国内には2台のみ!? ピニンファリーナの幻の傑作クーペにイベントで遭遇
2026.06.24 デイリーコラム日本には存在しないと思っていた
栃木県宇都宮市内にあるクラシックカーを得意とするガレージ「ブレシア」を中心とするマロニエ・オートストーリー・フォーラムによって、毎年4月29日(昭和の日)に開かれている「マロニエ・オートストーリー“春”ミーティング」。50台前後の参加車両が栃木県鹿沼市内にある出会いの森総合公園に集合し、そこから鹿沼市内のワインディングロードを主体とするツーリングに向けてスタート。昼過ぎに出発地点に戻ってバーベキューを楽しむという、いうなれば癒やし系のクラシックカーイベントである。
筆者はほぼ毎年おじゃましているのだが、4月上旬に開かれたオートモビルカウンシルの会場で会ったこのイベントの常連参加者に耳打ちされた。
「マロニエ、いらっしゃいますよね? 今回はすごいレア車が来ますよ」
そう聞いてなんだろうとは思ったが、あえて車名は尋ねず、何が来るのか楽しみに待つことにしたのである。
そして当日、現れたクルマを見て心底驚いた。日本には存在しないと思っていた、まさに超レア車にして、私が実車を見たいと思っていたランキングのトップ3くらいに入るモデルだったのだ! いったい何かというと「フィアット130クーペ」。あのフィアットが1971年から1977年までラインナップしていた、ピニンファリーナデザインの優雅なボディーを持つ高級パーソナルクーペである。
筆者にとっては、ほぼ同時代の「フェラーリ365GT/4 2+2」「ロールス・ロイス・カマルグ」「ランチア・ガンマ クーペ」とともに、勝手に「1970年代のピニンファリーナによる高級クーペ四部作」と呼んでいるうちの一台。それら4台のなかでも、個人的に最もカッコイイと思うものの、一度も実車を見たことがなかったのがフィアット130クーペだった。そうしたいわば「幻のモデル」の、しかもすばらしいコンディションの個体が目の前に現れたのだから、驚嘆せずにはいられなかったのだ。
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フィアットにV12エンジン搭載車まであった時代
ここまで読んで「フィアットって小型車専門メーカーじゃなかったっけ?」と思った方もおられることだろう。その疑問は当然である。確認のためイタリア本国のフィアットの公式ページをチェックしたところ、商用車や商用車ベースのミニバンなどを除いた現行ラインナップの、“純乗用車”で最大のモデルは「600e」なのだから!
だが、かつてのフィアットはフルラインメーカーだった。いつまでそうだったのか、という線引きは難しいが、テールゲート付きではあるがスリーボックスのアッパーミドルサルーンだった初代「クロマ」が健在だった1990年代まではそれに近かったといえる。
そもそもイタリアはトリノにフィアットが設立されたのは1899年。話が長くなるので大幅にはしょるが、1920年代には1リッター直4エンジン搭載車から6.8リッターV12エンジン搭載車までそろえたフルラインメーカーとなり、黎明(れいめい)期のモータースポーツでも大活躍した。
戦後は戦前からの流れをくむ“トッポリーノ”こと初代「500」や「1100」から始まり、1960年代初頭には“ヌオーバ・チンクエチェント”こと2代目「500」から2.3リッター直6エンジン搭載のフラッグシップである「2300」シリーズまでのフルラインナップが完成。“フィアット帝国”としてイタリアに君臨し、生産台数ではアメリカのビッグスリーとフォルクスワーゲンに続く世界5位のメーカーとなっていた。
2300は、1959年にデビューした「1800」から「2100」を経て1961年に登場した4ドアサルーン。日本の5ナンバーフルサイズに近いボディーに、元フェラーリのアウレリオ・ランプレーディが設計したクロスフロー、ヘミヘッドの2.3リッター直6 OHVエンジンを搭載していた。バリエーションとして「2300スペチアーレ」と名乗るロングホイールベース版、「2300ファミリアーレ」と呼ばれる5ドアワゴン、そしてカロッツェリア・ギアが手がけた2ドアファストバッククーペボディーを架装した「2300クーペ」とエンジンをスープアップした「2300Sクーペ」もラインナップ。2300Sクーペは、いわゆる“プアマンズ・フェラーリ”に数えられる高級パーソナルクーペだった。
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メルセデスやBMWに対抗する高級サルーン
フィアットは1966年にデビューし、欧州カー・オブ・ザ・イヤーも獲得した「124」から、それまでの500など総排気量に代えてコードナンバーを車名にするようになった。その法則に沿って1969年に登場した「130」は、旧態化した2300に代わる新たなプレステージサルーンだった。
ボディーは全長×全幅×全高=4750×1805×1440mm、ホイールベース2720mmとひとまわり大きくなり、シャシーはフィアットのFRの量産車としては初めて四輪独立懸架を備え、ブレーキは四輪ベンチレーテッドディスク。パワーユニットは新たに専用設計された2.9リッターV6 SOHCで、変速機は3段ATが標準で5段MTがオプション。そしてパワーステアリングにエアコンまで標準装備と当時の欧州車としては異例に豪華で、ボディーサイズを含めて「メルセデス・ベンツ280S」(W108)や「BMW 2800」(E3)、初代「ジャガーXJ 2.8」あたりに対抗する高級サルーンと目された。
だが“弁当箱”などと呼ばれた124や「125」を拡大コピーしたようなスタイリングは魅力的とは言い難かった。また1.5tを超える車重のせいで性能的にも見るべきものはなく、メルセデスやBMWのライバルとはなり得なかった。結局のところはイタリア国内の公用車や法人需要が主体で、1976年までの販売台数は1万5000台余りにとどまった。
その130のデビューから2年後の1971年になると、かつての2300に対する2300クーペ/2300Sクーペと同様に2ドアクーペが追加された。それが130クーペだったのだ。
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50年たっても“プアマンズ・フェラーリ”
130サルーンと同じ2720mmのホイールベースを持つシャシーに載る2ドアクーペボディーをデザインしたのは、ピニンファリーナに在籍していたパオロ・マルティン。直線基調で端正という言葉がぴったりのボディーの全長はサルーンより90mm長く4840mmあるが、間延びした感じはまったくない。ピニンファリーナの傑作クーペのひとつと呼ばれるにふさわしいたたずまいである。
ダッシュやドアなどにウッドパネルをあしらい、シートやドア内張りにモケットを張ったインテリアもエクステリアにマッチした上品なデザインで、フィニッシュも上々である。
ベルト駆動のV6 SOHCユニットは3.2リッターに拡大されて最高出力165PSを発生。変速機はサルーンと同様に標準が3段AT、オプションが5段MTで、前者でも最高速は195km/hという高級グランツーリズモにふさわしいパフォーマンスを発揮した。
その仕上がり具合から、これまた「BMW 3.0CS」(E9)や「メルセデス・ベンツ280C/CE」(W114)あたりと市場を争うと目されたが、1977年までの生産台数は5000台に満たなかった。サルーンともどもセールス面では惨敗といえる結果に、フィアット上層部は小型大衆車のイメージの強いフィアットブランドで高級車を売るのは難しいと判断したようで、その名を冠したプレステージモデルは130をもってラインナップから消滅。以後、その市場は1969年に傘下に収めたランチアブランドにまかせるようになった。
130はサルーン、クーペともに日本には正規輸入されなかった。クラシックカーがブームになっても中古並行で入ってくることも(おそらく)なく、その結果、幻のモデルとなっていたのである。このたび筆者の念願がかなって出会えたこの130クーペは、近年になってイタリアから輸入されたもので、オーナー氏が知る限りでは日本にはもう1台が存在するという。
130クーペについてネットで検索していて、ある海外のクラシックカーガイドのサイトに、こんな感じの記述を見つけた。「フェラーリ365 GT4 2+2の5分の1未満の価格で手に入る、1970年代のピニンファリーナのエレガントなイタリアンGT」。いつまでたっても“プアマンズ・フェラーリ”扱いというわけだが、私は本家より好きですよ。プアマンズにも手が届かないプアラーマンだけどね。
(文=沼田 亨/写真=フェラーリ、ロールス・ロイス・モーターカーズ、ステランティス、沼田 亨、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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