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第877回:大矢アキオ ロレンツォ視点のパリモーターショー2026 「ケーキを食べればいいじゃない」の革命前夜か

2026.10.22 エディターから一言 大矢 アキオ
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2グループによるコンセプトカー攻勢

第91回パリモーターショーが2026年10月12日から18日まで市内のポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場で開催された。

振り返れば、新型コロナウイルス規制後の2022年における参加ブランドはわずか15だった。ほぼ同時期にジュネーブモーターショーが連続して中止されたこともあり、「終わりの始まり」の雰囲気が漂っていたものだ。

対して2026年はBMWグループ、日産自動車、上汽MGなどが不参加を決め、トヨタも独自ブース出展を見送ったものの、メーカー数では60以上、出展社ベースでは100を超えた。会期中の入場者数はコロナ後の開催としては過去最多の51万8372人を記録した。

フランスにゆかりのあるブランドを擁する2グループは、とりわけ気合を入れていた。ステランティスは会場内最大規模の5340平方メートルを占有し、プジョー、シトロエンなど8ブランドから9台のコンセプトカーを出展。ルノーグループも3ブランドから計6台のコンセプトカーと量産車を世界初公開した。

会場で特に脚光を浴びていたのは「シトロエン2CV」のコンセプトモデルだった。欧州の新バッテリー電気自動車規格「Eカー」に準拠したもので、全長3.76mは第2次大戦後におけるフランスの代表的大衆車であったオリジナルより短い。価格は1万5000ユーロ(約265万円)を目標としている。筆者が付記すれば、現行の「フィアット・パンダ(パンディーナ)」のイタリア国内での販売価格とほぼ同じである。シトロエンのブースで多くの人々が同車を取り囲む様子は、1948年にグラン・パレで開催されたパリモーターショーにおけるオリジナル発表時の歴史写真を彷彿(ほうふつ)とさせた。

シトロエンはBEVとして量産予定の「2CVコンセプト」を公開した。左はステランティスのアントニオ・フィローザCEO。右はシトロエンのグザヴィエ・シャルドンCEO。なお、本記事に収めきれない写真はフォトギャラリー(参照拡大)に譲った。
シトロエンはBEVとして量産予定の「2CVコンセプト」を公開した。左はステランティスのアントニオ・フィローザCEO。右はシトロエンのグザヴィエ・シャルドンCEO。なお、本記事に収めきれない写真はフォトギャラリー(参照)に譲った。
「プジョーE-T16コンセプト」は、1985年および1986年のWRCチャンピオン「205 T16」に着想を得たBEV。発表された最高出力は816HPで、ブランド史上最強という。
「プジョーE-T16コンセプト」は、1985年および1986年のWRCチャンピオン「205 T16」に着想を得たBEV。発表された最高出力は816HPで、ブランド史上最強という。拡大
「プジョーRCZビジョン」は「RCZ」(2009年~2015年)の後継車としての公開。将来の量産時はステランティスの「STLA Oneプラットフォーム」を用いたBEVとなる。
「プジョーRCZビジョン」は「RCZ」(2009年~2015年)の後継車としての公開。将来の量産時はステランティスの「STLA Oneプラットフォーム」を用いたBEVとなる。拡大
「シトロエン2CVコンセプト」。「単なるリバイバルではなく、オリジナルの2CVがもっていた手ごろさと軽さ、実用性、シンプルさをBEV時代に再構築した」とブランドは説明する。
「シトロエン2CVコンセプト」。「単なるリバイバルではなく、オリジナルの2CVがもっていた手ごろさと軽さ、実用性、シンプルさをBEV時代に再構築した」とブランドは説明する。拡大
シトロエンは「2CV」と同時に、往年の商用車「2CVフルゴネット」を再解釈したコンセプトカーも展示した。
シトロエンは「2CV」と同時に、往年の商用車「2CVフルゴネット」を再解釈したコンセプトカーも展示した。拡大

異なっていたプレスデーと一般公開日の光景

欧州の主要自動車メディアはパリモーターショーを華やかに報じた。しかし、フランスの一般メディアによる報道は、極めて限定的だったといわざるを得ない。

例えば一般公開初日の10月13日、フランス公営放送のテレビモーニングショー『テレマタン』で採り上げられていたのは、高校生による学校施設改善要求デモ、サイバー攻撃でスーパーマーケットの冷蔵庫の庫内が40℃(現地報道による。温度については媒体により諸説あり)にまで上昇し、大量の食品廃棄が発生した事件、軽油1リッターが2.4ユーロ(約430円)台にまで高騰、さらに野菜が値上がりしてジャガイモでさえリュクス、つまり高級品に……といったニュースだった。「クルマどころではない」という雰囲気が横溢していた。

その一般公開の初日午前、再び会場に赴いてみた。幸い大盛況であったものの、あることに気がついた。いずれも“バリュー・フォー・マネーブランド”であるルノーグループのダチアや、フォルクスワーゲングループのシュコダにおびただしい数の来場者が訪れていたのだ。とくにダチアのバッテリー電気自動車(BEV)である2代目「スプリング」は、多くの関心を呼んでいた。

今回20ブランドが参加した中国勢も大手を中心に人気で、特にBYDとシャオペンは、一時ブースに近寄るのが難しいほどの人混みができていた。来場していたエンジニアリング専門学校で学ぶ若者たちに話を聞くと、「先進装備に関していえば、もはやアジア系のメーカーの水準は、欧州ブランドには追従できない。中国ブランドだからといって抵抗はない」と話した。念のため記しておくと、彼らが関心を示す中国系の多くは大衆車ではない。4万ユーロを超えるプレミアムSUVだ。

いずれのブランドも、前日の報道関係者向けの公開日(プレスデー)には欧州メディアの注目度が限定的だったのとは極めて対照的な光景であった。

報道関係者向け公開日にステランティスは、出資する中国リープモーター製新型車をスペインで製造開始したこと、「ランチア・ガンマ」の生産拠点をイタリアのメルフィ工場としたこと、そして前述のシトロエン2CVを欧州内でつくる計画を明らかにした。ルノーはダチアの2代目スプリングの生産拠点を先代の中国からスロヴェニアに移したことを強調した。

そうした現状を背景に、フランスの工場従業員たちの不安は消えない。一般公開初日のゲート外では、フランス労働総同盟(CGT)傘下の金属労働者連盟に所属する自動車工場の従業員たちが声を上げていた。彼らが配布するビラには「大企業の富が従業員に分配されていない」「自動車業界にリサイクル産業を築き、雇用を守れ」といった訴えが記されていた。

DSオートモビルの「F3VER(フィーヴァー)」。部品点数を削減しながら空力、品質、デザイン性を向上。同時に、次世代BEVとして優れた航続距離と実用性を模索している。
DSオートモビルの「F3VER(フィーヴァー)」。部品点数を削減しながら空力、品質、デザイン性を向上。同時に、次世代BEVとして優れた航続距離と実用性を模索している。拡大
「アルファ・ロメオ・クォーレロッソ」コンセプト。2.9リッターV6フルハイブリッドのQ4(AWD)を想定するとともに、今後のマルチエナジーモデルの方向性を提示している。
「アルファ・ロメオ・クォーレロッソ」コンセプト。2.9リッターV6フルハイブリッドのQ4(AWD)を想定するとともに、今後のマルチエナジーモデルの方向性を提示している。拡大
「フィアット・マルチプレイ(中央)」。MPVの広さ、SUVのキャラクター、ピックアップの多用途性を一台に凝縮したコンセプトカー。後部モジュールをスライドさせることで、6人乗りの家族車から4人乗りトラックへと変化する。
「フィアット・マルチプレイ(中央)」。MPVの広さ、SUVのキャラクター、ピックアップの多用途性を一台に凝縮したコンセプトカー。後部モジュールをスライドさせることで、6人乗りの家族車から4人乗りトラックへと変化する。拡大
「フィアット・ムルティプリーノ」。70年前の1956年に誕生した「600ムルティプラ」を彷彿とさせるコンセプトカー。用途に応じて柔軟に活用できる空間設計を模索している。
「フィアット・ムルティプリーノ」。70年前の1956年に誕生した「600ムルティプラ」を彷彿とさせるコンセプトカー。用途に応じて柔軟に活用できる空間設計を模索している。拡大
「フィアット・グリズリー ファストバック」。詳細は「マッキナあらモーダ!」の第971回を参照されたし(関連記事拡大)。
「フィアット・グリズリー ファストバック」。詳細は「マッキナあらモーダ!」の第971回を参照されたし(関連記事)。
1976年に登場した高級モデルの名称を復活させた「ランチア・ガンマ」。メーカーはセグメント中最良の空気抵抗係数、Cd=0.25をうたう。
1976年に登場した高級モデルの名称を復活させた「ランチア・ガンマ」。メーカーはセグメント中最良の空気抵抗係数、Cd=0.25をうたう。拡大
ステランティスが出資する中国リープモーターのコンパクトクロスオーバーBEV「B03X」。同ブランドの「B10」はスペインで生産が開始されている。
ステランティスが出資する中国リープモーターのコンパクトクロスオーバーBEV「B03X」。同ブランドの「B10」はスペインで生産が開始されている。拡大

火種が見えている

もっとも、欧州メーカーの幹部の多くは他のモーターショー同様、報道関係者向け公開日の記者発表やフランス大統領の訪問対応、メディアの取材対応を終えると、早々に会場を後にした。一般公開日ならではのこうした光景を、彼らが目にすることはなかっただろう。

18世紀末、民衆が飢えていると聞いた王妃マリー・アントワネットが「パンがなければケーキ(ブリオッシュ)を食べればいいじゃない」と言い放った、という逸話は有名だ。実際には、これはジャン=ジャック・ルソーの自伝『告白』に登場する「ある高貴な姫君」の言葉であり、彼女自身の発言ではないとされる。

しかしながら、華やかなコンセプトカーを並べるレガシーブランドたちは「ケーキを食べればいいじゃない」と言っているように感じる。いっぽう上述のように、一般ユーザーたちは、より安価なサブブランドやハイテク感覚あふれる新興中国メーカーという、新たな選択肢に大きな関心を示しているのに、だ。参考までに中国メーカーは2026年8月、EU圏に英国、アイスランド、ノルウェー、スイスを加えた登録台数における占有率で過去最高の11.7%を記録した(データ出典:データフォース)。

業界全体を揺るがす革命の火種が、すでにくすぶっているのではないか。そのような危機感がふと胸をよぎった、2026年のパリであった。

(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

「ルノー8ゴルディーニ」。名チューナー、アメデー・ゴルディーニによる1964年の伝説的モデルを最高出力200kW(272PS)のBEVとして再解釈したワンオフモデル。
「ルノー8ゴルディーニ」。名チューナー、アメデー・ゴルディーニによる1964年の伝説的モデルを最高出力200kW(272PS)のBEVとして再解釈したワンオフモデル。拡大
「ルノーE-SPACEコンセプト」。ミニバンの先駆けである「エスパス」(1984年)を電動車用プラットフォーム上に再定義したもの。
「ルノーE-SPACEコンセプト」。ミニバンの先駆けである「エスパス」(1984年)を電動車用プラットフォーム上に再定義したもの。拡大
「アルピーヌA310ヴィジョン」。1971年の「A310」にインスピレーションを得ながら、新プラットフォーム「APP」上に、未来の姿を提示した。
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「ダチア」のBEV「スプリング」は2代目に進化。中国製だった初代が、欧州連合が定めた関税の影響を避けられなかったことを考慮。今回はスロヴェニア製となった。壇上にいるのはデザイン担当副社長のダヴィッド・デュラン氏。
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フォルクスワーゲン(VW)グループのチェコ法人であるシュコダは7人乗り大型BEV「ピーク」を一般公開した。VWの電動車用プラットフォーム「MEB」の拡張版「MEB+」を採用している。
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大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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