トライアンフ・トライデント660(6MT)
ミドル級ロードスターの完成形 2026.08.15 試乗記 英トライアンフのミドル級ネイキッドスポーツ「トライデント660」が、大幅に進化。エンジンを強化し、フレームやサスペンションを見直すなど、全方位的に走りに磨きをかけてきた。速さと乗りやすさを同時に追求した一台の、ライドフィールを報告する。“速さ”より“扱いやすさ”が印象的
「いやー、よくできているなあ」。最新のトライデント660に乗り終えたとき、まずそう思った。街なかを走っただけでこれだけ楽しませてくれるとは、正直思っていなかった。トライデント660は、トライアンフのロードスターファミリーのエントリーを担うモデルとして、2020年に登場した。660ccの並列3気筒エンジンとコンパクトな車体を組み合わせ、扱いやすさを重視しながら3気筒らしいエンジンのキャラクターもしっかり味わえるモデルだ。最新モデルは、その基本コンセプトを残したまま、かなり大きな進化を遂げている(参照)。
エンジンには各気筒独立の44mmスロットルボディーを採用し、エアボックスを大型化。シリンダーヘッドやカムプロファイルなどにも手が加えられ、レッドラインは従来型より約20%高い1万2650rpmとなった。最高出力は81PS/1万0250rpmから95PS/1万1250rpmへ、最大トルクは64N・m/6250rpmから68N・m/8250rpmにアップ。6段トランスミッションのギア比や最終減速比も変更され、クイックシフターの「トライアンフシフトアシスト」も再セッティングされている。
スペックだけを見ると、従来型よりかなりスポーツ寄りになったように感じる。しかし実際に走りだして印象に残ったのは、速さ以上に、その扱いやすさだった。低回転から十分な力があり、スロットルを開ければコンパクトな車体を660ccとは思えないほど力強く前へ押し出す。そこからさらにスロットルを開けていくと、3気筒らしい厚みのあるトルク感が強くなり、吸気音とエキゾーストノートも次第にエキサイティングになっていく。この変化が実に楽しい。95PSという数字以上に、広い回転域を使って楽しめるところが、このエンジンの魅力なのだと思う。
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どこをとっても完成度が高い
近年のスポーツモデルは、電子制御の進化によって性能を引き出しやすくなった一方で、セッティング次第では、スロットルを開け始めたときの反応や、発進直後の感触まで過剰に管理されているように感じることがある。けれどトライデント660には、そうした過保護さがない。スロットルを開けた際のトルクの盛り上がり方は自然で、電子制御でありながら、ライダー自身がエンジンを直接コントロールしている感覚が薄れないのである。
クラッチはレバーを比較的握り込んだ位置からつながり始め、半クラッチの領域は短めだが、唐突にカツンとつながるわけではない。低回転域でも十分なトルクがあるため、発進時に神経質さを感じることもなかった。シフトアップ/ダウンの両方に対応するトライアンフシフトアシストも、作動はかなり正確だ。低い速度域では条件によってショックを感じることもあるが、市街地を流す程度の速度から十分に使うことができるし、ショックも不快なものではない。
足まわりの完成度も高い。フロントにはショーワの41mm径SFF-BP倒立フォークを装備し、ホイールトラベルは120mm。2026年型ではリアショックも新しくなっており、ホイールトラベルは130mmとなり、プリロードと伸び側減衰力の調整が可能になった。サスペンションはスポーツライディングを考えた設定になっているようだが、その動きはスムーズだから、速度が乗った状態でギャップを通過しても、強い突き上げがいきなりライダーに伝わってくるようなことはない。路面の状態はそれなりに伝わってくるが、前後タイヤがなにをしているのかを把握するための情報として捉えられるレベル。街乗りでの快適性を確保しながら、スポーツライディングにも対応できるセッティングになっている。
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高いレベルでバランスがとれている
なにより感心させられたのが、ステアリングのニュートラルさである。欧州製のスポーツネイキッドには、ときにフロントまわりの反応が鋭すぎて、低速では落ち着かなかったり、コーナー進入でライダーを身構えさせたりするモデルもある。対してトライデント660は、低速でも速度の乗った状態でも、バンクさせたときのステアリングの動きが自然。バイクを寝かせると、ライダーがハンドルに力を入れる必要もなく、体の力を抜いた状態でコーナリングできる。新型ではフレームにも変更が加えられ、ハンドルもこれまでよりワイドになっている。運動性を高めているのだけれど、俊敏さだけを狙った神経質なハンドリングにはなっていない。
フロントブレーキは310mm径のツインディスクにニッシンの2ピストンスライディングキャリパーという組み合わせだ。スーパースポーツのような装備ではないけれど、公道を走るトライデント660にはこのくらいのバランスがいい。握り始めからいきなり強力な制動力が立ち上がるのではなく、レバー入力に応じて自然に制動力が増していく。必要になればしっかり減速できる一方、市街地でも扱いにくさを感じない。シフトペダル、クラッチレバー、スイッチ類といった、一つひとつは細かな部分の操作感も上質だ。こうした細部の仕上がりには、やはりトライアンフらしさを感じる。
つまり最新トライデント660のおもしろさは、もともと持っていた軽さや扱いやすさ、自然なハンドリングを残しながら、その上にエンジンの伸びとスポーツ性を加えているところにある。大型バイクに慣れていないライダーでも構える必要がない一方で、経験のあるライダーならスポーツバイクらしい楽しさが感じられる。
速くするだけなら比較的簡単だ。しかし、速くしたうえで扱いやすさを両立させるのは難しい。トライデント660は、そんな課題を見事にクリアしている。完成度の高いミドルクラス・ロードスターである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×815×1088mm
ホイールベース:1402mm
シート高:810mm
重量:195kg
エンジン:660cc 水冷4ストローク直列3気筒DOHC 4バルブ(1気筒当たり)
最高出力:95PS(70kW)/1万1250rpm
最大トルク:68N・m(6.9kgf・m)/8250rpm
トランスミッション:6MT
燃費:4.9リッター/100km(約20.4km/リッター)
価格:104万9000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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