日産マーチNISMO S(FF/5MT)
本格派の香り 2014.02.18 試乗記 「ジューク」と「フェアレディZ」に続き、NISMOの名を持つ「マーチ」が登場。モータースポーツで培われたノウハウが注がれたスーパーマーチの走りはいかに? 1.5リッター自然吸気エンジンに5MTを組み合わせた上級モデル「NISMO S」に試乗した。狙いは理解できるのだが……
1982年の誕生以来、日産の、いや日本を代表するベーシックカーとして親しまれてきた「マーチ」。けれども、それが4代目の現行モデルにバトンタッチをされた時、正直わが目を疑った。
ヨーロッパの競合車ひしめくパリやローマの街中でも、個性豊かなライバルに少しも見劣りをしない……どころか、それ以上の存在感の高さで異国の風景の中に溶け込んでいた3代目(旧モデル)のアピアランス。それは、「そんなモデルを生み出したのが日本のメーカーであることを誇りに感じる」と言っても過言ではない秀逸なデザインだった。
実際、「厳しい目を持つヨーロッパの人々にも、そのデザインは好評をもって受け入れられている」と耳にしていただけに、次期モデルも当然そうした特徴をより強化する方向で登場するのだろうと、(勝手に)期待を抱いていた。
ところが、いざモデルチェンジをしてみれば、そのルックスはいかにも新興国狙いに宗旨替えをしたとしか受け取れないもの。これまでの歴代モデルがフォーカスをした日本とヨーロッパに加え、新たに成長著しい新興国市場も獲得したい、という狙いどころはもちろん理解ができる。が、だからといって「ここまで時代をさかのぼらなくてもいいじゃないか!」というのが、自身の4代目マーチに対する第一印象であったのだ。
1.2と1.5の2グレード設定
マーチにNISMOバージョンが追加される、というニュースは、随分と前に耳にしたような気がする……と記憶をたどれば、実はこのモデルの発表は2013年の6月。どんな事情があったのかは不明だが、発表から半年を費やしてようやく発売に至ったのが、このNISMOバージョンということになる。
そんなこのモデルは2グレードの設定。“普通のマーチ”と同じ1.2リッターの3気筒エンジンをCVTと組み合わせた「NISMO」と、専用チューニングが施された1.5リッターの4気筒エンジンにMTを組み合わせた「NISMO S」というのがそれだ。
いかにも空力を意識したことを想像させる、専用デザインの前後バンパーやフロントグリル、サイドシルプロテクターやルーフスポイラー、さらには、ベースモデル比で2インチのプラスとなる205/45タイヤが組まれる16インチホイールなどは、どちらのグレードにも共通で採用されるアイテム。
一方で、専用エキゾーストシステムやコンピューター、さらには圧縮比にまで手が加えられた前述のエンジンに加え、やはり専用のブレーキシステムやサスペンション・メンバーステー/トンネルステーなどのボディー補強、そしてスポーツシートやアルミ製ペダルなどは、Sグレードのみに採用されるメニューだ。
要は、専用チューンの足まわりは両者に与えられるものの、それ以外は主に“コスメティック”部分にフォーカスをしたのがNISMOで、走りのブラッシュアップにもより熱心に取り組んだのがNISMO Sということ。
今回テストドライブに引っ張り出したのは、当然ながら後者となる。
トルクとレスポンスに富む1.5リッターユニット
3万6000円強のオプションカラーである「ブリリアントホワイトパール」のボディーに、前出のボディーキットを装着したテストカーが、“普通のマーチ”よりも1ランク立派に見えたのは間違いない。
日本メーカー発のコンパクトカーとして、世界に誇れる存在たるにはまだまだ注文を付けたい部分は残るが、それをNISMOの仕事に求めるのはお門違いだし、ここは次のフルチェンジまで待つしかないということだろう。
立派に見えるようになった一因として、16インチの“大径シューズ”で足元が逞(たくま)しくなった効果は大きい。
ただし、その副産物としてリアのドラムブレーキが目立つのはマイナス。あえてディスク化をしなくても十分な性能を持つという判断かもしれないし、実際にテストドライブでもその能力に不満を抱くことがなかったのは事実。
けれども、NISMOが手掛けたスポーツモデルとしては、やはりそのルックスが期待値に届いていないのも間違いない。「おしゃれは足元から」というけれど、こうしたモデルでも効果的に本物感を増してくれる、重要なポイントであるはずだ。
いざ走りだすと、アクセル開度の小さいゾーンを多用する街乗りシーンでは“どうということはなかった”心臓は、前が開けて右足により力を込められるシチュエーションになると、4000rpmから5000rpm付近でのトルク感が期待を明確に上回る。この点に、“専用チューン”の恩恵を実感する。単にパワフルというだけでなく、いかにもスポーツ派のドライバーが歓迎しそうな“盛り上がり感”を伴って回る点も、好感度が高い。
ボリュームはさほどでないものの、乾いたエキゾーストノートもなかなかの気分。何よりもこうした日常のシーンの中で“使いきれるパワー”を、シャープなレスポンスとともに引き出せるのが快感だ。
逆に、アクセルオフ時の回転落ちがやや鈍い点と、せっかく用意されたMTがギア比のステップが大きい5段仕様で、かつそのシフトフィールも秀逸とまではいいかねる仕上がりなのはちょっと残念。
それに加えて、素早いクラッチミートではわずかな滑りを感じ、駆動系のダイレクトな締結感に欠ける点にも注文を付けたい。
テスト車のオドメーターはこの時点でまだ2600kmほどだったから、この現象は個体の不具合というよりは、「クラッチのキャパシティーがちょっと足りない」ことに起因するものではないかと思われる。
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今や貴重な存在
首都高、東名、そして小田原厚木道路と、箱根に向かうまでの“リエゾン区間”ではさすがにちょっと揺すられ感が強いな、と思われたフットワークは、ワインディングロードに差し掛かると、なるほどイイ感じだった。
4輪が生み出す接地感は十分に“スポーツ”を名乗れるレベルで、ベースモデルでは及びもつかない“高Gの走り”もしっかり堪能できる。もっとも、調子に乗ってどんどんとペースを上げていくと、ある時点で意外にも明確なタックイン現象が発生したりと、ここまでドライグリップ重視の硬派なスポーツタイヤを履くのは「ちょっとやり過ぎかな?」と思える場面も皆無ではなかった。
が、考えてみれば、これは必ずしも万人ではなく、ある程度限られたユーザーをターゲットとしたモデル。となれば、こうした方向のチューニングは、むしろNISMOというタイトルが与えられたコンプリートカーに多くの人が期待をする、“適度な締まり具合”と表現してもよさそう、という解釈もできる。
上部中央にセンターマーカーが組み込まれたレザーとアルカンターラのコンビネーションによるステアリングホイールを通じて伝えられる路面とのコンタクト感も、ベース車両の不甲斐(ふがい)なさからすればよく頑張った仕上がり。
ただし、前述のように、制動能力そのものに不満は感じなかったものの、そのブレーキは専用システムをうたう割にはペダルタッチがややフワフワと、いわゆるちょっとスポンジーな感触だったのが惜しまれる。ブレーキは、エンジン以上に日常でそのフィーリングを味わう部分。それだけに、ここがカチッとより硬質なタッチになっただけで、クルマ全体の質感がより高く受け取れるはずだ。
……と、なんだかんだと注文は付けても、200万円をはるかに下回る価格でこれだけ楽しめるとなれば、それはやはり貴重な存在。単に、上級モデルから拝借をしたパワフルな心臓を搭載した付け焼き刃的なスポーティーモデルなどとは異なる、本格スポーツの香りが漂う一台だ。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
日産マーチNISMO S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3870×1690×1495mm
ホイールベース:2450mm
車重:1010kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:116ps(85kW)/6000rpm
最大トルク:15.9kgm(156Nm)/3600rpm
タイヤ:(前)205/45R16 87V/(後)205/45R16 87V(ブリヂストン・ポテンザRE-11)
燃費:--km/リッター
価格:177万300円/テスト車=180万7050円
オプション装備:特別塗装色ブリリアントホワイトパール(3万6750円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2407km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:386.4km
使用燃料:32.1リッター
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)/13.0km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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