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【スペック】全長×全幅×全高=4870×1850×1470mm/ホイールベース=2880mm/車重=1870kg/駆動方式=FR/3リッターV6DOHC24バルブ(273ps/7000rpm、30.8kgm/5700rpm)/価格=575万4000円(テスト車=同じ)

キャデラックCTSスポーツワゴン 3.0プレミアム(FR/6AT)【試乗速報】

生かされた過去の資産 2010.02.22 試乗記 大川 悠 キャデラックCTSスポーツワゴン 3.0プレミアム(FR/6AT)【試乗速報】
……575万4000円

「キャデラックCTSスポーツワゴン」が日本上陸。長年ワゴンを愛用するリポーターが感じた、その出来映えは?
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商品力を増した

「SUVユーザーが高級ワゴンに戻ってくることを狙った」、東京お台場で開かれた「キャデラックCTSスポーツワゴン」の試乗会でこう聞いたとき、「それは賢明な戦略だ」と共感した。リポーター自身、どうして都会で今なおSUVがあれだけ走っているのか理解できないからだ。
特に女性が「ポルシェ・カイエン」や「ランドローバー・レンジローバー」「BMW X5」などに乗っている姿がとても多いが、見晴らしがいいのと他のクルマが譲ってくれることぐらいしか、都会で乗っていていいことはないように思える。

大きく邪魔だし、乗り降りも面倒、低い屋根の下には置けないし、大体燃費も悪ければ乗り心地も快適ではない。それなら適度なサイズのワゴンで充分だというのが数年来の持論だが、CTSワゴンの説明も「セダンと同サイズでセダン以上の機能を追求しつつ、燃費、サイズ、乗り心地の不満からSUVから離れてきたユーザーを狙った」となっている。

まあキャデラックは、「SRX」や「エスカレード」というSUVをちゃんと揃えている上での戦略だということは百も承知だが、それにしてもワゴンの復権は、“中型ワゴンこそ生活の友”として、長年私用車に選んでいるリポーターとしては歓迎である。

中型メルセデスやBMW、そしてレクサスらに対抗して2001年から送り込まれたミドサイズでスポーティなキャデラック、「CTS」は、最初こそ意余って力足らずというか、懸命に足腰を鍛えたのに全体の仕上げに緻密性を欠いたようなところがあったが、年々改良され、洗練されてきている。特に2007年以降の第2世代になると、ヨーロッパや日本のライバルに対抗できるだけの能力と、キャデラック特有の華やかさがうまくミックスされてきて商品力を増した。なかでもスモールブロック・シボレーV8を載せた、高性能版「CTS-V」などは、下手なヨーロッパ製ハイパワーサルーンよりも、遙かに魅力に富んでいる。

そこに登場したのがスポーツワゴンである。狙いは3つ。サイズはセダンを絶対に上回らないこと、セダン以上に個性的で斬新なルックスを与えること、そしてセダンですでに定評を得ているバランスの取れたダイナミック性能を維持することだ。だからこそ敢えて「スポーツワゴン」の名前が与えられたこのクルマ、短時間ながらもつき合った結果、個人的にはもっとも好ましいCTSだと思った。

 
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ドアハンドル、センターコンソール、トリムパネルラインなどが光る「LEDアンビエントライティング」は、「プレミアム」グレードならではの装備。
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バランスがいい

久しぶりにCTSに乗り込み、まず驚いたのは、室内の作りが格段に洗練され、緻密、上質になったことだ。初期モデルは一昔前の家電製品のようなプラスチックだらけだったし、ベンチレーターのフィンなんか、仕上げが悪くて指先を切られそうな感じがしたものだ。造形も大味だった。現行モデルでは、メーター類やコンソールの造形はより立体的になって、メーターは見やすくなったし、ウッドやカーボンファイバー風プラスチックを多用しながらも、その素材の表面仕上げや細部のトリム成形は格段にきれいになっている。多分、レクサスやBMW、アウディなどを相当に研究したのだろう。

シートも出来が良い。コルベットのそれとイメージを合わせたスポーティなデザインを採用した本革のシートは、見かけだけでなく身体のサポートもとてもいい。いかにもスポーティサルーンにふさわしく身体の上下をピシッと抑えるし、一方で適度な弾力が気持ちよい。体格を問わずにフィットさせられるスポーツシートの好例である。

このサポートの良さはリアシートでも同じで、下半身をしっかり支えるし、ワゴンのリアシートでしばしば見られる、バックレストが硬くて平板な感じもない。サポートを助けるためにクッションは落ち込んでいるが、それによってヘッドルームを確保しているのも事実である。

まさにメーカーが言うように、スポーツワゴンの世界は室内でも巧みに演出されているが、その分視界は良くない。最近のデザイン傾向に従って高い位置を走るベルトラインは横の窓を薄くし、乗員は深く沈み込んでいるような感じになる。ワゴンとしてのスタイルと剛性とを両立させようとした最後部のピラーは非常に太く、特に内部からは後方視界がかなり遮られる。さらに一番気になったのは、傾斜が強くしかも太いAピラーが、右コーナーでかなり邪魔になることだ。

だが、路上に出た瞬間に、その視界の悪さを代償にこのクルマが何を得たのか即座に理解した。高いボディ剛性と、それがもたらす優れた乗り心地である。

お台場近辺も、古くから開発されている有明周辺に行くと路面がかなり荒れている。そういうところでこのスポーツワゴンは最良の面を見せた。高い剛性を持ったボディは路面の変化を一切伝えず、その一方でトラベルが長いサスペンションは、ゆっくりとした周期で上下しながらもソフトでリニアな感覚を保つように動いていることが良く分かる。

前後で50:50に近い重量配分もいいのだろう。特にドライバーを中心に、ボディ全体の無用な動きが最小限に抑えられている感じがいいし、そのバランスが取れた挙動は、ちょうど望むだけの重さと応答性を持ったステアリングを通じてもつかみ取ることができる。

一方で、新しい直噴の3リッターV6はかなり元気だった。特に中間域から急に高まってくるサウンドは、ちょっと演出過大に思えたが、トルクが均一にいつでもピックアップできるのが好ましい。そのトルクを6段ATがうまくシームレスに繋げてくれる。この上に3.6リッターモデルもあるが、個人的にはこのクルマにはこれで充分だと思う。

全長、全高、全幅ともに「CTSセダン」と全く変わらない。
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エンジンは新開発となる、直噴の3リッターV6。このほか、3.6リッターもラインナップする。
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復活へのさらなる一歩

かつて、50年代から60年代は、アメリカ車でワゴンは花形だったのに、最近では随分減ってしまってきている。そんな意味で久々にGMが挑戦した高級ワゴンの作りには興味があったが、これもかなり緻密に設計されていた。

まずいいのは開口したテールゲートの高さがメモリー機能で調整できることだ。ドライバー側ドア内側のスイッチで設定できるこれは、屋根が低い車庫や、背の低い人間にとってとても便利である。ただし電動クローズの安全性を確かめようと、途中で意図的に止めようとテストした時に、予想外に強い力を要求するのが気になった。

後端のシルが高いがゆえに重い荷物を入れにくく、同時に荷室がやや浅いのが難点だが、一度荷物を載せてしまえば、比較的スクエアに構成されたラゲッジルームは使い勝手は良い。リアシートの折り畳みは軽い(ただし荷物カバーのシートはやや安っぽいし、それを収めるケースはバックレストと一体になっていないから、外すのに手間と力が要る)。荷室内の仕上げもきれいで上質。左右のレールにネットなどの調整用リンクが付いているあたり、多分以前同じグループにあった「サーブ9-5ワゴン」あたりから学んだものだろう。

そう考えてみると、経営不振ゆえに手放してしまったヨーロッパのGM系メーカーから、ワゴンボディ作りをはじめとする様々なノウハウをGMは得ていたということを改めて感じたものである。その過去の資産がこのクルマにも生かされているのだろう。

2009年の経営破綻によって日本におけるキャデラック販売も去年は大きな影響を受けた。GMジャパンは2010年を復活の年と考え、CTSの販売は2008年並みの500台を目標としているそうだが、そのうちワゴンは3割ぐらいを期待しているという。さらには年内には「CTSクーペ」も輸入される予定だ。

(文=大川悠/写真=荒川正幸)

3リッターモデルは、18インチのオールシーズンタイヤが標準となる。
3リッターモデルは、18インチのオールシーズンタイヤが標準となる。 拡大
荷室はフル乗車時で720リッター、シートを倒すと最大1670リッターまで拡大する。
荷室はフル乗車時で720リッター、シートを倒すと最大1670リッターまで拡大する。 拡大
 
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大川 悠

大川 悠

1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。

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