第129回:「ダチア・ロガン」な携帯電話で人生が変わる!?
2010.02.13 マッキナ あらモーダ!第129回:「ダチア・ロガン」な携帯電話で人生が変わる!?
「iPhone」にしたいけど
使っていたドイツブランド・中国製携帯電話の電池がピンチになった。1本メールを打つだけでガクッと充電インジケーターが減る。まだ購入して2年というのにだ。交換電池をサードパーティ製も含めて探したが、今やイタリアの多くの電気店で売られているのはノキアとサムスン用のみだ。
ここで今どきの多くの人は、「iPhone」購入を考えるところだろう。ボクもそう思って、さっそく携帯ショップに駆け込んだ。
あるイタリアの通信事業者によるiPhone 3GS(16GB)用の最安プランは、初回299ユーロ(約3万6000千円)。それに毎月29ユーロ(約3500円)×2年契約である。
ヘビーユーザーなら元がとれるのかもしれないが、ボクの日頃の携帯使用モードからすると、ちと割りに合わない。すでにネットブック用USBキーに円にして月額約1200円かけているし。
それから言い忘れたが、ボクがイタリアで使っている携帯電話は、プリペイド方式である。12年前に初めて買った携帯に付いてきたSIMカードを、代々の携帯電話に入れ替えながら、ずっと使ってきた。ボクが特殊なわけではない。欧州委員会の調査によると、イタリアでは携帯ユーザーの実に76%がプリペイド携帯で済ませているのだ。
以上のようなことから、契約制のiPhoneにする勇気がわかず、ショップをあとにした。
拡大 |
電池より安い!
そうして家に帰ったボクの目に入ったのは、女房が6年前にイタリアで初めて購入した携帯だった。
「いちばん操作が簡単で安いやつ」という条件で店員に相談したら、「ほいっ」と出してきてくれたもので、ノキア製の「1100」というモデルである。ノキアはフィンランドの会社だが、製造国はドイツと記されている。国鉄時代の101系電車のようなオレンジボディで、ディスプレイはモノクロ。カメラは付いていない。だがこのケータイ、とにかく電池の持ちが良い。公称連続待受時間400時間が限りなくホントに近いのだ。
羨ましくなったボクは家電量販店に飛んで行き、現行のノキア製最安携帯を探した。すると価格は29.9ユーロ(約3600円)だった。1100とは違い、もはやカラーディスプレイだったりと、結構立派になっている。ふたたび通勤電車でたとえれば「101系」からJR東日本「E233系」になったような感じである。
そのときだった。店員のお姉ちゃんが、別の見本を陳列棚にセットし始めるではないか。サムスン製である。女房のノキア同様カメラは付いていないが、なんと特価19.9ユーロ!(2400円)ときた!
おいおい、交換電池買うより安いじゃないか。待受時間も450時間だという。デザインもブラック基調で、けっして悪くない。
「早く出しときなよ」と姉ちゃんを責めると、相手は「人気で品切れになって、今再入荷したとこよ」と面倒くさそうに答えた。ものは試し。ボクは自分にとって初めての韓国ブランド携帯を購入して帰った。
ちなみに購入直後にテレビニュースを見ていたら、インド携帯電話市場の過熱のリポートが流れて、「所得が限られた人たちに人気なのは、円にして3500円台」と紹介された。「ボクのは、それより安いのかよ」と少々複雑な気になった。
それはともかく、購入後3週間経過してどうか?
電源を極めてまめに切っていることもあり、3週間経過しても電池の残量表示はひと目盛り減っただけで、いまだ一度も充電していない。永久機関が入っているのかと思ってしまう。
最大のチャームポイントは、手ごろな価格からくる気楽さだ。たとえカバンの中に他の物とジャラジャラ入れても、キズを気にしなくて良い。また以前ミラノで、不法滞在外国人の子供スリ集団に多機能携帯を盗まれた経験のあるボクである。たとえこれなら盗まれても(SIMカード再発行手続きの面倒くささはあるけど)悔いは少ない。
ついでにいえば、これからこうした格安携帯がヨーロッパに出回るようになったら、何個か買ってその日の気分でSIMカードを差し替えて持って歩けば面白いのではないか? とボクはひそかに期待している。
拡大 |
あの伝説の人も書いていた!
最低限のモノで済ませる気楽さに目覚めたボクは、ついでに我が家の体重計も変えることにした。これまで使っていたのは、足でスイッチを入れ、スタンバイ表示になるのを待ってから乗る、という典型的なデジタル型だ。しかしガソリンスタンド景品の安物ゆえか、乗ってからもデジタル表示がしばらく落ち着かない。そのうえ電池が9ボルトの四角いやつで、イタリアではえらく高い。
そこで昔ながらのバネ式のものをドイツ(といっても当地製ではなかろう)のスーパーで購入して帰ったところ、これが便利。日本の高機能体重計のように体脂肪などわかるはずもないが、乗れば即座に体重がビヨーンとわかる。ボクにとっては毎朝晩使うものゆえ、その速さが実に快適だ。スーツケースの重さを量るときも、いままでのようなガラス製ではないので容赦なく載せられるのも嬉しい。電池も要らない。
この勢いで、クルマも単純なモデルにすると、もっと人生楽になるかもしれないと思えてきた。そういえば、以前自動車雑誌『CAR GRAPHIC』に故ポール・フレール氏がこんなことを書いていた。
某プレミアムブランドのトップモデルを手に入れたものの、納車以来マイナートラブル続きで、ほとんど修理工場入りしているという知人がフレール氏にこうボヤいたというのだ。
「これなら“ロガン”のほうがいいかも」
すでに多くの読者がご存知と思うが、「ロガン」とはルノー・グループでルーマニアを本拠とするダチアが造る低価格車である。
事実、そう思う人が多くなっているのかもしれない。ロガンとさらに安い「サンデロ」を合わせたダチア車は昨2009年、ヨーロッパで33万2000台が売れた。この数字は「ルノー・メガーヌ」(27万台)を遙かに超えるもので、「ルノー・クリオ」(38万台)に迫る勢いだ。
そういえば我が家の近所のおじさんも、定年を機にローガンに乗り換えた。彼のすがすがしい顔は退職+ロガンのシナジー効果によるものかもしれぬ。
ところで先日、パリでコリアン料理店に入った。もしやと思い、“携帯界のダチア”「サムスンGT-E1800」をさりげなくテーブルに置いてみた。が、最終的に、己の卑しさを恥じた――サービスの一皿が追加されることは、ついぞなかったのだ。
「日本車で乗りつけると鉄火巻1本サービス」なんていうSUSHIバーがないことを思えば当然だよな。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第944回:こんな自動車生活は最後かもしれない ―ある修理工場で考えたこと― 2026.1.15 いつもお世話になっている“街のクルマ屋さん”で、「シトロエン・メアリ」をさかなにクルマ談議に花が咲く。そんな生活を楽しめるのも、今が最後かもしれない。クルマを取り巻く環境の変化に感じた一抹の寂しさを、イタリア在住の大矢アキオが語る。
-
第943回:スバルとマツダ、イタリアでの意外なステータス感 2026.1.8 日本では、数ある自動車メーカーのひとつといった感覚のスバルとマツダだが、実はイタリアでは、根強いファンを抱える“ひとつ上のブランド”となっていた! 現地在住の大矢アキオが、イタリアにおけるスバルとマツダのブランド力を語る。
-
第942回:「デメオ劇場」は続いていた! 前ルノーCEOの功績と近況 2025.12.25 長年にわたり欧州の自動車メーカーで辣腕(らつわん)を振るい、2025年9月に高級ブランドグループのCEOに転身したルカ・デメオ氏。読者諸氏のあいだでも親しまれていたであろう重鎮の近況を、ルノー時代の功績とともに、欧州在住の大矢アキオ氏が解説する。
-
第941回:イタルデザインが米企業の傘下に! トリノ激動の一年を振り返る 2025.12.18 デザイン開発会社のイタルデザインが、米IT企業の傘下に! 歴史ある企業やブランドの売却・買収に、フィアットによるミラフィオーリの改修開始と、2025年も大いに揺れ動いたトリノ。“自動車の街”の今と未来を、イタリア在住の大矢アキオが語る。
-
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達― 2025.12.11 イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。
