BMW X1 xDrive20i xライン(4WD/7AT)
スマートな優等生 2023.06.13 試乗記 フルモデルチェンジしたBMWのコンパクトSUV「X1」に試乗。最新型となる3代目と同時に上陸したバッテリー式電気自動車版の「iX1」に話題が集まるなか、ラインナップのベースとなるガソリンエンジン車の仕上がりを確かめた。内外装は最新のBMWモード
新しいX1は通算で3世代目だが、「2シリーズ アクティブツアラー/グランツアラー」と基本骨格を共有するFFレイアウトベースになってからは2世代目にあたる。そんな新型X1は先代同様に、2代目アクティブツアラーから少し遅れるカタチでのデビューとなった。スリーサイズは全長で45mm、全幅で15mm、全高で35mmそれぞれ拡大(新旧「X1 xDrive20i xライン」での比較)。競合車と比較すると、全長はひと足先に世代交代した「メルセデス・ベンツGLA」より長く、「アウディQ3」とならぶ。全高はGLAやQ3より高めで、競合比で余裕ある室内空間がX1の売りのひとつだ。
先代でアクティブツアラーと同寸だったホイールベースは、新型ではX1のみ20mm延びた2690mmとされた。それは今回からX1にBEVのiX1が用意されるためか、あるいはライバルが多いコンパクトSUVに属するX1ゆえに、居住性の拡大を期したからかもしれない。
新型X1は同世代のアクティブツアラーとの血縁関係がより深まってもいる。その象徴がインテリアデザインだ。
X1とアクティブツアラーのインテリアは、この新型から基本デザインが共通となったのだ。2枚の液晶を一体化した「カーブドディスプレイ」や、浮遊したような「アイランド型センターコンソール」、さらに特徴的なスマホ/タブレットホルダーなど、アクティブツアラーのインテリアに採用された特徴点の大半がX1でも踏襲されている。ただし、スマホ/タブレットホルダーに照明が追加され、ドアインナーハンドルが立体的になるなど、細部はより高価なX1のほうが少し色気が強い。
エクステリアでは、大型化かつ垂直化された八角形キドニーグリル、横長のテールランプが、BMWの最新モードだ。さらにドアアウターハンドルがフラッシュサーフェス化されたのも最新BMW車に共通するディテールで、これもアクティブツアラーと共通部品と思われる。公式資料によるとフラッシュサーフェスの目的は「空力のため」とある。
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少しだけ高級感が強め
2023年6月現在、日本で販売される新型X1には、BEV版のiX1に加えて、2リッター4気筒ガソリンターボの「20i」と、遅れて追加された2リッターディーゼルの「20d」という3種類のパワートレインがそろう。また、欧州には一部FFモデルも用意されるが、日本仕様はすべて「xDrive」=4WDだ。トリムグレードは全パワートレイン共通で、落ち着いた安楽系の「xライン」とスポーツ系の「Mスポーツ」を用意。2つのグレードに上下はなく、パワートレインが共通なら価格も同じになるあたりもアクティブツアラーと同様だ。
今回の試乗車は、そのうちで価格がもっとも手ごろな20i。トリムグレードはxラインだった。標準で履くタイヤの銘柄やサイズにグレード差はないかわりに、Mスポーツにのみ連続可変ダンパーの「Mアダプティブサスペンション」が備わる……というシャシーの仕立てもまた、アクティブツアラーによく似た構成である。ちなみにBEVのiX1についてはトリムグレードを問わず、全車に連続可変ダンパーがつく。
というわけで、今回の試乗車も足もとは固定減衰サスペンションで、日本仕様の諸元表にある205mmという最低地上高は可変ダンパーのMスポーツより16mm大きい。
ロール剛性が高く、安定した水平姿勢を保つ所作はいかにもBMWらしい。それでいて、共通プラットフォームのMINIよりは少し穏やかな調律でまとめられるのも、いつものBMW(のFF系レイアウト車)である。
webCGでも試乗記をお送りしたアクティブツアラーの安楽系グレード「エクスクルーシブ」より乗り心地が快適で、ロードノイズも少し抑制されているのは、SUVならではのタイヤ選択や地上高のおかげだろうか。いずれにせよ、額面どおりに、アクティブツアラーより少しだけ高級感強めの乗り味といっていい。
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開発の中心はBEV?
本国にはアクティブツアラーと同じ1.5リッター3気筒ターボの「18i」も存在するが、日本でのガソリンX1は2リッターターボとなる。パンチ力は3気筒より明らかに上回り、エンジン単体での振動騒音もワンランク上の高級感があるのは間違いない。4WDのおかげだろう、自然吸気なら3リッター級の最大トルクもシャシーは涼しい顔で受け止める。
ただ、パワートレインの洗練性には、文句なしともいいがたい。X1との組み合わせだと、2リッターでも中低速域は意外なほど線が細く、おのずとアクセルを深めに踏み込みがちとなる。そのままエンジン回転が3000~4000rpmまで上昇すると、一気にトルクが噴出して、のけぞるような加速になったり、あるいはクルマ全体がギクシャクしたりしてしまうのだ。
まあ、このあたりもトルコンATなら適度になましてくれるかもしれない。しかし、各国で厳格化するいっぽうであるCO2排出規制や燃費規制への対応なのか、以前はDCTとATを細かく使い分けていたBMWも、とくにFF系モデルではDCTのシェアが拡大しつつある。それでも、MINIなどで同じ組み合わせを試したときにはもう少し上品だったのも事実。そこにはエンジンと変速機だけでなく、X1の車重や4WDとのマッチングも影響しているかもしれない。
また、別の機会に乗ったBEVのiX1は、パワートレインがこれまた洗練度でも4WDのトルク配分でも素晴らしいデキだった。ヨーロッパ勢としては内燃機関の進化・継続にも熱心なBMWですら「もはや開発の中心はBEVかよ」などと毒づきたくなったりもした。その真偽は知らないのだが……。
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サプライズは少ないが……
ちなみに、以前は「コンフォート」「スポーツ」「エコプロ」などが用意されていたドライブモードも、新型X1ではBMW最新の「マイモード」に切り替わり、モードによって表示機能だけでなく、快適装備や疑似エンジン音、視覚効果、ACC制御まで変えるという。
その選択肢は今回のX1でも「パーソナル」「スポーツ」「エフィシェント」「エクスプレッシブ」「リラックス」という5種類がある。冒頭の3つは従来のコンフォート、スポーツ、エコプロに準じるが、「車内で感動的な視覚化とクリアなライト演出を可能にするモード」というエクスプレッシブや、「心地よい雰囲気でリラックスして走行するためのモード」をうたうリラックスは、走り方面の設定はコンフォート志向のまま、その他の機能で感動や快適性を演出するという。
基本ハードウエアがベーシックなX1の、しかも固定減衰の試乗車でいかに演出するかと思ったら、エクスプレッシブやリラックスでは電動シートのマッサージ機能が起動して、モードに応じてマッサージパターンを変えるという涙ぐましい努力は、なんともほほえましくもあった。
……と、今回のX1は正直いって、マイモード以外はオーソドックスな仕立てで、良くも悪くもサプライズは少ない。ただ、余裕ある室内空間に加えて後席スライド機能も健在な新型X1は、使い勝手まで含めると、クラスでは優等生の一台とはいえるだろう。
もっとも、アクティブツアラーを加えて、「1シリーズ」に「2シリーズ グランクーペ」、MINIといった血縁関係の深い各車の経験でいうと、今回の20iよりは20d、xドライブではなくMスポーツのほうが期待値が高いのもウソではない。X1に正当な評価を下すには、複数のバリエーションを試す必要はあるだろう。
また、高速走行がメインとなった今回の試乗ではカタログ燃費と同等の13km/リッター近い燃費を記録したのは今回唯一(失礼!)のうれしいサプライズだった。さらに別の機会にゴリゴリと山走りを試しても、燃費が大きく悪化しなかったのはさすがエンジン屋出身のBMWと申し上げたい。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMW X1 xDrive20i xライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4500×1835×1645mm
ホイールベース:2690mm
車重:1640kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:204PS(150kW)/5000rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1450-4500rpm
タイヤ:(前)225/55R18 102Y/(後)225/55R18 102Y(コンチネンタル・エココンタクト6Q)
燃費:12.9km/リッター(WLTCモード)
価格:556万円/テスト車:630万1000円
オプション装備:ボディーカラー<ユタ・オレンジ>(8万円)/ヴァーネスカレザー<オイスター/ブラック>(0円)/テクノロジーパッケージ(20万6000円)/ハイラインパッケージ(28万3000円)/電動パノラマガラスサンルーフ(17万2000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1776km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(5)/山岳路(1)
テスト距離:379.3km
使用燃料:29.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.8km/リッター(満タン法)/12.7km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。