第12戦ハンガリーGP「セーフティカーがもたらした番狂わせ」【F1 2010 続報】
2010.08.02 自動車ニュース【F1 2010 続報】第12戦ハンガリーGP「セーフティカーがもたらした番狂わせ」
2010年8月1日、ハンガリーのハンガロリンク・サーキットで行われたF1世界選手権第12戦ハンガリーGP。レッドブルがライバルより1秒以上も速い、というあからさまな力量の差は、しかしこの最速マシンの1-2フィニッシュにつながらなかった。セーフティカーラン中の混乱と戦略上の賭け、そして追い抜き困難なコース特性が、レースを意外性に富んだスリリングな展開へと誘った。
■25回目、ハンガリーGPの意外性
まだ“鉄のカーテン”の向こう側の国だったハンガリーに、西側ヨーロッパを象徴するようなF1がやってきたのは1986年、鈴鹿でGPが初開催される1年前のこと。以来、4kmちょっとの短い、ツイスティな、オーバーテイクの極めて難しいハンガロリンクでのGPは(意外にも)毎年欠かさず開催され、今年25回目の節目を迎えた。
この記念すべきレースは、2010年シーズンを戦うドライバーやチームにとって、いい結果を残しておきたい1戦でもあった。8月のF1にサマーバケーションが導入されて久しいが、今年もハンガリーGPと次の第13戦ベルギーGPの間にはおよそ1カ月の“お休み”が設けられた。このつかの間の休息を、どのような順位・関係で迎えるかは、今後の心理戦にも大きく影響する。弾みをつけて、激戦が予想される残り7戦に備えたい。
そういった意味で、圧倒的な速さで他を寄せ付けなかったレッドブルは、シーズン後半戦に大きな望みをつなげる結果を残した。
トップ10グリッドを決める予選Q3、セバスチャン・ベッテルはコースレコードとなる1分18秒773で、4戦連続、今季7回目のポールポジションを獲得。僚友マーク・ウェバーは約0.4秒差で2位、そして前戦ドイツGPウィナー、フェラーリのフェルナンド・アロンソは1.2秒以上も後方の3位となった。
とにかくケタ違いに速いレッドブルは、当然今年3度目の1-2を狙うつもりだっただろう。だがハンガロリンクのスターティンググリッドは、汚れのひどい偶数が不利。しかも抜けないコース特性から、予選3位のアロンソにも十分勝算があった。
過去24回の結果をひも解けば、ポールシッターが勝利したのは11回しかない。意外性に富んだレース展開こそ、ロングランを続けるハンガリーGPの魅力なのかもしれない。そして今年も、その番狂わせが起きた。
■ベッテル独走の序盤
今回のレースは、3つのフェーズに分けることができるだろう。
まず最初のフェーズはレース序盤だ。好スタートを決めたのは、やはりアロンソ。早々に右前方のウェバーを抜き、1コーナーではベッテルに並びかけるほどまで迫った。結局ベッテルが首位を守り、2位にアロンソ、3位ウェバー、フェリッペ・マッサが順位キープの4位。7番グリッドのルーキー、ビタリー・ペトロフが、ルイス・ハミルトン、ニコ・ロズベルグをオーバーテイクし5位まであがってきていた。
そこからしばらくは、ファステストラップ連発でベッテルが逃げる展開。1周につき1秒ずつ引き離すという異次元のペースで、2位アロンソに4周で3.9秒、5周で5秒、6周6.3秒とギャップを拡大、13周を数える頃には10秒以上もの差がついていた。
いっぽう2位から3位に落ちたウェバーは、前方のフェラーリより1秒速いマシンを駆るも、アロンソの後方1秒で鼻面を抑えられベッテルを追えない。この時点でウェバーの望みは、アロンソをピットストップのタイミングで抜き2位を目指すことに絞られた感があった。
70周のレースの15周目、フォースインディアのマシンのパーツがコース真ん中に落ちてしまったことで、セーフティカーが導入される。ここから、流れが大きく変わり勝敗の行方が分からなくなる第2フェーズがはじまった。
トップのベッテル、2位アロンソら多くが続々とピットへと駆け込むなか、ウェバー、ルーベンス・バリケロ、ヤルノ・トゥルーリはピットに入らない作戦をとった。
徐行走行中にトップに立ったウェバーは、前方がクリアになった再スタート後のダッシュにかけ、目の上のタンコブだったアロンソ、そしてあわよくばチームメイトのベッテルを攻略することを目指したのだ。
■セーフティカーで勝敗の行方が分からなくなる
18周目にレース再開。これから最低1回はピットでタイヤを替えなければならないトップのウェバーが、既にタイヤを交換し止まる必要のない3位アロンソを抜くには、20秒前後のマージンを築かなければならなかった。この数字は、この日のレッドブルの力をもってしたら十分現実的だったが、目に見えない敵との攻防戦は戦況の輪郭を不確かなものとし、見るものを引き込んでいった。
ウェバーは最速タイムを立て続けに更新し、22周で2位ベッテルを6.8秒、3位アロンソを10.1秒も突き放した。そしてこの日の明暗を決定付ける出来事が24、25周目に続けて起きた。
24周目、4位まで順位をあげていたハミルトンのマクラーレンがコース脇でストップ。ギアボックストラブルで今季初のリタイアをきっし、5月のモナコGP以来となる6戦連続入賞も途絶えた。ポイントリーダーが無得点に終わったことで、チャンピオンシップ1位の座が他者に移る可能性が大きくなった。そして25周目、ベッテルが審議対象となっていることが発表された。セーフティカーラン中、各車は約10台分の車間を保て、というレギュレーションがあるのだが、2番手のベッテルは1位ウェバーのあまりにも後方を走ってしまったため、29周目、ベッテルにドライブスルーペナルティが発令された。
その規則を知らなかったベッテルは、32周目、憤まんやるかたないといったジェスチャーでピットを通り抜け、3位に後退。今度はベッテルがアロンソの後方を走ることとなった。
■最後はウェバー圧勝、ポイントリーダーに
この時点で、ピットに入らなければならない1位ウェバー、ゴールまで走り続けられる2位アロンソ双方に勝機はあったが、レースはその後、爆発的な走りによりウェバー圧勝が決定的となる最後のフェーズに突入する。
32周目にウェバーとアロンソの間にあった14.3秒のギャップは、ウェバーがファステストラップを連発し、36周目に18.6秒、そして38周目にはほぼ安全圏の20.6秒まで拡大。43周を終えて最初で最後のピット作業を済ませると、ウェバーはアロンソの4秒前方でコースに復帰し、雌雄は決した。
いっぽう3位ベッテルは、アロンソを1秒以内にとらえるも、ハンガロリンクの罠にはまっていた。時々コースを飛び出しては戻り、なんとか差を詰めるが、抜くには至らず。結局ポールポジションスタートながら3位でレースを終えた。
ハミルトンが今年2度目のノーポイントとなったことで、これまで最多の4勝を記録しているウェバーがチャンピオンシップを再びリードする展開となった。2位にドロップしたハミルトンはわずかながら4点の差をつけられたが、レッドブルの速さを前にして、今後この強敵を敗るのは至難の業であり、数字以上に手痛い無得点となった。
手痛いといえばベッテルも同様である。ウェバーと同点で迎えた今回、序盤の様子から楽に勝てたであろう戦いで優勝=25点を逃し、チームメイトに10点先行された。
もっとも得をしたのは、ウィナーのウェバーよりも、むしろアロンソといったほうがいいかもしれない。1秒速いレッドブルの、少なくとも1台より前でゴールできたのだから、御の字であろう。
速さを十分に備えたレッドブルがドライバーズ、コンストラクターズ両選手権でトップに立った今、マクラーレンとフェラーリの巻き返しに期待がかかる。次のベルギーGP決勝は8月29日。マシン性能に加えドライバーの力量が試されるスパ・フランコルシャンが舞台である。
(文=bg)
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