BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)
走りに見栄はいらない 2026.09.02 試乗記 BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。必要な装備を厳選
BMWは「パワー・オブ・チョイス」という戦略を掲げている。電動化は進めるものの、幅広いパワートレインを用意してユーザーに多様な選択肢を提供するという。同じプラットフォームで内燃エンジン車・プラグインハイブリッド車・電気自動車(BEV)などをつくり分け、自由に選べるようにする。柔軟な考え方であり、市場の動向や技術の発展に合わせてフレキシブルに方針を変更できるわけだ。
ノイエクラッセをうたう新世代BEVモデルの第1弾として「iX3」の販売が日本でも始まった。BMWの意気込みがうかがえるが、一気にBEVブランドへと向かうわけではない。ガソリンエンジンに愛着を持つ長年のファンは多いはずだし、まだまだ大きな市場がある。革新性をアピールしながら現行モデルをリファインしていくことが求められている。
日本で新しいグレードとして発表されたオリジナルは、電動化への過渡期に必要とされるシリーズである。「1シリーズ」「2シリーズ アクティブツアラー」「2シリーズ グランクーペ」「X1」「X2」「X3」「X5」に設定され、価格的にも魅力のあるグレードだ。ただ、BMWは廉価版とは位置づけていない。オリジナルという名には、原点回帰の意味が込められている。
BMWの原点が「駆けぬける歓び」であることには異論が出ないだろう。装備を厳選することで、BMWらしさが際立つはずだ。X1では「タイヤリペアキット」「電動シート」「シートヒーター」「ルーフレール」「スライディングリアシート」が外され、これまで最廉価の「sDrive20i Mスポーツ」からマイナス42万円の525万円という価格を実現した。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
不都合はないsDrive
試乗したのは「BMW X1 sDrive20iオリジナル」。なんだか違和感のある文字列が「sDrive」だ。BMWのSUVといえば「xDrive」がもれなく付いてくる印象がある。インテリジェント4WDのことで、悪路や雪道で安定した走りを実現する自慢のシステムだ。sDriveは4WDではなく、要するに2輪駆動ということ(X1の場合はFWD)。X1はオフロードより都会が似合うクルマだから、FFで不都合はないという判断である。
試乗コースは市街地だったので、4WDシステムが力を発揮するような場面には遭遇しなかった。軽快な走りはいい意味でSUVらしくなく、それでいて視点の高さが前方視界の面での優位性となる。サイズ感は都市部の路地でも苦労なく走れるもので、手ごろなシティーカーとして受け入れられやすい。
荒れた路面でも柔らかな乗り心地だったのは、17インチホイールの恩恵だろう。このクラスのSUVではあまり見たことのないサイズである。大径ホイールに見慣れていると奇異に感じるかもしれないが、乗り心地を優先するなら賢明な選択だ。別のグレードで「Mスポーツパッケージ」を選べば20インチホイールが装着できるものの、スポーティーな内外装を含まれるにしても結構な価格のオプションになる。
ブランドより性能
そして、タイヤの銘柄は「VREDESTEIN ULTRAC(ブレデシュタイン・ウルトラック)」。不勉強にして聞いたことがなかったのだが、100年以上の歴史を持つオランダの老舗タイヤメーカーだという。サイドウォールにBMW承認タイヤを示すスターマークが刻まれているので、厳しい基準をクリアしているのだろう。性能が担保されていればミシュランやコンチネンタルといった有名ブランドにこだわる必要はない。
走ってみても、不満を抱くことは一切なかった。都心部での試乗だったので市街地と高速道路でのテストに限られるが、走行性能、乗り心地、静粛性などは高いレベルだと感じる。1.5リッター直3ターボエンジンはパワフルとまでは言えないものの、ボディーの大きさを感じさせない軽やかな走りだ。48Vマイルドハイブリッドシステムはもちろんそのまま採用されているし、先進運転支援システムも最新である。安いモデルに乗っているという卑屈な気持ちは生じない。
X1 sDrive20iオリジナルはエントリーグレードであり、素のモデルだ。内装も質朴で、シートはファブリックである。見栄をはるのでなければ支障はない。エンジン、トランスミッション、サスペンションなどの走りに関わる部分は何も変えていないので、BMWの原点が分かりやすくなっているのだ。
思い切った割り切り
とはいえ、スライディングリアシートが省かれているのは、思い切った割り切りかもしれない。後部座席を前後にスライドできるので、後席の乗員にとってはありがたい機能だ。これも「駆けぬける歓び」とは関係ないと考えることもできるが、ファミリーカーとして使うなら家族からクレームが出ることもあり得る(リクライニング機能は全車に標準装備)。
BMWの原点として挙げられているのは、「駆けぬける歓び」のほかに「BMWらしいデザイン」「最新のデジタル体験」「安心と安全(先進運転支援システム)」だ。「快適性」は重視する項目とはなっておらず、スライディングリアシートは必須ではないということになったのだろう。
デザインや安心・安全の要素は分かりやすい。ひと目でBMWと認識されなければブランド性を保てないし、安全ではないクルマには誰も乗りたくないだろう。ちょっと意外に感じたのはデジタル体験の評価が高いことだった。考えてみれば、ソフトウエアのデキがクルマの価値を左右するのは事実だし、デジタルのメーターやディスプレイがユーザーインターフェイスの主流になって久しい。BMWらしさを表現するための有力なツールだといえる。
X1 sDrive20iオリジナルは、激戦区となっているプレミアムコンパクトSUVのセグメントに属する。メルセデス・ベンツやアウディなどの輸入車だけでなく、トヨタ、ホンダ、マツダなどのライバルもすぐに思い浮かぶ。ブランド性でアドバンテージを持つモデルもあれば、豪華装備でアピールするものも多い。あえて飛び道具を使わず、BMWらしさで一点突破を図るその意気やよし。ユーザーもクルマの本質を見極める目が問われることになる。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW X1 sDrive20iオリジナル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4500×1835×1645mm
ホイールベース:2690mm
車重:1580kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:156PS(115kW)/5000rpm
エンジン最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1500-4400rpm
モーター最高出力:20PS(15kW)
モーター最大トルク:55N・m(5.6kgf・m)
システム最高出力:170PS(125kW)
システム最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)
タイヤ:(前)205/65R17 100Y XL/(後)205/65R17 100Y XL(ブレデシュタイン・ウルトラック)
燃費:15.6km/リッター(WLTCモード)
価格:525万円/テスト車:525万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:652km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.3 フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。
-
日産エルグランドG e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.9.30 日産のプレミアムミニバン「エルグランド」がフルモデルチェンジ。その動力を担う第3世代の「e-POWER」は優れたドライバビリティーとともに、懸案だった高速燃費の改善もうたう。ロングドライブで進化のほどを確かめた。
-
ポルシェ911ターボS(4WD/8AT)【試乗記】 2026.9.29 「ポルシェ911」シリーズのなかでも最上位に位置するモデル「ターボS」。ポルシェ独自のハイブリッドと2基の電動ターボチャージャーを得た最新モデルは、どのような走りを備えているのか? 最高出力711PSのハイパフォーマンスモデルの実力に触れた。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラP5ロングレンジ エレクトリック(RWD)【試乗記】 2026.9.28 ボルボの電動コンパクトSUV「EX30クロスカントリー」に、後輪駆動の特別仕様車「ウルトラP5ロングレンジ エレクトリック」が設定された。530kmの一充電走行距離と、600万円を切る599万円の車両本体価格を実現した新エントリーモデルの走りを報告する。
-
NEW
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。 -
NEW
第131回:新型三菱パジェロ(後編) ―レトロブームには頼らない? 最新のデザイントレンドを追求した三菱の思惑―
2026.10.7カーデザイン曼荼羅正式発表を間近に控え、ますますファンの間で話題が盛り上がっている新型「三菱パジェロ」。歴史的な旗艦の復活だというのに、三菱があえてレトロブームに乗らなかった理由とは? カーデザインの識者とともに、新型パジェロに見る最新のデザイントレンドを探る。 -
NEW
写真で解説する「スズキeスカイ」
2026.10.6画像・写真軽規格の新型電気自動車「スズキeスカイ」がデビュー。2026年10月6日に東京都内で発表会が開催された。スズキが総力をあげて開発したというニューモデルの見どころや、会場における社長の談話を紹介する。 -
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】
2026.10.6試乗記「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。 -
エンジンオイルは高価なものを使うべきか?
2026.10.6あの多田哲哉のクルマQ&A高性能をうたう高価なエンジンオイルを使うと、どれほどの性能アップが期待できるのか? トヨタでさまざまな新車の開発に携わってきたエンジニア、多田哲哉さんに聞いてみた。 -
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】
2026.10.5試乗記今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。

















































