第102回:スーパー店頭に「ポール・フレール」仕様登場!?
2009.08.01 マッキナ あらモーダ!第102回:スーパー店頭に「ポール・フレール」仕様登場!?
いい加減なイラストはダメよ
日頃きわめて温厚なことで知られるボク(当社比)だが、唯一許せないものがある。 それは「いい加減な自動車の絵」である。図1は、運転免許保持者の大人に、ただ一言「クルマの絵を描いて」と言って作画させたものだ。
何も指示していないにもかかわらず、窓が先代「フォルクスワーゲン・パサート」風の6ライトスタイルになっていたり、偶然にも今ふうの超偏平タイヤになっているのには感激。リアから描き始めたら、フロントが紙に収まらなくなってしまったのはご愛嬌……だが、ドアの取っ手位置が、前後とも前に寄っている。さらに、前ドアがフロントフェンダーに喰い込んでいる。よくある素人が描く自動車画そのものである。
ボクが知る、こうしたスタイルに限りなく近いクルマは、戦後ルノーの「4CV」(写真1)だが、それでも後方ドアは前ヒンジだ。前フェンダーも、膨らみをドアまで引きずってはいるものの、フェンダーの切り欠きとは干渉していない。
普通の人が、どのようにクルマの絵を描こうと勝手だ。だが、情けないのは、結構名の知れたイラストレーターでも、ときとして風景画の端にこうしたいい加減なクルマを描き、都会のド真ん中の個展で高額で売っていたりすることである。
絵本などにもこうした謎のクルマは登場する。こういう子供騙しともいえるクルマの絵が溢れていては、未来のカーデザイナーは育たない。と、ボクは危惧して腹をたてている今日このごろである。
だから逆に、妙にクルマを正確に描き込んだ絵本を発見すると、思わず作者に連絡をとってみたくなる。
怪獣ではなく恐竜の模型、ぬいぐるみではなくリアルな動物のおもちゃのほうが、子供の教育上良い。自動車産業の明るい未来のためにも、子供にはある程度リアルなクルマが描かれたものを与えたほうが良いに違いない。
まあ、そう言うボク自身は、仮に「クワガタとゴキブリを正確に描きわけよ」といった問題が出た場合、かなり怪しい作品になりそうだが。
イカす遊具「未来の乗り物型」
子供向けといえば、電動遊具も忘れてはならない。商店街の隅やデパートの屋上などに置かれていて、コインを入れると、一定時間揺れたり、明かりが点滅したりするものだ。
残念ながらイタリアでは、自動車型をした電動遊具が街から少しずつ消えている。かわりに本欄で少し前にお伝えした(第96回)ような、日本のアニメキャラクターを模した乗り物が大勢を占めるようになってしまった。
いっぽうでドイツやスイスでは、子供騙しではない、マジメな遊具のデザインが今も残っている。その1タイプが、題して「未来の乗り物型」である。
写真2は、エレクトロ・モビル・テヒニク(EMT)というドイツの会社が製作したものだ。同社の本拠地は、1990年まで西ドイツの首都だったボンの南にあるラウバッハというところで、約30年前の創業である。現在はメルクールという別の会社の傘下にあるが、昔も今もドイツの安全規格であるTÜVに適合した製品群を売り物にしている。
今となっては大阪万博時代を彷彿とさせるものの、子供に媚を売らぬそのデザインは、なんとも潔いではないか。
イカす遊具「リアル派」
ゲルマン圏における、もうひとつの遊具デザイン傾向は、「リアル派」である。その最たるものを、スイス南部ベリンゾーナで発見した。それが写真4以下である。
製造年度は不明だが、そのV12エンジンやコクピットに描かれた「24 heures du Mans」の文字からして、往年のルマン・レーサー「フェラーリ250 TR60」を模したものと思われる。
置いてあったのは、何のことはないスーパーマーケットだ。正確に言うと地元COOP(生協)の店頭である。買い物客や店員の不審がる視線を感じながら、“車両”と店のドアの間の狭い空間に入ってみると、リアにはモデナの仮ナンバーを示す「PROVA MO」の文字が入っていた。これは明らかにフェラーリだ。
コドライバーも乗っている。その少年の顔つきといい顔色といい、クルマと同じ時代のイカす少年そのものである。腹でコインを受け止める構造が、これまた賞金王のようでニクい。ちなみに「(通常1フランのところ)2フランを入れると2倍の時間作動します」と書かれている。
しかしながら、このリアルさ。本物志向である。製作した人物は、かなりのエンスージアストに違いない。
1980年代初頭の日本で「お客様に出せるラーメンです」という、高級ラーメンのCMキャッチがあった。そのノリでいけば、「ポール・フレール氏にもおすすめできる遊具です」といったところだ。なにしろ彼は250TRに乗って1960年ルマン24時間レースで優勝しているのだから。もし本人がご存命なら、「ポール・フレールモデル」と改称して、クルマ好き子供育成促進のために普及できたのに、と思うと惜しい。
その反応は? といえば
ただ哀しいことに、ボクがその生協にいた30分間、そのルマン・レーサーで遊ぶ子供はひとりも現れなかった。そのアンティークな雰囲気に、今の子供は少々ビビるのに違いない。
帰り際、ふたたび背後から乗っているレトロ少年を眺めてみた。
その姿は「ボクとドライブしようぜい?」
と、買い物帰りのおばさんを誘っているようで、どこか悲しげだった。
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA=写真=大矢アキオ、RENAULT)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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