日産マーチ15SR-A(FF/CVT)【試乗記】
時折の気持ちよさのために 2005.12.29 試乗記 日産マーチ15SR-A(FF/CVT) ……202万1250円 日産マーチをベースにしたホットハッチとしては「12SR」があったが、CVT版の「15SR-A」が加わった。ラクチンなバージョンに操る楽しさは継承されているのか、試乗して検証した。こっそり作っている!?
小さいボディにアツいエンジンを持ち、絶対的なスピードはたいしたことなくても、この上ない運転の喜びを与えてくれるクルマ。いわゆるホットハッチと呼ばれるジャンルには、今も根強いファンがいる。
「モダンリビング」の旗を高く掲げ、今やすっかりオシャレ派に転向したかに見える日産だが、実は密かにワルの法灯を守り続けている一派があるらしい。クルマ好きにアピールするモデルをこっそり作っているのだ。平和で穏健なコンパクトカー「マーチ」を使ってこしらえた「12SR」は、エンジンをガンガン回して走る楽しみを存分に味あわせてくれる。
すでに生産が終了しているが、「ニスモ」からも「S-tuneコンプリート」と名付けられたチューンド・マーチが発売されていた。ホットなバージョンに仕立て上げるのに、なかなか優れたベースカーであるらしい。
しかし、いかんせんMTを駆使してワインディングロードを駆け抜けるのは、もはやメジャーな行為とはいえない。ホットハッチの雰囲気を保ちながら、ATでラクチンに運転できるモデルを欲しがる人もいる。「15SR-A」は、たぶんそんな需要に応えようとしているのだ。
他グレードと同じエンジン
SRというのはSportとRevolutionを意味し、日産のカスタマイズカーを手がけるオーテックがチューンを施している。12SRが専用にチューンされたエンジンを搭載しているのに対し、15SR-Aに与えられるのは他のグレードにも使われる1.5リッターエンジンだ。
全高がノーマルモデルより20ミリ低められ、ルーフスポイラー、フロントスポイラーなどを装備して空力性能をアップさせている。また、フロントスタビライザー、ショックアブソーバーなどの足まわりの強化、テールクロスバーの採用などによるボディ剛性の強化、15インチの専用アルミホイールとポテンザRE01R(185/55R15)によるグリップと操縦安定性の向上など、改造は多岐にわたる。
室内を見ると、専用のブラックメーターがスポーティな気分をもり立てようとしている。シートももちろん専用で、サポート性のいいバケットタイプのものだ。全体的に黒とグレーでまとめられ、落ち着いた雰囲気となっている。初代12SRのブラック&オレンジの派手な装いとは正反対だから、気恥ずかしい思いを持たずに済む。足元を見ると、ブレーキとアクセルは、R34GTRと同じアルミペダルだ。
少々おとなしい振る舞い
1.5リッターエンジンは、この8月のマイナーチェンジで新たに採用されたものだ。以前の1.4リッターよりも11ps出力をアップさせていて、それなりに力強いから特に不満はない。CVTによって滑らかにスピードが上がっていく。それだけであり、12SRのようにエンジンの能力を目一杯引き出すことに快感を覚えるような場面がないのは当然のことだ。「スイフトスポーツ」のAT版と比べても、少々おとなしい振る舞いに感じられた。
このモデルの価値は、シフトに煩わされずにコーナーでのステアリング操作を楽しみたい人のためのものだろう。さすがにノーマルモデルとは一線を画した仕上がりなのだ。コーナリングで硬質でしっかりしたステアリングフィールが得られるから、ワインディングロードでの安心感はこの上のないものだ。ロールは抑えられているものの、サスペンションに不快な硬さはなく、確乎とした接地感がある。街中や高速道路でも気分よくドライブできるセッティングである。
だから、15SR-Aはホットハッチという名に憧れる向きには、少々物足りなく感じられるかもしれない。マーチは好きだけど、他人と同じというのは気に入らない、という人にはうまくハマるのではないか。汎用エンジンなんて、という声は気にする必要はないだろう。失うものはなく、時折の気持ちよさのための投資だと考えればいいのだ。
(文=NAVI鈴木真人/写真=峰昌宏/2005年12月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。