ホンダ・スーパーONE(FWD)
楽しい! 安い! 2026.08.04 試乗記 ホンダのスポーツハッチバック電気自動車(BEV)「スーパーONE」がいよいよ公道を走り始めた。その愛らしいスタイリングと走りの楽しさはすでに各所で報告されているが、多くの方が不安に感じているのは“距離”に関してに違いない。幾度かの経路充電を挟みつつ300km余りをドライブした。6気筒くらいの高級感
スーパーONEは軽BEVの「N-ONE e:」をベースに、トレッドを40mm広げ、1983年発売の「シティ ターボII(通称:ブルドッグ)」を思わせる前後オーバーフェンダーでもって武装し、普通車枠に昇格させたFWDの小型ホットハッチである。エコ走行用の「イーコン」、ワンペダルの「シティー」、バランス重視の「ノーマル」、応答性を高め、走行音と有段変速が楽しめる「スポーツ」に加え、「ブースト」というスペシャルなモードが用意されている。
ドアを開けてギョッとするのは、前席のバケットタイプのシートだ。じつは筆者の奥さんが初代「N-ONE」に乗っておりまして、それをときどき借りたりするのですけれど、ウチのベンチシートとは大違い。N-ONE e:同様、普通のN-ONEよりもステアリングホイールがドライバー側に37mm近くなっているそうで、なるほど、12時の位置に手が届く。シートもキリッとしている。
ダッシュボードの右端にある「POWER」のスイッチを押すと、眼前のスクリーンにテーマカラーのパープルを基調とした、アメコミ調のカミナリのアニメーションが流れて、スタンバイを知らせてくれる。
路上に出て、ノーマルでちょっと走ったあと、スポーツに切り替える。すると、仮想7段変速になって、BOSEのスピーカーから人工のエンジンサウンドが流れてくる。ヴウウウウウウンという、低くて丸みのある、どっちかというとOHVユニットを思わせるサウンドで、だけどモーター独特の滑らかさゆえ、6気筒ぐらいの高級感がある。そういう違和感も含めて笑えてくる。これは楽しい!
それでは、と2本スポークのステアリングの3時の位置にある、テーマカラーのパープルに塗られた小さなスイッチを押す。ブーストモードに切り替わると、最高出力が64PS(47kW)から95PS(70kW)に増大する。ブルーだった画面がパープル基調の3連メーターに変わり、野太い擬似エンジンサウンドがひときわとどろく。仮想の変速ショックもスポーツ時より明瞭になる。実際はエンジンもなければ、変速ギアもないのに……。
といってこれ、ホンダだけの技術というわけではない。「ヒョンデ・アイオニック5 N」や「レクサスRZ550e“Fスポーツ”」で、同様のことがすでに実現している。だけど、前者は891万円、後者は950万円もする。ホンダはそれを軽自動車ベースの、339万200円の小さな小型ハッチバックに採用し、技術を大衆に解放した。それこそ本田宗一郎がやってきたことだ。
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速すぎないから楽しめる
「プレリュード」の「ホンダS+シフト」の技術を応用したという仮想7段シフトは、左のパドルを長引きすると手動変速になる。レブリミットに達すると、ヴヴヴヴッとエンジン車でカットオフが働いたようなそぶりをみせる。アイオニック5 Nでも派手な演出がなされていて、筆者は大いにたまげたから経験済みだけれど、分かっちゃいるけどオモシロい。
各ギアの最高速を確認してみると、メーター読みで1速:37km/h、2速:52km/h、3速:72km/h、4速:94km/hとなる。仮想7段の最後まで試すことはかなわずとも、仮想のギア比はクロースしていて、スポーティーな設定であると思った。エンジニアの皆さんに言ってあげたい。あんたも好きねぇ(Ⓒ加藤茶)。
手動変速でのドライブを、ワインディングロードで実践しようとすると、かなりむずかしい。モーターの回転フィールはスムーズすぎて、いつの間にかレブに達し、ヴヴヴヴッという擬似サウンドと加速の中断で、筆者なんぞはあとから気づく。ワインディングをテンポよく走るには、よほど気をつけるか、早々に諦めたほうがよい。私的には自動変速でダウンだけマニュアルで操作するほうが心地よい。コーナーの手前でダウンシフトすれば、ぶおんっとブリッピングのサウンドがとどろき、一拍置いてから、あたかも1段低いギアでのような太いトルクでもって加速する。3連メーターの真ん中のタコメーターの針が変速のたびに、人工のエンジン音と連動してぴょんと振れる。この針の動きは仮想のはずで、エンジンも変速ギアもないのだから。と分かっちゃいるけど、オモシロい。うれしい。楽しい。もしや、これはバーチャル恋愛!?
コーナーリングも最高である。なにがいいって、速すぎない。手の内におさまる。人工サウンドを気持ちよく聴きながら、気持ちよく曲がって、気持ちよく加速する。「アウトビアンキA112アバルト」を思い起こさせるスポーティブネス、陽気さ、ひょうきんさ、遊び好きの気質を感じるのは、トルクステアがあるからだ。軽くアクセルを踏み込むと、前輪の空転がステアリングに伝わってくる。そういう演出なのだろう。ステアリングのギア比をクイックにしていることも効いている。もちろん車重1090kgと軽いことも楽しさの大きな要因になっている。軽さを重視して、電池容量はN-ONE e:そのままなのだ。
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センター電池ならではの低重心
現代のクルマで車重1tというと、「マツダ・ロードスター」がすぐさま浮かぶ。ロードスターは1t少々で、1.5リッター直4 DOHCは最高出力136PSと最大トルク152N・m。ブースト時のスーパーONEは最高出力95PSと最大トルク162N・mだからして、つまりこの小型BEVはハコのFWDライトウェイトスポーツカーだといえる。
軽快な運動性能は、フロアの中央、N-ONEだとセンタータンクの位置に重たい電池を置いていることから生まれている。車検証に見る前後重量配分は60:40なれど、センター電池によっていかにも低重心で、重めのフロントからノーズに切り込みつつも、ロールが穏やかで安定感がある。
前後トレッドがベースのN-ONE e:より40mm、「N-ONE RS」と比べると50mm広げられていることも安定感に寄与しているはずだ。185/55R15の「ヨコハマ・アドバン フレバV701」がコーナリングパワーをきっちり受け止めてもくれる。
フロントのサスペンションはロワアームをアルミの鍛造品に、リアはアクスルビームの板厚を厚くし、タイヤを支えるハブの剛性を強化している。バネとダンパーは専用チューンで、N-ONE RSよりも引き締まっている。河口湖周辺の荒れた路面でも全然不快ではないのは、ボディーの高い剛性感、立派なシートのおかげもある。全体の印象としては、ガチガチの「タイプR」というよりは、しなやかな「タイプS」という感じ。古い例えで恐縮ながら。
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航続可能距離の真実
BEVだからこそ実現したスーパーONEの楽しさは、BEVだからこその航続距離という問題を抱えている。私が山梨の河口湖周辺で試乗を開始したとき、電池の残量は75%で、走行可能距離は120kmと表示されていた。ブーストモードで1時間ほど走り回ると、電気エネルギーはみるみる減って45%、68kmに。実際の走行距離は44kmだったから、使い方によって電費は大きく変わる。もちろんそれは内燃機関車だって同様だ。
走行可能距離68kmでは、この日の最終目的地である埼玉県和光市までたどり着けない。Googleマップによると、河口湖から和光まではおよそ100km。そこでわれわれは中央道の談合坂SAで昼食の間に充電し、82%、走行可能距離141kmで再スタートした。談合坂SAからは環八経由で70.9km。イーコンモードで走り、到着時は余裕の49%、走行可能距離90kmだった。充電インフラも整ってきた今日このごろ、一充電走行距離274km(WLTCモード)でもなんとかなりそうである。
楽しくて安い! ここが肝心だ。130万円の国のCEV補助金と、東京都民だったらもらえる都からの補助金、残クレ等を使えば、実質タダという説もある。受注が多すぎて、いま注文すると納期が遅くなって補助金がもらえない説もある。もちろん、もらえたほうがうれしいけれど、スーパーONEはBEV普及の転換点になるかもしれない。
私も買っちゃおうかなぁ……。と思って近所のディーラーに行ってみた。納車は来年1月。補助金はないと思っていただいたほうが……。遅かりし由良之助。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=本田技研工業)
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テスト車のデータ
ホンダ・スーパーONE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3580×1575×1615mm
ホイールベース:2520mm
車重:1090kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:95PS(70kW)
最大トルク:162N・m(16.5kgf・m)
タイヤ:(前)185/55R15 82V/(後)185/55R15 82V(ヨコハマ・アドバン フレバV701)
一充電走行距離:274km(WLTCモード)
交流電力量消費率:114Wh/km(WLTCモード)
価格:339万0200円/テスト車=358万3800円
オプション装備:ボディーカラー<ブーストバイオレットパール&ブラック>(10万4500円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット<プレミアム>(2万9700円)/ドライブレコーダー<前後セット>(5万9400円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1480km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:336.4km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:6.8km/kWh

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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