第74回:あぁピニンファリーナ! 日本のイタリア化について思うこと
2009.01.17 マッキナ あらモーダ!第74回:あぁピニンファリーナ! 日本のイタリア化について思うこと
カロッツェリアの消滅
大晦日、イタリア各地でカウントダウンのイベント準備が進むなか、この国の自動車産業にとって歴史的なニュースが流れた。その発信源はピニンファリーナである。創業者一族が株式の大半を3月までに手放すことで銀行団と合意したのだ。また現在行っているアルファ・ロメオ(ブレラ/スパイダー)とフォード(フォーカスCC)の受託生産契約を2011年以降更新しないことも明らかにした。
いっぽう、2008年パリショーで発表した仏ボロレ社との電気自動車生産計画は続行する。比較的堅調に収益を上げているデザイン及びエンジニアリング業も、今後の推移を見守りながら継続することとなった。
いずれにせよ、1930年以来79年間続いた名門カロッツェリアの創業家支配に終止符が打たれるのだ。
2008年初めにはベルトーネのカロッツェリア部門が破産した。これで、イタリアから大メーカーの委託を受けて一定規模でシリーズ生産できるカロッツェリアは、すべて消えることになる。
ピニンファリーナの従業員数はグループ全体で約3000人だ。日本の関東自動車工業の従業員数は約5700人だからピニンファリーナよりも大きいが、デザインから生産までという業務テリトリーでいえば、「関東自動車がトヨタ車の生産をやめてしまう」のに等しい。関東自動車製「センチュリー」ファンのボクとしては縁起でもない例えでだが、日本の自動車産業も一歩間違えば、イタリアの二の舞になりかねないということだ。
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ものづくりからの離脱
少し前に本連載で、「このままではイギリス化する」として、OEM版が多い日本の自動車界を嘆いたが、日本全体を眺めると「イタリア化しているな」と思う事象がたくさんある。
たとえば、ものづくりからの離脱である。それを知るには、「オリベッティ」が良い例だ。戦前戦後にわたってタイプライターをはじめとするモダーンなプロダクトで世界の工業デザイン界を震撼させた同社だが、電子化に乗り遅れたのを機会に戦線を徐々に縮小せざるを得なくなった。
やがて旧イタリア電信電話公社系であるテレコムイタリアグループ入りし、オリベッティは同グループを統括する持ち株会社の名称になってしまった。日本を代表する製造業のいくつかも、最近はテリトリーの集中と選択を進めている。いっぽうで、グループ内の保険や損保、銀行といった金融部門に進出・強化してきた。このままだと、オリベッティ同様、ものづくりからどんどん離れていくのではないか。
同時に、その是非はともかく経営統合や提携が進むと、イタリア自動車産業のように(ランボルギーニを除いて)フィアット系だけ、という状態になってしまうかもしれない。「アウトビアンキ」「インノチェンティ」といった小粒でも個性的なブランドは軒並み消えてゆき、ファンを失望させた。
その先にあるものは、フィアットが過去に犯した過ちと同様、競争の鈍化による製品開発力の低下である。クルマの「フェラーリ」、オーディオの「バング&オルフセン」のような、小さくても景気やトレンドに左右されにくいカリスマ的ブランド力が日本に育っていなかったのが、今になって悔やまれる。
労働契約のありかた
労働市場に関しても、日本はイタリア化してきている。日本では今、派遣労働のあり方が大きな問題となっているが、イタリアでは派遣という仕組みはあまり普及していない。しかし1996年以降、雇用形態のフレキシビリティが高められたこともあり、有期の契約社員制が浸透している。
2008年暮れに発表された数字でも、イタリアでは12月31日をもって約30万人の契約が打ち切られたという。また契約労働者のうち、ボクのまわりを見回しても、「契約が打ち切られたから、前の職場にはもういないよ」といった話をよく聞く。最初、イタリアに来たときは驚いたものだが、最近は日本も似たような状態になってしまった。
サービス業もしかりである。契約期間が短いとスキルの向上が望めなくなる。ボクが住む地元の観光案内所で働く女性スタッフのなかには、ガイジンのボクよりも街に関する知識が少ない人もいる。「たとえ遠い街の出身でも、仕事にありつければ」ということで働き始めることも背景にあるのだが、いつまで働けるかわからない職場の仕事など、覚える気力がわかないのも事実なのである。
日本のサービス業界は今も高水準だと信じているが、カメラや家電の量販店の店員さんで商品知識が年々薄くなっているのを目のあたりにすると、近い将来結構危ういかもしれない。
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どうする、自動車雑誌
ついでにおせっかいながら、日本の自動車雑誌はどうなっちゃうのだろうか。
自動車専門誌『NAVI』の創刊当初だったら、今ごろ「自動車部品産業で働いている群馬あたりの日系ブラジル人家族を追跡取材」とか「若手編集部員を派遣会社に登録」といった企画を敢行していたに違いないと考える今日このごろである。
それはともかく、イタリアの自動車雑誌といえば、クアトロルオーテ誌をはじめとする著名数誌を除けば、あとは1〜3ユーロ台で買えるお手軽な隔週誌が売れ筋である。
お隣のフランスにおける特色は、「シトロエン」もしくはシトロエンの「2CV」といった、ブランドやモデルをきわめて特化した専門誌が比較的堅調に生き延びていることだ。そうした編集部は僅かなスタッフによる一族経営である。
日本の自動車誌に危機感をもつ人は多いが、低価格化・専門化・編集といった各方面でのシェイプアップを進めれば、まだまだ望みはあるかもしれない。
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好ましい「イタリア化」も
新年早々せちがらい話になってしまったが、「日本のイタリア化」で好ましいこともある。営業時間の短縮傾向だ。
今年の元日、ある日本の大手家電量販店は 長年続いた元日営業をとりやめた。大手百貨店数店も近いうちに、以前あった定休日を復活させるという。いっそのこと、イタリアのように1時から4時まで昼休みをとっても、みんな慣れてしまえば、それほど困らないと思う。
日本の郊外のDIYや家電店はいつでも開いているから便利な反面、昼ごろ行くと広い店舗にボク以外誰もいなかったりする。なのに蛍光灯は煌々とともっていて、店員さんもちゃんといる。
土曜日の午後や日曜日の定休があたりまえのイタリアで暮らしている身からすると、もったいないなあと思う。「その電気代分値引くとか、せめてポイント加算してくれヨ」と考えてしまう。
ついでに日本でも夏休みをドーンととり、「誠にすみませんが夏季休業とさせていただきます」ではなく、イタリアの商店のように「夏休み行ってきまーす」といった明るい貼り紙が出されるようになれば、日本イタリア化計画は完了したといえよう。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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