マクラーレンW1(MR/8AT)
心が躍るスーパーカー 2026.06.29 試乗記 マクラーレンが、かつての「F1」や「P1」に続く“究極のロードゴーイングカー”として開発した、超高性能モデル「W1」。そのドライブフィールはどのようなものか? イタリアで試乗した西川 淳がリポートする。メーカーの意気込みが伝わってくる
ガルウイングドアを高々と上げた2台のW1がわれわれをパドックで出迎える。マクラーレンであるのは確かなのに、どこか違和感を覚えてしまったのは、それが(これまでのような)ディヘドラル式のドアではないからだろうか。もしくはシステム最高出力が1275PSのRWDマシンという“恐怖の先入観”がそう思わせたか……。
ピットに入ると、まずはW1のベアシャシーが目に飛び込んできた。完全新設計のカーボンモノコックボディー「Aerocell(エアロセル)」はもちろん、前後の極太なアルミ製サブフレームが強烈なインパクトを放っている。その後方を眺めると、ピットをいくつかぶち抜いて、W1、P1、そしてF1という歴代“1”モデルのそろい踏みだ。F1を物欲しげにしげしげと眺めていると、どうぞ! と言ってスタッフがドアを開け、センターシートに座らせてくれた。大盤振る舞いというべきであろう。
そもそもごく限られたメディアを対象にしたとはいうものの、世界限定399台、邦貨にして1台4億円以上というマシンを、クローズドコースのみならず一般道でも試させるというのだから、新生マクラーレンがW1に賭ける“意気込み”が分かるというものだ。
イタリアはムジェッロ・サーキットのピットには、W1の開発陣が勢ぞろいしたのはもちろん、新たにCEOとなったニック・コリンズ氏その人の姿もあった。彼はマクラーレンの独自性(カーボンシャシーで軽くて空力にも優れること)を守るために、マクラーレンを変えようとやってきたのだった。
プロダクトマネージャーのヘザー・ローズ氏に呼ばれ、ピットを出た。パドックに止められたほとんど黒に見える紫色のW1に導かれる。まずは公道テストからだった。
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マクラーレンらしい“意のまま”感
商品企画を担当したローズ氏から直々にコックピットドリルを受ける。インテリアにおける最大の特徴は、軽量化のためにシートがカーボンモノコックと一体となったことだろう。ペダルボックスとステアリングコラムを動かしてドラポジを決める。手足の短い私でもまったく問題なく最適な心地よいポジションを得た。
オーバーヘッドにコンソールがあって、そこにスターターボタンやハザードスイッチなどが配されていること以外に操作系で戸惑うことはない。イタリアへたつその日まで、1週間ほど「750Sスパイダー」に親しんだから余計にそうだ。基本的な操作ロジックは既存モデルからさほど変わらない。
単体で最高出力928PSを誇る新設計の4リッターV8ツインターボが目をさます。なかなか太いサウンドだ。音と振動の伝わり方は750Sよりやはり野蛮だ。特別なモデルに座っているという気に十分させる。
「楽しんできて!」。彼女からそうカジュアルに送り出されて緊張する間もなく走りだす。乗り心地は「765LT」より良いくらいだ。砂塵を巻き上げるガシャガシャ音も少ない。パドックを出てサーキットの取り付け道路を走るころにはもう確信した。これはマクラーレンである、と。
「4億円」も「399台」も「1275PS」もキレイさっぱり忘れ、北トスカーナのカントリーロードへと駆け出す。
自分の思いどおりに走ってくれる感覚こそ、マクラーレンの神髄であろう。最初のランナバウトを曲がりながら私は完全にリラックスモードになっていた。ターボエンジンのサウンドこそ無粋だが、車体の動きは実にコントローラブル。ステアリングセンター付近はリジッドながら神経質ではなく、ハンドルを気楽に握って構えていればいい。けれども意思を持って動かせば非常にニンブルで、車体のレスポンスも鋭い。要するに、切ろうと思えば驚くほど素早く反応するが、思わなければ気楽な片手ドライブも可能だ。
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公道ではストレスフリー
とにかく、プッシュすることを忘れてしまうほど扱いやすかった。パワートレインは常に望むだけの力を供出し、ドライバーを不安にさせることがない。1275PSの片りんを感じるためには、これまた右足を踏み込むという強い意志が必要だというわけだ。
ランナバウトの速度域はもちろん、ワインディングロードをそれなりに攻めてもドライバーの視線は乱れず、常にフラット、ずっと同じ感覚でいられる。高速道路でもまるで同じ。とにかく公道の一般的な速度域ではドライバーのストレスなど皆無。スーパーカーにありがちな、“速く走れないストレス”すら感じないのだ。むしろ、ゆっくり走っていても気分がよかった。
なんと、90分間の公道テスト中、ナビゲーションにゴール(ムジェッロ)の案内が見えてきたところで初めて、不覚にもフルスロットルを試していないことに気がついた。1275PSはサーキットでのお楽しみ、というわけである。
W1は初めてのグランドエフェクトロードカーだ、とマクラーレンは言う。1275PSのパワートレインをRWDで成立させるためには是が非でも“空力”の協力が必要だった。1000PS以上のスーパーカーが軒並みe4WDとなる時代にあって、彼らはフロントモーターの代わりに“神の手”、つまりエアロダイナミクスで強大なパワーを御する方法を選んだ。前輪の動きをクリアに保つことがマクラーレンらしさを守るために最も重要な要素だと考えたからだった。
ヘルメットとハンスを装着し、オレンジ色のW1に乗り込んだ。右ハンドルだ。「セナ」をエストリルで試した時に知り合った開発ドライバーの一人が隣に座る。彼の指示に従ってムジェッロを一台で占有走行するという、ぜいたくなテストの始まりだ。
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脳がバグるほど速い
最初のセッションではコースを思い出すため、7割くらいの力加減で走らせる。モードはもちろん「レース」で、ギアチェンジはマニュアル。それでも存分に速い。
速いだけではない。ブレーキのフィールと効きは完璧で、旋回の始めから終わりまで車体はすべて手の内にあった。助手席からの指示に従ってかすかにドリフトアウトしながら加速すれば、ムジェッロがこんなに狭く、こんなにも短かったかとまで思う始末。減速し、旋回し、加速しながら狂ったように大笑いする私を助手席のプロはどんな思いで眺めていたのだろう。きっと怖かったはずである。
最初のセッションのストレートで、4速と5速でブーストを用い、最高速はそれでも280km/hを超えたあたりまでに達した。2度目。今度は「レース+」に「GP」モードで走りだす。サーキット全域で速くなっているのを体感する。ハンスがなければ首が伸びてしまったに違いない。
その速さに慣れた頃合いで、全域ブーストとなる「スプリント」、言ってみれば予選アタックモードに変えてみる。コースがさらに狭く、まるでミニサーキットのように感じられた。コーナーの迫り具合が目に見えて速い。同じマシンを駆ってそんなふうに感じたことなど、これまでのテスト経験で一度もなかった。
ムジェッロのストレートは、1コーナーの手前で一度軽く盛り上がっている。つまりストレートでフルスロットルをくれてやる最中に、肝心のストレートエンドから1コーナーがブラインドになっている。怖い。怖いのだが、止まることができると知っている。盛り上がった先までノーブレーキで走った。果たしてデジタル数字は「300」を超えていた……。
マクラーレンW1はまず間違いなく、今、世界で最も速く、そして最も楽しいロードカーだろう。
(文=西川 淳/写真=マクラーレン・オートモーティブ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
マクラーレンW1
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×2074×1182mm ※全幅はサイドミラーをたたんだ状態での値
ホイールベース:2680mm
車重:1399kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
モーター:アキシャルフラックスモーター
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:928PS(683kW)/--rpm
エンジン最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/--rpm
モーター最高出力:347PS(255kW)
モーター最大トルク:225N・m(22.9kgf・m)
システム最高出力:1275PS(938kW)/--rpm
システム最大トルク:1340N・m(136.6kgf・m)
タイヤ:(前)265/35ZR19 98Y/(後)335/30ZR20 108Y(ピレリPゼロ トロフェオRS)
ハイブリッド燃料消費率:--km/100km
EV走行換算距離:2km(WLTPモード)
充電電力使用時走行距離:2km(WLTPモード)
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロード&トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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