空冷の「スポーツスター」が復活!? ハーレーダビッドソンの定番商品はどんなバイクとなるのか
2026.06.05 デイリーコラム定番のエントリーモデルがまさかの復活
ハーレーダビッドソンが、空冷の「スポーツスター」を復活させるという発表をした。
この話を聞いたとき、ゴトーは「やっぱりなあ、ハーレーにはこのバイクが必要だよ」と思った。周囲にいるバイク関係の友人たちもまったく同意見である。スポーツスターを愛してハーレーのショップを立ち上げ、「空冷以外はスポーツスターじゃねーから」と断言していた友人にいたっては、この発表で涙を流しそうになったほどである。彼の場合はちょっと極端だが、空冷スポーツスターがハーレーのなかでなくてはならないモデルになっていることは間違いない。スポーツスターの源流となる1952年の「モデルK」から続く歴史は、それほどに大きいのである。
では、なぜそんなに大事なモデルが消えたのか? 2020年春から約5年半、ハーレーのかじ取りを担った前CEOのヨッヘン・ツァイツは、2021年に発表された5カ年戦略「The Hardwire」で、長期的な収益の成長とブランド価値の向上を掲げ、利益率の高い商品、ブランドのプレミアム性を重視した。水冷エンジンを搭載した「スポーツスターS」や「パン アメリカ」は、前任者時代に種がまかれ、ツァイツ体制下で発売・展開された新世代ハーレーの象徴的なモデルである。これらの新しいハーレーは話題を集め、新しいユーザー層に訴求する狙いを持っていたが、従来の空冷スポーツスターが担っていた“入り口としてのハーレー”をそのまま置き換える存在にはなりきれなかった。そして、ほぼ同じタイミングで空冷のスポーツスターが姿を消すことになった。
空冷スポーツスターの生産中止は、表面的には排ガス規制への対応だった。欧州ではEuro 5への非対応を理由に2021年からラインナップを外れ、北米でも2022年末に従来型スポーツスターは姿を消した。空冷スポーツスターの「Evolution」エンジンは基本設計が古い。厳しい排ガス規制に適合させるためには多くの変更が必要だ。しかし、ハーレーのなかでは低価格帯となっていた空冷スポーツスターの販売価格を大きく上げることは難しい。加えて、先ほど述べたとおりハーレーは高価格帯・高収益モデルへと軸足を移しており、水冷エンジンの「Revolution Max」を積む新世代モデルで、ブランドを近代化しようという考えもあったのだ。しかし、結果はよくない方向に動いた。
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新生「スポーツスター」に課せられた使命と課題
販売台数を見ると、日本でこそ2022年の販売台数は32.8%も増加したが、これは「フォーティーエイト ファイナルエディション」を含む“最後の空冷”需要に加え、パン アメリカやスポーツスターS、そして「ナイトスター」と、新世代モデルの話題が重なった結果とみるべきだろう。世界的には、空冷スポーツスターが姿を消した2022年以降、ハーレーの販売台数は下降傾向となっている。
もちろん、そのすべてを空冷スポーツスター廃止のせいにすることはできない。だが、彼ら自身も象徴的なモデルを失った影響と認識している。2025年10月にCEOとなったアーティ・スターズは、この5月に発表した新戦略「Back to the Bricks」のなかで、空冷スポーツスターのようなモデルを廃止したことがブランドの間口を狭め、販売台数の低下につながったという趣旨の説明をしている。さらに今後は、高額なツーリングモデル主体となった価格帯のバランスを見直し、またカスタムや中古車の流通、アパレルなども重視した戦略へと戻す方針を示した。「Back to the Bricks」という言葉は、直訳すれば“レンガへ戻る”という意味だ。ハーレー本社のあるミルウォーキーの伝統や、同社の基礎に戻るという意味が込められているのだろう。
復活するスポーツスターは、報道資料によれば約1万ドルの中間価格帯のモデルとなり、伝統的なハーレーを連想させる空冷エンジンを搭載するという。しかしこれは相当に大変なことである。アメリカ本国で発売されていたスポーツスターの最終モデルは1万ドルから1万3000ドルくらいだった。今日の厳しい排ガスや騒音規制に対応させて、従来モデルと同等、もしくはそれ以下に価格を抑えようとするのだから、ちょっとやそっとでは採算ベースに乗せることはできない。車両単体の利益率を抑え、パーツ&アクセサリーなどで回収する戦略なのかもしれないが、なんにしても、それくらいハーレーが空冷スポーツスターの重要性を再認識したということなのだろう。
なんてことを吉野家で牛丼をかっ食らいながら考えていて、「スポーツスターって牛丼なんだな」と思った。1980年に会社更生法を申請した吉野家は、再建の過程でフリーズドライ肉の使用などをやめ、原点である「吉野家の牛丼」に戻った。最近、牛丼屋はどこも付加価値の高い新商品に力を入れており、どれもそれなりにうまいのだが、なにがあっても牛丼は主役であり続けている。これから登場する新生空冷スポーツスターも、ハーレーダビッドソンにとって、その牛丼のような存在になるのかもしれない。
(文=後藤 武/写真=ハーレーダビッドソン、三浦孝明/編集=堀田剛資)
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後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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