。拡大
「Y-AMT」ではクラッチ操作は完全に自動化されており、左ハンドルにもクラッチレバーはない。手動変速時のシフト操作は、左スイッチボックスに備わるシーソー式のスイッチで行う。
「Y-AMT」ではクラッチ操作は完全に自動化されており、左ハンドルにもクラッチレバーはない。手動変速時のシフト操作は、左スイッチボックスに備わるシーソー式のスイッチで行う。拡大
「Y-AMT」にはMTモードが備わるほか、ATモード時でもシフトスイッチを操作すれば任意でシフトアップ/ダウンが可能。ATモード時の変速制御には「D」と「D+」の2種類が用意される。
「Y-AMT」にはMTモードが備わるほか、ATモード時でもシフトスイッチを操作すれば任意でシフトアップ/ダウンが可能。ATモード時の変速制御には「D」と「D+」の2種類が用意される。拡大

スポーツツアラーの巨体もこれなら安心

恵まれた体格の方は「またかよ」とうんざりするかもしれませんが、身長165cmの自分にとって、シート高845mm(2段階あるうちの低い位置で設定)のバイクは微妙に厳しいものがある。普通に座ると両足の先がようやく地面につく程度で、いわゆるツンツン状態だ。加えて、本車のウェイトは232kgと油断ならないから、発進時の操作が極少で、渋滞時にエンストの心配がいらないのは本当に助かった。Y-AMTは「トレーサーユーザーの幅を広げる」というより、ズバリ「初心者に優しい」デバイスそのものだ。もちろん、ベテランライダー、エキスパートの方々の疲労軽減にも効果大なはず。

いっぽうで、トレーサー9 GTのクラッチ付きMT車とY-AMT車の間で、機関的なスペックに違いはない。888cc水冷直列3気筒のアウトプット(最高出力120PS/10000rpm、最大トルク93N・m/7000rpm)、6段MTのギア比、サスペンションやタイヤの仕様も同じだ。先進運転支援システムとY-AMTを備えた試乗車の価格は、通常のマニュアルギアボックスのトレーサー9 GTより38万5000円高い198万円となる。

さて、足つきに不安が残るライダーでも、走りだしてしまえばトレーサーは豪華な安楽ツアラーで、余裕あるパワー、スムーズな自動シフトを堪能しながら、気分よくライディングを楽しめる。エンジンは回転フィールに若干の野趣を残した頼れるユニットで、街なかでAT任せで走ると、だいたい4000rpm手前でシフトアップしていくので、法定速度域内ならほぼ3速まででカバーできる。貧乏性の自分は、シフトアップボタンを押して、高いギアを選んでいましたが。

シートの位置は2段階で調整可能だが、こうした機種のご多分に漏れず、高いほうでは860mm、低いほうでも845mmと、いささか高めだ。
シートの位置は2段階で調整可能だが、こうした機種のご多分に漏れず、高いほうでは860mm、低いほうでも845mmと、いささか高めだ。拡大
エンジンは、ヤマハの上級モデルではおなじみの888ccの水冷並列3気筒。シフトアクチェーターとクラッチアクチュエーターはいずれもエンジンの後方に搭載されており、足に干渉するようなことはない。
エンジンは、ヤマハの上級モデルではおなじみの888ccの水冷並列3気筒。シフトアクチェーターとクラッチアクチュエーターはいずれもエンジンの後方に搭載されており、足に干渉するようなことはない。拡大
MTモードでの走行時には、ライディングモードの切り替えも可能。モードは「スポーツ」「ストリート」「レイン」に2つのカスタムモードを加えた、全5種類が用意される。
MTモードでの走行時には、ライディングモードの切り替えも可能。モードは「スポーツ」「ストリート」「レイン」に2つのカスタムモードを加えた、全5種類が用意される。拡大
足まわりにはKYBと共同開発した電子制御サスペンション「KADS」を装備。減衰力の制御はスポーティーな「A-1」とコンフォートな「A-2」の2種類で、さらにカスタムモードを2つ記録できる。
足まわりにはKYBと共同開発した電子制御サスペンション「KADS」を装備。減衰力の制御はスポーティーな「A-1」とコンフォートな「A-2」の2種類で、さらにカスタムモードを2つ記録できる。拡大
ACCや衝突被害軽減ブレーキ、各種警報装置といった、予防安全・運転支援システムの充実ぶりも「ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT」の特徴だ。
ACCや衝突被害軽減ブレーキ、各種警報装置といった、予防安全・運転支援システムの充実ぶりも「ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT」の特徴だ。拡大
燃料タンクの容量は19リッター。カタログ燃費は21.1km/リッターなので、スペックどおりなら約400kmの距離を無給油で走破できる。
燃料タンクの容量は19リッター。カタログ燃費は21.1km/リッターなので、スペックどおりなら約400kmの距離を無給油で走破できる。拡大
安心・安全かつ快適にツーリングを楽しめる機能が充実した「ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT」。オーナーにはぜひ、これらの機能をフルに活用してグランドツーリングを楽しんでもらいたい。
安心・安全かつ快適にツーリングを楽しめる機能が充実した「ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT」。オーナーにはぜひ、これらの機能をフルに活用してグランドツーリングを楽しんでもらいたい。拡大

週末ツーリングだけじゃもったいない

同車の素性のすばらしさは、従来型の先進技術体験試乗会(参照)で感じていたが、ひとたび最新型で高速道路に乗れば、それこそツアラーの本領発揮。無理のないアップライトな乗車姿勢、ソフトで乗り心地に優れるサスペンション(電制可変ダンパー付き)、ハイトを変えられるウインドスクリーンと、ぜいたく至極。殿さま気分でクルージングできる。

Y-AMTの採用で自在にギアを選べるがゆえ、速度調整のほぼすべてをバイクに任せられるようになったACC(アダプティブクルーズコントロール)もありがたいが、「事故防止に直結する」と強く感じたのが、BSD(ブラインドスポットディテクション)だ。ACCなどに活用されるミリ波レーダーを、自車前方だけでなく後方にも照射して、死角にいる他車をサイドミラーの警告灯によって知らせてくれる。四輪車では珍しくない装備だが、走行時の不安定要素が多い二輪ではなおさら有効で、ライダーの後方確認を大いに補ってくれる。特に疲れがたまりがちな帰り道の高速道路では、「ヒヤリハット」の減少を実感できるライダーが頻出するに違いない。

こうした、わかりやすく表に出るデバイスだけでなく、数え切れない電子制御やライダーアシスト機能が、長短を問わず二輪の旅を下支えしてくれる。トレーサー9 GT+ Y-AMTの、スポーツツアラーとしての本質をさらに際立たせる。これは週末ツーリングだけではもったいない。

(文=青木禎之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=ヤマハ発動機)

ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT ABS
ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT ABS拡大
 
ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT ABS(6AT)【レビュー】の画像拡大
 
ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT ABS(6AT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2175×900×1440mm
ホイールベース:1500mm
シート高:845mm/860mm
重量:232kg
エンジン:888cc 水冷4ストローク直列3気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:120PS(88kW)/1万0000rpm
最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm
トランスミッション:6段AT
燃費:21.1km/リッター(WMTCモード)
価格:198万円 

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青木 禎之

青木 禎之

15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。

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