スマート・フォーツーカブリオBRABUSエクスクルーシブ(RR/5AT)【試乗記】
ワルガキふう高性能モデル 2012.01.10 試乗記 スマート・フォーツーカブリオBRABUSエクスクルーシブ(RR/5AT)……290万円
「スマート・フォーツー」恒例の限定車「BRABUS(ブラバス)エクスクルーシブ」に試乗。パワーが44%上乗せされた、最新オープン・ブラバスの乗り味は?
待望のオープン・ブラバス
2011年7月に限定発売されたのが、最新の「スマート・ブラバス」だ。本国だといつでも買えるレギュラーモデルだが、日本では先代のころからワンロット何百台かの"お取り寄せ"ふうに扱われるのがならわしになっている。今回は2010年5月以来の、現行2代目になってからは3度目の"おかわり"で、限定200台のクーペのほかに、待望のカブリオが50台入ってきたのがニュースである。
クーペかオープンか、と聞かれたら、スマートの場合、そりゃオープンのカブリオに決まっていると答える。日本でスマートの売れ行きがパッとしないのは、要は2人しか乗れないからだと思う。でも、カブリオならいいではないか! 「オープン2シーター」が2人乗りで文句を言われる筋合いはない。
このオープン機構も秀逸だ。手動のロック/アンロックは不要。ボタン操作ひとつでソフトトップは尺取り虫のように開く。両側窓の桟は残るから、厳密にはフルオープンではない。しかし、一度止まった位置で2座コクピットの頭上はすっかり青天井になる。もう一度ボタンを押し直すと、リアウィンドウを含むすべてがボディー後端にストンとストリップダウンする。ソフトトップのレールになっていた左右の桟も邪魔だと思ったら、簡単に外せてトランクリッド裏側の収納スペースに入れられる。
でも、ぼくが初代スマートのカブリオを持っていたとき、そこまでやることは0に近いほどなかった。むしろこのソフトトップは、夏場、10cmくらい開けて走ると風がちょうど顔のあたりに降りてきて恩恵大だった。そもそも熱源を後ろに置くリアエンジンだから、並のクルマほど暑くないのである。
迫力のパワートレイン
たまたま借り出しの時期が重なって、「アストン・マーティン シグネット」と一緒に走った。シグネットの直後に乗り換えると、エンジン音が後ろから聞こえる。RRなのだから当然だ。シグネット(つまり「トヨタiQ」)の1.3リッター4気筒と比べると、エンジンの乾いた音質がちょっと軽自動車っぽい。というか、後ろから聞こえるという点も含めて、「三菱i」っぽい。それも一理あって、2代目スマートのエンジンは三菱の1リッター3気筒である。これにターボを付けて、思いきり武闘派に振ったのがブラバスだ。
1年2カ月ぶりに入ってきた最新の限定ブラバスは、さらにパワーを98psから102psにチップチューンしている。今のスマートは、71psのノーマルだって十分に速いのだからブラバスの速さたるや推して知るべしだ。ハイパワーFFのように前輪が路面をかきむしるようなことはないから、意外や“激しさ”は感じないが、後ろからドーンと押し出されるフル加速はやはり迫力だ。
2ペダルの5段自動MTは、クラッチを強化し、4速までのシフトスピードを20%速くしたという。パドルでシフトダウンするときの自動ブリッピングの回転合わせも迫力だ。車重はクーペより20kg重い880kg。遠くさかのぼって、1964年に出た「ポルシェ911」は、車重1080kgで130psだった。馬力荷重は8.30kg/psである。ブラバスのクーペ(8.43kg/ps)だと、おちおちしていられなかったのである。
ブラバスならでは
ノーマルより4割以上増強されたパワーに対処して、サスペンションは体感的にも大幅に強化されている。タイヤも後輪は225/35R17だ。乗り心地は硬い。不快な突き上げはないが、かなり揺すられる硬さだ。もう少ししなやかだと、路面と会話ができてうれしいはずだが、これだけパワフルで、これだけホイールベースの短い、しかも全高の高いリアエンジン車を安定させるには、これくらい足腰を固めないといけないのだろう。
アンチスピン制御のESPもかなり安全マージンを見越したセッティングで、コーナリング中にスロットルを絞る"介入"は、わりと早めで、強度も強い。絶対スピードはブラバスほど高くないだろうが、ワインディングロードではノーマルのほうがのびのびと走れてファン・トゥ・ドライブだと思う。
ノーマルには“全着”のアイドリングストップ機構は付かない。そのかわり、オートクルーズが装備されている。「エーッ、シティーカーじゃなかったの!?」という感じもするが、そんな「やっちまったな」的な破天荒さもブラバスならではだ。程なくEVモデルも出ようという、見るからにエコカーパッケージングのマイクロカーに、こんなワルガキふう高性能モデルが残っていることがそもそも痛快でおもしろい。"同調圧力"のニッポンでは考えられない品ぞろえである。
しかし、発売からすでに4カ月半、残念ながらこのカブリオはすでに完売、クーペも残りわずかだそうだ。
(文=下野康史/写真=荒川正幸)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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