三菱トライトンGSR(4WD/6AT)
時代は巡る 2026.06.23 試乗記 三菱のピックアップトラック「トライトン」のマイナーチェンジモデルが登場。トヨタの新型「ハイラックス」を迎え撃つべく三菱は、シャシーを鍛え上げ、走行性能をさらなる高みへと引き上げている。400km余りをドライブした印象をリポートする。30年前のピックアップブーム
『ポパイ』なんかを熟読して得た西海岸カルチャーを重ねられる存在として、日本の若者がピックアップトラックに並ならぬ思いを抱いたのは1980年代の話だろうか。さりとて、当時は価格やインフラや諸税的にも「Fトラック」や「C-10」なんかにホイホイと乗れるわけもなく、手もとのハイラックスや「ダットラ」に気持ちを込めてカスタマイズするのが精いっぱいだった。
が、それはそれでひとつのスタイルとなり、土曜の夜は荷台にシェルを積んでリフトアップした日本のトラックが渋谷くんだりをウロウロしていたのを思い出す。そんなアメカジ全盛の1990年代前半ごろが、おそらく日本でのピックアップブームの最高潮だったのではないだろうか。
あれから30年余りの時がたち、国内生産されていたトラックたちは需要なき日本を離れてあらかた海外へと生産移管した。が、その一部が日本へと輸入されることで、じわりとマーケットが活性化しつつある。そのきっかけとなったハイラックスは、当初は林業や狩猟、JRAやNEXCO等の特殊法人など、プロ向けの代替需要を満たすべく西海岸からではなくタイから輸入されたが、個人需要が膨らんだこともあって一時は受注停止にまで至った。
その状況を三菱はしっかり観察していたのだろう。初代トライトンを同じくタイから輸入販売していたのは2011年までの話。地方、特に東北以北の寒冷地で今も時折見かけるそれは、大半が仕事や生活に必要だから乗り続けられているようにうかがえる。が、その代替需要をサポートするだけではカタログモデルとしての展開は難しい。逆にいえば、個人の需要が手堅く見込めれば導入への道は開けてくる。そこで同じ悩みを抱えたハイラックスが先んじて市場の反応を見せてくれたこともあり、満を持して3代目の輸入販売に踏み切れた……というのは僕の勝手な読みだ。が、その実績が「パジェロ」の名を目覚めさせる呼び水となったことに疑いはない。
トラックらしからぬ豪華装備群
そんなトライトンに2026年1月、一部改良が加えられた。グレードが上位の「GSR」一本に集約されたのは、コスト重視の法人需要が一巡したことを示しているのだろう。ほかには内装の加飾や空調関係の装備拡充、テールゲートのダンパー変更による開閉アシストなどが新たに加わった。
でも、今回のマイチェンで最も喜びそうなのは、走ってナンボのわれわれのような客層だったりする。ちなみに動的性能に関して加えられた項目は、前後端クロスメンバー付近への「パフォーマンスダンパー」の採用と、それに合わせてフレームとボディーをつなぐマウント、および前後ダンパーの減衰特性を変更したことだ。
現世代の登場から間もなく3年ということもあって、内外装の基本意匠に変更はない。ぜいたくにまつわる尺度は人それぞれだが、個人的にはその満艦飾ぶりはにわかにはトラックとは思えないほどだ。果たしてこれほどの至れり尽くせり状態に現地のニーズがあるのだろうかと心配になるが、ASEANでは取得や維持の優遇からトラックが乗用の需要を満たしている側面もある。このあたりはアメリカにおけるトラックの需要構造とよく似た話だ。
後席の居住性は座面の大きさや背もたれの角度も含めてしっかりできている。背後が隔壁なので後方にリクライニングすることはできないが、着座姿勢の設定はむしろまっとうだ。背もたれを倒し切ったのけぞりポジションが長時間の移動ではむしろ余計に疲れる。新幹線で座るなり爆倒する前の席のオッサン方も、実はうすうす感じていることではないだろうか。
足りないところは工夫でカバーを
というわけで、大人が前後に4人座る空間としては現代のダブルキャブは至極まっとうにできているのだが、一方で多人数乗車時はキャビン内に積む荷物の量に制約ができることは頭に入れておかなければならない。それがための後ろのベッドだし、そこにふたを付けるなりシェルをかぶせるなりすればスーツケースも嫌になるほど乗せられるだろう。が、個人の移動に伴う荷物の積載性について制約があるのは頭に入れておくべきことだ。
この点、ハイラックスは後席座面をチップアップさせることで背の高い荷物を汚れも気にせずキャビン内に収められるなど、細かな工夫が凝らしてある。対すればトライトンはつくりが凡庸だが、これはオーナーの工夫でカバーしてねというメッセージにもうかがえなくもない。おそらく需要地での使いようとしては後ろは椅子に見えても荷室、汚れていようが隙間にはカバンをバンバン放り込むというものだろう。そういうざっくり感を旅ものの「YouTube」でも見るように楽しめるか否かがオーナーには求められる。
エンジンの仕様に変更はないが、若干ガラガラ音が目立つなどのディーゼルらしい癖はあれど、走り自体にはまったく物足りなさは感じない。低回転域からしっかりと“らしい”トルクを発生して、5.3m超えの巨体を軽やかに走らせる。120km/h級の高速巡航までそつなくこなしてくれる。トランスファーなど駆動まわりのノイズもよく抑えられていて、重機的なものを動かしている感覚は薄い。ここは賛否が分かれるところだろうが、さりとて乗用車同然というわけではないから、今日びのSUVとはやはり一線を画するところはある。そこを運転のライブ感として受け止められるかどうかが、この手の骨付き四駆を選んで幸せになれるか否かの境目となるだろう。
不便を受け入れた先に広がる世界
そして期待される乗り味については、ちょっと驚くほど洗練されていた。なんならアイドリング付近の微振動まで減衰しているのかと思うほど車内は始終快適で、走行時は小さな凹凸や目地段差など微細な入力による上屋のプルプルッとした横揺れ感が確実に軽減されている。この減衰効果により上屋と車台の動きに一体感が増したことで、結果としてハンドリングのフィードバック的にも応答性が高まったように感じられるのだろう。そこにマウントとダンパーを細かく合わせ込んでいるあたりが、ポン付けとは一線を画するメーカーのお仕事といえる。
前述のとおり、トライトンは誰もがSUV感覚でポンと飛びつくのは勧めにくいクルマではある。サイズや積載性でも、維持の手間やメカニズムでもそうだ。が、そういう都市的な合理性とは一線を画するところにあるからこそ、特有の存在感を醸せてもいる。もし、そこがいいという逆目線から取っかかれる人であれば、トライトンの扱いやすさや快適性は拍子抜けするほどだろう。納得できれば代わりのない選択肢であることは間違いない。
その代わりなき選択肢が三菱かトヨタかで選べてしまうのだから、日本のクルマ好きはラッキーだ。なんならタイヤもはみ出さんくらいに巨大な「タンドラ」さえ、トランプのひと声で産直ものが転がり込んでくることになったわけで、日本市場がここまでトラック祭りになったのは、それこそ30年ぶりくらいの話だろう。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=三菱自動車)
テスト車のデータ
三菱トライトンGSR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5360×1930×1815mm
ホイールベース:3130mm
車重:2120kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:204PS(150kW)/3500rpm
最大トルク:470N・m(47.9kgf・m)/1500-2750rpm
タイヤ:(前)265/60R18 110H XL/(後)265/60R18 110H XL(ヨコハマ・ジオランダーG94)
燃費:11.3km/リッター(WLTCモード)
価格:551万8700円/テスト車=615万6590円
オプション装備:ボディーカラー<ヤマブキオレンジメタリック>(6万6000円) ※以下、販売店オプション フロアマット(4万9500円)/ETC車載器<音声案内タイプ>(4万6090円)/ハードトノカバー(40万7000円)/前後ドライブレコーダー<ユピテル製>(6万6000円)/三角停止表示板(3300円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1665km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:403.5km
使用燃料:34.5リッター(軽油)
参考燃費:11.7km/リッター(満タン法)/12.1km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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