キャデラックCTSスポーツワゴン 3.6プレミアム(FR/6AT)【ブリーフテスト】
キャデラックCTSスポーツワゴン 3.6プレミアム(FR/6AT) 2010.05.07 試乗記 ……691万2000円総合評価……★★★★
「キャデラックCTS」に加わった、ワゴンモデルに試乗。「スポーツワゴン」を名乗る、その走りと使い勝手をリポートする。
個性的なスタイリングが売り
アメリカでのステーションワゴンブームはとうの昔に終息を迎え、かつてそれを支持した人々の興味はSUVへとスイッチ−−そんな“定説”に基づいた認識をなまじ身に付けていただけに、「CTSにワゴンが登場」の報にはちょっと驚いた。
もっとも、思えば昨今のキャデラックブランドは以前とは異なって、米国内だけではなく、国外の市場も重要なターゲットとしていることが明らか。だからこそ、今このタイミングでワゴンを復活させたのだろう、と思いきや、どうやらその解釈も正しくないようだ。なぜならば、この「CTSスポーツワゴン」は「アメリカ国内こそを最大市場と見込んで開発されたモデル」と言うからだ。
そうはいっても、やはりステーションワゴンに対するアメリカの人々の興味は、基本的には今でもさほど強いとは言えないはず。それが証拠に、メルセデスはアメリカでは「Cクラス」や「Eクラス」のワゴンをリリースしていないし、スバルは、かの地での新型「レガシィ」を、セダンとアウトバックのみに限定している。そうした中でワゴンをリリースするにあたっては、当然強い独創性をベースとした魅力が要求されるはず。というわけで、”スポーツワゴン”をうたうこのモデルは、なるほど、その相当に個性的なスタイリングが、まずは売り物になっているのだ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
CTSファミリーに新たに加わった「CTSスポーツワゴン」は、本国では2008年8月にデビュー、日本では2010年2月に発売された。「CTSセダン」同様、エッジの効いたシルエットに加え、ワゴン独自の縦型リアコンビランプが特徴である。セダンと同じ全長、全高ながら、720リッターの荷室を備えるなど、使い勝手の向上も図られた。
エンジンラインナップは2種で、上級グレードに搭載される3.6リッター直噴V6と、高出力低燃費をうたう新型の3リッター直噴V6が用意される。いずれのエンジンもレギュラーガソリン仕様になることもアピールポイントだ。
(グレード概要)
テスト車の「3.6プレミアム」は、受注生産で用意されるシリーズ最上級グレード。搭載される3.6リッターV6エンジンは、最高出力311psと最大トルク38.1kgmを発生する。最上級モデルらしく、ウッドトリムの内装や、ヒーターに加えてベンチレーション機能も付いたレザーシートが標準でおごられる。BOSE 5.1chサラウンドサウンドシステム、HDDナビ、リアビューカメラなども備わり、タイヤサイズはシリーズ中唯一、19インチを装着。フロントシートからリアシートまでをカバーする広大な面積を持った「ウルトラビュー電動サンルーフ」は、オプションで選択が可能となる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
各部の作り込みは飛び切り上等というほどではないものの、装備の充実度やそれら各アイテムの扱いやすさは特筆に値する。中でも、いわゆる“インフォテイメント”分野の仕上がりは、さすがはiPodを生み出したアメリカ産モデルの得意科目と思わせるもの。センターパネル上部から現れるポップアップ式の8インチスクリーンは、ナビゲーションシステム非使用時にはその上部5分の1ほどのみが顔をのぞかせ、そこにオーディオ情報を表示するというアイデアも秀逸だ。
(前席)……★★★★
3段階に温度設定が可能なヒーターを内蔵した革張りシートは、8ウェイで調整できるパワー式。アメリカ車らしいタップリサイズながら、一方で大き過ぎる感を抱かせない点もありがたい。「実は、日本市場を念頭に置いて開発された」という右ハンドル仕様だが、これもポジション的に一切の違和感がないもの。かつてのアメリカ車にありがちだった「ペダルで合わせるとステアリングが近い」という印象も、このモデルでは全く感じさせられない。
(後席)……★★★
セダンと同様の分割可倒機構が与えられたリアシートは、その着座感もスペース上の印象も、やはり「セダンと同様」がその基本。すなわち、この点では「スタイリングが好みだからセダンではなくこちらを選ぶ」というユーザーにも高い満足度を提供してくれる。一般にサンルーフの恩恵は、前席よりもむしろ後席でより強く味わえるものだが、それはこのモデルにも当てはまる事柄。電動シェード付きの大型ガラスサンルーフは、開放感を大きく上乗せするのには、なかなか有用なオプションアイテムだ。
(荷室)……★★★
ラゲッジスペースは、思ったほどに広くはない。いや、セダンと同じリアドアを用い、前傾の強いテールゲートを備えるというルックス優先のデザインからすれば、「思った通りに広くない」と表現をした方がよいかもしれない。しかしここは考え方だ。いかにステーションワゴンのユーティリティがセダンより高いとはいえ、相手がミニバンやSUVとなればやはりそこでは分が悪い。であるならば、ワゴンの荷室はあくまでも”夢を運ぶためのスペース”と割り切るのもまた一興。なお、全開時の高さを好みの位置にメモリー設定できる、パワーゲートは標準装備となる。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
搭載するのは3.6リッターの直噴V6エンジン+6段ATという組み合わせ。およそ1.9トンと車両重量がやや重いこともあり、走り出し時点でのパワフルさはさほど感じない。が、アクセル踏み込み量を増やしてエンジン回転を高めると、パワー感が加速度的に高まる印象。すなわち、意外にも“高回転型”の傾向を示すのがこのモデルの心臓なのだ。100km/hクルージング時に1800rpmとなるギア比を持つATは、アメリカ車の例に漏れず、日本の環境下でも違和感を覚えないシフトスケジュールの持ち主。ただし、中間加速時のキックダウンのタイミングは、もう少し早めの設定が好ましい。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
アメリカ車、ということでやはり懸念を抱く人が多いかも知れないこの項目。しかし、実際に乗ってみればそれは杞憂(きゆう)に過ぎなかったと、ほとんどの人はそう納得するはずだ。率直なところ、やはりボディのつくりの違いか、振動の減衰やノイズのこもり感は、セダンに対して多少のビハインドを感じる。けれども、サスペンションの動きはそれなりにしなやかだし、素直なハンドリングの感覚にはやはりFRレイアウトの採用や、ほぼ50:50という前後重量配分が功を奏しているという実感が得られるのだ。ただし−−これは3リッターモデルにもセダンにも共通する印象だが−−ブレーキのペダル踏力に対する減速Gの立ち上がり感は少々物足りない。もう少しガシッと信頼感に富んだ効き味が欲しい。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:河村康彦
テスト日:2010年4月15日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2010年型
テスト車の走行距離:4529km
タイヤ:(前)245/45ZR19(後)同じ(いずれも、コンチネンタル ContiSportContact3)
オプション装備:ウルトラビュー電動サンルーフ(25万2000円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(5):山岳路(3)
テスト距離:310.2km
使用燃料:43.18リッター
参考燃費:7.2km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。