日産ムラーノ プラチナム(4WD/9AT)
魅惑のネオアメ車 2026.09.23 試乗記 ドナルド・トランプ米大統領の圧力のおかげで(?)新しい「日産ムラーノ」の国内導入が決まった。日本を留守にしていた約11年の間にどう変わったのか、まさに「朋有り、遠方より来たる」の気分だ。本格導入よりもひと足早く北米仕様車の仕上がりを試した。保安基準変更で輸入が決定
「おかえり。大きくなって帰ってきたね……」
懐かしい気持ちになった。日産ムラーノに乗るのは、たぶん2004年以来だと思う。もちろん、前に乗ったのは初代モデルだ。アメリカ生まれのクロスオーバーSUVという斬新なイメージをまとっていた。1998年に「トヨタ・ハリアー」が発売されていたものの、まったく異なるキャラクターを持つアメリカンなスタイルが注目された。
アメリカで2002年に発売されると日本でも熱望する声が湧き上がり、予定外の導入が決まった。2008年に登場した2代目モデルは2015年で生産終了。3代目モデルは日本での販売が見送られた。2025年に4代目となった新型は北米限定とされていたが、2026年3月に日本に輸入されることが発表される。2月に国土交通省が創設したアメリカ製乗用車の認定制度を受けての決定だ。トランプ大統領に「日本でアメリカ車が売れないのは非関税障壁があるからだ!」と圧力をかけられると、日本政府はさしたる抵抗もなく了承。道路運送車両の保安基準を変更して、アメリカ基準で安全が認証された乗用車は日本国内での追加試験が免除されることになった。
何だか情けない対応だとも感じるが、各メーカーは素早く反応する。トヨタは「カムリ」「ハイランダー」「タンドラ」、ホンダは「パスポート」「アキュラ・インテグラ タイプS 」の日本導入を発表した。トヨタのニュースリリースには「よりよい日米貿易関係に貢献」との文言があり、政治的決定であることを隠していない。いずれも本来は日本で売ることを考えていなかったモデルであり、大きく販売台数を伸ばすことはないだろう。
ニッチな商品なのだから、日本向けに大きな仕様変更を施すことはできない。ムラーノはテネシー州のスマーナ工場で生産された左ハンドルのモデルが輸入される。ウェブサイトには「一部米国基準に則った仕様となっております」「ご購入・ご使用に際してご留意いただきたい事項があります」との注意喚起があった。
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ディスプレイはすべて英語表記
イレギュラーな経緯なので受け入れ態勢が整っていないのか、今回の試乗車はアメリカ仕様のままだった。実際に販売されるのは「SV」グレードなのだが、用意されていたのは上級グレードの「プラチナム」。いくつかの相違点がある。タイヤサイズはプラチナムが21インチなのに対し、SVは20インチ。セミアニリンレザーのシートはSVでは合皮となる。SVのエクステリアカラーは「ターコイズブルー」「プリズムホワイト」「スーパーブラック」のモノトーン3種だけで、今回の試乗車のような2トーンカラーは選べない。ほかにも車両重量などが異なっている。
運転席に乗り込むには、少しばかりよじ登るような感じになる。ガタイのいいアメリカ人ならスムーズなのだろうか。当然ながらシートはゆったりと座れる大きさで、クッションも分厚い。座り心地は上々だ。ダッシュボードやドアトリムの素材は上質で、796万4000円という価格にふさわしい仕立てになっている。黒一色ではなく木目調の茶色や細かいストライプのブルーなどとのコンビネーションで、アメリカンなリビングルームを思わせる空間だ。
ダッシュボードには横長のディスプレイが水平に2枚並んでいる。メーターやカーナビを表示し、各種設定を行うわけだが、すべて英語表記だ。難しい単語は使われていないので、なんとか操作できる。ただ、カーナビの検索まで英語のみなのは難儀だ。示される地図も、アブストラクト絵画みたいで自分がどこにいるのか判然としない。幸いなことに「Apple CarPlay」と「Android Auto」に対応しているので、スマホのマップ機能を使ったほうがいいだろう。
シフトセレクターはボタン式。2リッター直4ターボエンジンは2013kgの巨体をおもむろに前へ運んでいく。最高出力245PS、最大トルク352N・mというスペックは目覚ましいものではないが、数字以上の余裕を感じる。3代目までは3.5リッターV6エンジンが選べたからダウンサイズされたことになるが、このエンジンこそが最大のトピックだ。
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アメリカンなドライブフィール
ムラーノは、2リッターVCターボエンジンを搭載する日本初のモデルだ。VCとは「Variable Compression」の略で、つまり可変圧縮比エンジンである。マルチリンク機構を使ってピストンの上死点と下死点を連続的に変化させ、高出力と高効率を両立させる技術だ。1.5リッターのVCターボは「エクストレイル」に採用されているが、e-POWERの発電用である。日産の誇るハイテクエンジンのすごみを味わうには、ムラーノに乗るしかない。
アクセルを踏み込んでいくと、豊かなトルクが湧き上がってくる。いきなりドンッと加速するような仕草ではない。じわじわとスピードを増していき、どこまでも伸びていく感覚だ。ターボ感が薄いのは当然だろう。負荷が低い時には圧縮比を高めて効率を追求し、負荷が高くなれば圧縮比を下げてノッキングを抑える。トレードオフの要素を複雑な機構で巧みにコントロールしている。その結果、急激にターボが効いて加速するのではなく、どんなスピードでもアクセル操作に素早く反応する。大排気量の自然吸気エンジンのような感触だ。
このエンジン特性が、アメリカンなドライブフィールを演出しているのだろう。急がず焦らず、悠然たる走りだ。走行モードは「エコ」「スタンダード」「スポーツ」の3種類を切り替えることができるが、速く走ろうとしてスポーツを選ぶのはオススメしない。なかなかシフトアップしないのでギクシャクした走りになり、車内がうるさくなるだけだ。ワインディングロードなら真価を発揮するかもしれないが、アメリカンなドライブを楽しむためのモードではない。
高速道路では「プロパイロット」を使い、エンジン回転を低く保ったまま静かに巡航する。車内は静かで、段差を乗り越えても衝撃を受け流すから快適だ。横浜での試乗だと、いつもなら本牧道路から竹の丸を経由してドルフィンを脇に見ながら根岸に抜ける道を通る。でも、今回はやめておいた。狭い道なので、不安だったのだ。フロントフードが分厚く盛り上がっていて、右前方が見通せない。この大きさで左ハンドルだと、日本の道では難儀する。アメリカの分類ではミドサイズSUVになるようだが、日本では規格外の大きさなのだ。
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無茶振りが生んだ新ジャンル
2004年に初代ムラーノに乗ったのは、アメリカの西海岸だった。「Nissan 360」という大規模イベントがあり、世界30カ国以上からメディアやジャーナリストを集めて試乗会を開催したのだ。当時はゴーン改革のさなかで、日産リバイバルプランをアピールするために70台近い日産/インフィニティ車を並べて見せつけた。この年はムラーノ以外にも「フーガ」「ティーダ」「ティーダラティオ」「ラフェスタ」「ノート」を発表し、グローバルでの販売台数100万台増をぶち上げていた。
その先頭を快走していたのがムラーノである。「SHIFT_design」を掲げ、「既成の概念や古い価値観、常識を変革し、さらに新しい価値を提供する」という日産からのメッセージを託されたモデルだった。確かに、ムラーノは新しい価値観を提案していたクルマだったと思う。セダンやワゴン、ミニバンなどが主流だった時代に、クロスオーバーSUVという概念を広げようとした。プレミアムを強調したハリアーとは別の路線である。おおらかでアメリカンなライフスタイルを実現するモデルとして人気となったのだ。
当時はボディーサイズの大きさがアメリカを感じさせた。西海岸を流すにはちょうどいい大きさである。ただ、日本の交通事情では大きすぎると受け止められた。新型はもっと大きくなっている。全長4900mm、全幅1980mmは、都市部の路地や狭い駐車場ではもて余してしまうだろう。北米仕様のモデルをそのまま持ってきたのであり、日本の事情は考慮されていない。
実用性の面では厳しいところがあるが、それが逆に魅力となっているともいえる。日本ブランドだからといって、国産車だと考えてはいけない。これは日産がつくったアメリカ車の新しい形態、つまりネオアメ車なのだ。クライスラーもフォードもとっくに日本から撤退し、日本で買えるアメリカ車の選択肢は乏しい。ムラーノは大きなボディーに大排気量的な振る舞いを見せるエンジンを積み、おおらかな走りを楽しめる。メーターやディスプレイには英語が表示され、運転席にいればアメリカ気分が高まる。トランプ大統領の無茶振りは、日本ブランドのアメリカ車という新しいジャンルをもたらしたのだ。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=日産自動車)
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テスト車のデータ
日産ムラーノ プラチナム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4900×1980×1725mm
ホイールベース:2825mm
車重:1980kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:245PS(180kW)/5600rpm
最大トルク:352N・m(35.9kgf・m)/4400rpm
タイヤ:(前)255/50R21 106H M+S/(後)255/50R21 106H M+S(ブリヂストン・アレンザ スポーツA/S)
燃費:12.1km/リッター(WLTCモード)
価格:--円/テスト車=--円 ※日本で販売されるSVグレードは796万4000円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1万2963km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:128.3km
使用燃料:17.4リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:7.4km/リッター(満タン法)/7.4km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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