BMW X1 xDrive20d Mスポーツ(4WD/7AT)
清く正しく美しく 2023.09.25 試乗記 先ごろフルモデルチェンジを果たしたBMWのエントリーSUV「X1」に、2リッターディーゼルエンジン搭載モデルが仲間入り。アクティブに使い倒すユーザーにとってはまさに待望のパワーユニットだ。高速道路を中心に200km余りをドライブしてみた。がっしり感が増したエクステリア
「BMW X1 xDrive20d Mスポーツ」と対面して、心からホッとした。というのもこの日の撮影・取材はカッコも中身もぶっ飛んだ「BMW XM」と一緒だったからで、渋谷のセンター街から地元の駅に帰ってきたときのように、落ち着いた気持ちになった。X1は、自分がよく見知っているBMWだ。
フルモデルチェンジを受けたBMW X1に遅れて加わった、ディーゼルエンジン仕様が本日の試乗車。このディーゼルエンジンには、48Vのマイルドハイブリッドシステムが組み込まれている。新しいX1を間近で見るのは初めてだったので、ドアを開ける前に周囲をぐるぐる回って眺める。
従来型よりも、全体にがっしりと、精悍(せいかん)な印象になった理由のひとつは、キドニーグリルだ。サイズが大きくなり、グリルを囲むメッキの幅も広くなったので、輪郭がくっきりした。そしてもうひとつ、従来型では前後のドアハンドルを貫通していたキャラクターラインが、ドアハンドルの上を通るようになったことも影響している。キャラクターラインが上方に移動することによって下半身のボリューム感が増し、それががっしり感につながっている。
ドアを開けてドライバーズシートに収まる。2枚の液晶パネルで構成されるカーブドディスプレイ、宙に浮いているように見えるセンターコンソール、それにスマホを立て掛けるように縦にホールドしてくれるホルダーなどが、新しモノ好きの心をくすぐる。
BMWは自社のSUVスタイルの車両を「SAV(スポーツアクティビティービークル)」と呼び、X1はそのエントリーモデルという位置づけだ。けれども、インテリアのデザインが新鮮であることと、内装素材の色ツヤと手触りがいいことから、安っぽいという印象は受けない。むしろ、小さな高級車の趣だ。
黄金の二遊間のようなパワーソース
スターターボタンを押すと、1995ccの直列4気筒ディーゼルエンジンは「シュン」と始動して、粛々とアイドリングをする。正直、ホントにディーゼルなの? と疑いたくなる滑らかさだ。
ここで運転席側と助手席側の窓を全開にして、もう一度エンジンを始動してみる。すると、始動時の「シュン」という上品さは変わらないものの、耳に直接入ってくるアイドリングの音は、ディーゼルを感じさせるガサガサとしたものだった。
ここから分かることは2つ。まず、マイルドハイブリッド機構のスターター兼モーターが、エンジン始動をアシストしているから始動がスムーズだということ。もう1つは、ボディーの遮音がしっかりなされているということだ。実際、窓を閉めて運転しているとディーゼルを意識させる音は感じないものの、走っている姿を外から眺めていると、イヤな音ではないけれど、ディーゼルっぽい音が響いている。
Dレンジに入れてスタートしてみると、このディーゼルエンジンのドライバビリティーの高さには感心する。まず、発進加速がすこぶるスムーズで、力強い。信号が青になってからの数m、タイヤが数回転する間のトルク感の濃厚さ、滑らかさが、高級ソフトクリームのようだ。
どこまでがエンジン本体の手柄で、どこからがモーターのアシストによるものなのか、その役割分担はうかがい知ることはできない。けれども、両者の連携がばっちりだということはよく分かる。西武ライオンズの外崎修汰選手と源田壮亮選手の二遊間コンビのように息が合っている。
回しても楽しめるディーゼル
発進加速から速度が上がるにつれ、エンジンとモーターだけでなく、7段のDCT(デュアルクラッチトランスミッション)もスムーズな連携に寄与していることが分かる。正直、「資料にはDCTとあったけれど、もしかするとトルコン式のATかな?」と疑いたくなるほど変速ショックを感じない。いっぽうで、アクセルペダルを踏み込みキックダウンでギアを落とす際の素早さと切れ味の鋭さはDCTらしくて、気持ちがいい。
360N・mの最大トルクを1500rpmから発生するエンジンであるからして、エンジン回転を高めたくなるシーンにはそれほど遭遇しないけれど、回したときのフィーリングもいい。もちろん、シルキーシックスと称される6気筒ガソリンエンジンのような繊細さはない。それでも、「フォー」という木管楽器系の心地いい排気音が高まることと、力感がみなぎることがシンクロして、アクセルペダルの操作がお仕事ではなく、お遊びであるように感じられる。
コーナーの出口でズドンとアクセルペダルを踏んでも、あふれそうになるトルクを4駆システムが一滴もこぼさずに、路面に伝えてくれる。ちなみに日本仕様のX1はすべて4駆となる。
ワインディングロードでちょっと遊んでみようかな、という使い方にもこのエンジンは応えてくれる。アクセルペダルを踏んだときの好感触についてはすでに触れたけれど、アクセルペダルを微妙に戻したときもリニアに反応してくれる。パーシャルスロットルにあうんの呼吸で応じてくれるあたり、“セナ足”という懐かしい言葉を思い出してしまった。
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BMWらしさを存分に味わえる
乗り心地とハンドリングについては、“ザ・BMW”と呼びたくなるものだった。
走りだしての第一印象はちょっと硬いかな、と思うものの、しばらく乗り続け、速度が上がるにつれて、硬いという印象がしっかりしているというものに変化していく。しっかりしているから安心だし、長距離を走っても疲労感が少ない。
ハンドリングはスカッと爽やかだ。ステアリングホイールから伝わる手応えに濁りがなく、路面からのインフォメーションを清明に伝えてくれる。従来型、つまり2代目のBMW X1が登場したときに、「FFベースのBMWに意味があるのか」という議論があった。けれども新しいX1に乗っていると、そんな議論はもはや無意味だと痛感した。FFベースだろうと、4輪駆動だろうと、BMWはBMWだった。
BMW X1 xDrive20dには、今回試乗したMスポーツと、「xライン」の2つのグレードが用意される。価格は606万円で共通であるけれど、Mスポーツには連続可変ダンパーの「アダプティブMサスペンション」が備わるという違いがある。xラインの固定減衰サスペンションと乗り比べたわけではないので両者の違いを論じることはできないけれど、少なくともMスポーツのアシは上出来だった。
全長4500mmと日本でも扱いやすいジャストサイズでありながら、後席も荷室も十分に広い。エンジンも足まわりも、ただよくできているというだけでなく、BMWらしさを十分に味わうことができる。前述したようにX1はBMWのXシリーズのエントリーモデルという位置づけであるけれど、これ以上のなにが必要か、と思わされた。
清く正しく美しく。丁寧にかつおだしをとった、一杯のかけそばのようなクルマだった。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
BMW X1 xDrive20d Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4500×1835×1625mm
ホイールベース:2690mm
車重:1740kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:150PS(110kW)/4000rpm
エンジン最大トルク:360N・m(36.7kgf・m)/1500-2500rpm
モーター最高出力:19PS(14kW)/5000rpm
モーター最大トルク:55N・m(5.6kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)225/55R18 102Y XL/(後)225/55R18 102Y XL(コンチネンタル・エココンタクト6Q)
燃費:19.5km/リッター(WLTCモード)
価格:606万円/テスト車:647万3000円
オプション装備:ボディーカラー<ケープヨークグリーン>(0円)/ヴァーネスカレザー<モカ/ブラック>(0円)/ハイラインパッケージ(24万1000円)/電動パノラマガラスサンルーフ(17万2000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1068km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:237.5km
使用燃料:12.1リッター(軽油)
参考燃費:19.6km/リッター(満タン法)/19.2km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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