ダイハツ・タントエグゼG(FF/CVT)/カスタムRS(FF/CVT)【試乗記】
広〜いスキ間商品 2010.02.08 試乗記 ダイハツ・タントエグゼG(FF/CVT)/カスタムRS(FF/CVT)……130万6250円/184万4190円
ダイハツの軽乗用車シリーズに、新顔が加わった。「タントエグゼ」は、「タント」に迫る室内容量とヒンジ式ドアを持つ、ありそうでなかったトールワゴンだ。
タントとは別モノ
「タントエクゼ」は「ミラ」に対する「ミラココア」、「ムーヴ」に対する「ムーヴコンテ」と同様の“タントをベースにした派生モデル”という位置づけだ。しかし、実際には内外装がまったく別デザインであるだけでなく、自慢のピラーレススライドドアを省くなどボディ構造から異なるから、これをタントベースといっていいのか……という疑問も残る。
もっとも、考えてみればミラとココア、そしてムーヴとコンテも内外装はそれぞれが専用デザインで、プラットフォームは対照的にミラからタントまで全車共通である。だから、エグゼが「タント」という名を冠する理由はベースモデルうんぬんより、1.7mオーバーという全高にあるのだろう。全高1.5m級がミラ、1.6m級がムーヴ、1.7m級がタント……というブランドの戦略のようだ。
完全に子育て世代をターゲットとしたタントに対して、エグゼはそれより若い世代をねらって、リアドアをスライド式から一般的なスイング式にし、シートも多様性より座り心地を優先したところがキモ。つまり、子供がいる生活のための特化機能を省くことで、初代タントあるいは「ワゴンR」などのハイトワゴンのユーザー層を取り込もうというわけだ。
タントとの差別化はかなり細部にわたる。内外装デザインがタントとまったく別物なのは冒頭にも書いたが、Aピラーを寝かせて全高も20mm減、シートも座り心地を重視して厚く大型化し、後席にスライド機構も追加。さらにエグゼ最大の売り装備として、インテリアに妖しく光るブルーLEDのイルミネーションをそこかしこに埋め込んでいる。エグゼのシートは確かに心地いい。ムーヴコンテにも似て、ひと昔前のフランス車のように柔らかいタッチで、走り出しても見た目以上にホールド性がいい。
美点は後席のつくりと軽快な走り
フロントがセパレートシートとなって、今回乗った上級の「G」と「カスタムRS」では、その間に小ぶりなセンターコンソールがあつらえてある。そのコンソール上面のせっかくの一等地がイルミネーションとそのスイッチで占拠されているのには少しばかり面食らうが、残ったところに小さいながらも収納スペースが確保されているから、ケータイやオーディオプレーヤーなどの小物置き場としてはそれなりに重宝する。デザイン重視のエグゼのダッシュボードには使いやすい収納が意外に少ないからだ。
また、スライドドア廃止でフロア高を下げられたことで室内高はタントより大きい。かわりに凝ったリアシートのせいで、後席レッグルームはタントより減っているが、いずれにしても「こんなに要らないよ」というくらいに広い。後席で身長178cmの私が完全に足を伸ばしてもまだ余裕があるし、天井は手が届かないくらい高い。
エグゼが自然吸気エンジンでもまずまず活発に走るのは、スライドドア廃止によってタントより大人ひとり分くらい軽くなっているからだろう。自然吸気のGで870kg、カスタムRS(FF)で920kgという車両重量は、ワゴンRやムーヴと大差ない。ただし、動力性能が余裕たっぷりとはいえない自然吸気だと、どうしてもスロットル開度が大きくエンジンを回し気味に走ってしまうので、ダイハツのインプットリダクション式CVT特有の高周波音が耳につく。これがエンジン自体に余裕があって低回転で走れるターボだと、CVTノイズもあんまり気にならないのだが。
アシはカスタム系がいい
乗り心地は、高ハイトタイヤを履くGでも正直いって硬い。というより、今回の試乗車でいうと、扁平タイヤを履いてフロントにスタビライザーを入れたカスタムRSのほうが、総合的な乗り心地は快適だった。いかにサスペンションチューン技術が進んだとはいっても、この特異なディメンションのボディをスタビなしで安定させるには、ある程度まで引き締めないと成立しないんだろう。そうやってチューンそのものが硬めのGではタイヤ(145/80R13)が負けてしまうシーンが少なくなく、ときおりグネグネと不自然な挙動も出てしまう。その点、クルマの動きに統一感のあるカスタムRSのほうが、速い遅い以前に、クルマに弱い人でも酔いにくく、総合的に快適である。
まあ、「パレット」ではこうした乗り心地やハンドリングの不満はあまり感じなかったから、シャシーチューンはスズキのほうが最近は上手い気がする。Gでも14インチにインチアップしてもう少し剛性感のあるタイヤを履けば改善される可能性もあるが、残念ながら純正オプションにその設定はない。カスタム用の14インチを取り寄せるか、あるいはアフターマーケット品を履かせるか……。
とにかくタントやパレットといった背高大容量系の驚異的に広いインテリアを一度見てしまうと、そこに抗えない魅力があるのは確かだ。その天井の高さが実際にはムダなもので、背の高さは重さや空気抵抗に直結して燃費に不利だとしても……だ。タントやパレットの広さに感動しつつ「でもスライドドアはうっとうしい」なんて躊躇していた人も、これで迷う必要はなくなった。それにしても「ここがこうだったら……」なんて本当に細かいツッコミや注文をすべて吸い上げて、スキ間をとことん埋めてしまう日本の軽自動車世界は、素直にすごい。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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