日産の最新ハイブリッド車に先行試乗

2010.08.03 自動車ニュース 竹下 元太郎

日産の先進技術を体験する(前編)「フーガ・ハイブリッド」はレクサスでもメルセデスでもない

市販前の最新技術に触れることができる日産恒例の「先進技術説明会」が2010年7月27日、今年も追浜工場に隣接したテスト施設「追浜グランドライブ」で開催された。
数々の新技術が公開されたほか、今秋発売予定の「フーガ・ハイブリッド」や、来年前半に欧州に投入される「マイクラ」(日本名:マーチ)の1.2リッター3気筒スーパーチャージャーエンジン搭載車が試乗車として用意されるなど、話題にあふれた内容だった。主だったところを2回に分けて報告する。

■今は技術の収穫期

日産は技術開発を「環境」と「安全」という現在の“花形”のほか、走りの性能を磨く「ダイナミックパフォーマンス」、機能性や快適性から質感までを含む「ライフ・オン・ボード」の4領域に分けて行っており、今回は全領域合わせて12以上の展示を行った。説明会のプログラムは半日ぎっしりと詰まっており、参加者はプレゼンテーションと試乗の行き来で休む間もないほど。かなりボリュームのある内容だった。

電気自動車の「リーフ」が発表されて、実はけっこう「マーチ」に新技術が搭載されていて、なにやら「技術の日産」が復活か、という気がしていたところだが、それは気のせいではなかったようだ。ルノーとのアライアンスによって経営不振から脱しつつあった2003年、日産は先行開発投資を倍増させ、2007年あたりからその“収穫期”に入った。その後も開発体制を強化し続け、今では毎年15〜20種類もの新技術を商品化するまでに戻ったそうである。

■「フーガ」のEVモードは100km/hまで行けそう

さて、まずは今回の目玉、「フーガ・ハイブリッド」に試乗してみる。このクルマに搭載されているハイブリッドシステムは日産が独自に開発したもので、1基のモーターを2つのクラッチが挟むユニークな構造をとる。具体的には、エンジンとモーターの間にあるクラッチNo.1(トルコンは廃止している)をつないだり、離したりすることで、エンジンの駆動力の制御を行う。モーターだけで走行するいわゆるEVモードも存在する。バッテリーはリチウムイオンで、リアアクスル上に搭載されている。

実際に走ると、EVモードで走っている時間の長さに驚かされる。スロットルペダルをゆっくり操作していると60km/hに達してもエンジンはかからず、まるで電気自動車を運転しているかのようだ。ペダルをちょっと多めに踏み込めばエンジンはすっと静かにかかるが、また定速走行に戻るとタコメーターの針はストンと0に落ちてしまう。条件さえ揃えば、何と約100km/hまでEVモードを維持できるという。一方で、フルスロットルにしたときの加速はかなり力強く、しかもトルコンではなく通常のクラッチが介在しているために、反応がダイレクトだ。

ところでこのクルマにはあとふたつ、新技術が搭載されている。ひとつは「電動油圧式電子制御パワーステアリング」と呼ばれるもの。通常の油圧式と違うところは、油圧を発生させるモーターを操舵(そうだ)時のみ作動させる点にあり、これにより10・15モードで約2%燃費を改善したという。操舵感はごく自然で、意地悪くステアリングを左右に素早く切り返しても不自然さを感じることはなかった。

さらにもうひとつ、モーターが倍力装置の役割を担い、直接ブレーキシリンダーを作動する「電動型制御ブレーキ」と呼ばれる新機軸が装着されている。その目的は、カックン・ブレーキになったり、空走感がつきまとったり、とかく不自然になりがちなハイブリッド車のブレーキフィールを改善しつつ、エネルギーの回生効果を最大限に得ること。実際、そういう手の込んだことをしているとは気付かないほど、ごく自然な制動に終始した。この「フーガ・ハイブリッド」、後発ながら(いや、後発だからこそ?)かなりの実力の持ち主と見た。

■マーチのスーパーチャージャーは実用域重視

続いて試したのは1.2リッター3気筒スーパーチャージャーエンジンを搭載する「マイクラ」(マーチ)である。すでに発売されている1.2リッターエンジンにルーツ式のスーパーチャージャーを装着しただけではない。ミラーサイクル化され、さらには直噴化されている。そしてスーパーチャージャーにはオンオフ・クラッチが付いていて、街中などの低速走行時には過給されないようにもなっている。つまりこのエンジンは、動力性能の改善だけを目的としたものではない。欧州ではすでに常識となりつつある小排気量過給ガソリンエンジンの一派と見ていいだろう。

昔、マーチにスーパーターボなんていうツインチャージャーのどう猛なクルマがあったが、ああいうものを期待していると現代の“スーチャー”はかなり大人しく思えるだろう。グワッとトルクが急激に高まるポイントはなく、加速感だけで見たらきわめて自然吸気的だ。スーパーチャージャーはじんわりと、すでに1000rpm台の前半から確実に効くようになっており、2500〜3000rpmでスロットル操作に対するツキがとても良くなる。日産は1.5リッター並みの動力性能というが、確かにそれくらいの感じ。クルマが自分から走りたがるようなところがあって、それが欧州の小型車的というか、とても健全な息吹に満ちたクルマだと感じた。

最後に、マーチの横にいる全長5.3m×全高1.9mの「インフィニティQX56」に搭載されている新技術を紹介したい。これはHBMC(ハイドローリック・ボディ・モーション・コントロール)と呼ばれるロール抑制技術で、サスペンションの油圧シリンダー同士を機械的に接続し、オイルの移動によって姿勢を安定させるというシンプルな構造をとるもの。スタビライザーで足まわりを固めると不整路での走破性が低下したり、乗り心地に悪影響が出たりするが、それを避けつつこの巨体をしつけたのがミソ。およそ2.5トンもあるクルマとは思えないほど、軽快にコーナーをクリアしてみせた。(後編につづく)

(文=竹下元太郎/写真=菊池貴之)


日産の最新ハイブリッド車に先行試乗の画像 拡大
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新開発の「PURE DRIVE HYBRID」。1モーター2クラッチ(インテリジェント デュアルクラッチコントロール)のパラレルハイブリッドシステム。
新開発の「PURE DRIVE HYBRID」。1モーター2クラッチ(インテリジェント デュアルクラッチコントロール)のパラレルハイブリッドシステム。 拡大

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新開発3気筒直噴スーパーチャージャーエンジン。
新開発3気筒直噴スーパーチャージャーエンジン。 拡大

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