マクラーレンの新型スーパーカー「W1」は何がすごいのか
2024.12.26 デイリーコラム「F1」「P1」に続く特別なモデル
「マクラーレンF1」と「マクラーレンP1」に続く同ブランドのハイパフォーマンススーパーカー「マクラーレンW1」が日本に上陸した。1992年に登場したF1も2012年に発表されたP1も、ここであらためて言うまでもなくマクラーレンの歴史にさんぜんと輝くブランドを象徴するスーパーカーである。
マクラーレンF1は、現在のマクラーレン・オートモーティブの前身となるマクラーレン・カーズが開発から製造、販売までを一貫して行った。それまでレーシングコンストラクターとして活動してきたマクラーレンが(別会社ではあるが)初めて本格的な市販車を手がけた記念すべきアイコンである。当時は現在のような販売ネットワークは存在せず、マクラーレンサイドが購入者を審査し、そこで認められた人のみが購入する権利を与えられた……と、まことしやかにささやかれた。
その車名はF1マシンとの関連をストレートに表現したものといわれ、カーボンファイバーモノコックの採用や運転席をセンターに置いた3座シート、フォーミュラカーを意識したかのような右側のシフトレバー配置、最高出力627PSを誇るBMW M社製のV12エンジン、そして上方に開くドアなどなど、このクルマの特徴は枚挙にいとまがない。
マクラーレンP1は、2012年のパリモーターショーでデザインスタディーがお披露目され、2013年のジュネーブモーターショーで市販モデルがデビューした。ハイブリッドパワートレインをいち早く採用したスーパーカーでもあり、最高出力737PSの3.8リッターV8ツインターボに、同179PSの電気モーターを組み合わせ、システムトータル出力は916PSとアナウンスされた。車名のP1は“プロダクションモデルでのポールポジション”、すなわち世界最高峰のスーパースポーツを意味していた。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
空気と戦うエクステリアデザイン
そうしたアルファベット一文字に数字の1を加えるという歴代のシンプルなネーミングルールにのっとり、最新モデルはW1と命名された。W1が発表された10月6日は、50年前にマクラーレンがF1(フォーミュラ1)において初めて“世界チャンピオン”になった日である。それから現在に至るまで、マクラーレンはF1でコンストラクターとドライバーの両カテゴリーで合計16回におよぶ世界タイトルを獲得。すなわち「W」は世界を、「1」は頂点や唯一の意味を持つことがわかる。
これまでマクラーレンが世に送り出してきたロードゴーイングモデルをさらに進化させたようなエクステリアデザインは、世界最高峰レースでの経験から生まれたグラウンドエフェクトエアロダイナミクスを追求してデザインされたという。
350時間にわたる風洞実験と、5000ものテストセッションで磨き上げられたそのフォルムは、高速域で“障壁”となる空気と戦うものだ。フロントとリアには電動式のアクティブウイングが組み込まれおり、フロントウイングが走行中の空気の流入量を調整し、リアウイングはおよそ300mm後方に伸び角度を調整することで、速度に応じた最適な空力性能を得ることが可能なのだという。
ドライビングモード切り替えシステムで最強の「レース」モードを選択すると車高がフロントで37mm、リアで17mm下がり、280km/h時に最大で1000kgのダウンフォースを発生。極端に絞り込まれたフロントセクション、ディフューザーそのもののようなリアセクションは、見る者をただ圧倒するだけのものではなく、科学的なデータに裏打ちされた機能を有している。マクラーレンはこれをもってW1を「F1マシンの『MCL38』と同じグラウンドエフェクトカー」と説明している。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
どん欲なまでの「本物志向」
パワーユニットは新開発された「MHP-8」と呼ばれる4リッターV8ツインターボにEモジュールを組み合わせたハイブリッドシステムだ。エンジン単体の最高出力は928PS、最大トルクは900N・mで、これに同378PS、同440N・mのラジアルフラックス型モーターが備わる。バッテリー容量は1.384kWhと小さいものなのでゼロエミッションのいわゆるEV走行は2kmしかできないが、大容量バッテリーを積むことで増える重量を敬遠したとみることができる。
アンヘドラル式と呼ばれるマクラーレンで初採用となるガルウイングスタイルのドアを開けると、“包み込まれる”と紹介するのがふさわしいデザインのコックピットが出現する。左右のシートはカーボンモノコックのエアロセルに直接装着され、ドライビングポジションは、メーターナセルとステアリングホイール、そしてフットレストを含むペダルを前後させることで調整するシステムだ。
こうした斬新なしつらえは、3座シートのマクラーレンF1でもそうであったように、まるで「なにかと同じとは絶対に言われたくない」と主張しているかのようである。
0-100km/h加速2.7秒、0-200km/h加速5.8秒、そして0-300km/h加速12.7秒を標榜(ひょうぼう)するパフォーマンスは、W1の名にふさわしいものだ。300km/h到達タイムは、かの「スピードテール」よりも速く、全長約12kmという世界屈指の規模を誇るナルドのテストコースでは「セナ」のラップタイムを3秒も上回っているという。
理詰めでデザインされたエクステリアや、個性あふれるインテリア、そしてF1由来のテクノロジーを駆使したシャシーとパワートレイン。その開発姿勢は、まさにレーシングマシンそのものではないか。マクラーレンW1の姿を思い出すたびに「本物志向」というキーワードが頭に浮かぶ。
(文=櫻井健一/写真=マクラーレン・オートモーティブ、webCG/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
-
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代NEW 2025.9.17 トランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。
-
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起 2025.9.15 スズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。
-
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから” 2025.9.12 新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。
-
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ 2025.9.11 何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。
-
「日産GT-R」が生産終了 18年のモデルライフを支えた“人の力” 2025.9.10 2025年8月26日に「日産GT-R」の最後の一台が栃木工場を後にした。圧倒的な速さや独自のメカニズム、デビュー当初の異例の低価格など、18年ものモデルライフでありながら、話題には事欠かなかった。GT-Rを支えた人々の物語をお届けする。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。